表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

占いと先生

 《ガララッ》


 ノックもせずに、占い部の扉を開ける者が一人。


 「やっほ~、元気~? 」


 かなり馴れ馴れしい挨拶を、部室にいるであろう不良少女にする。


 「ノックもなしにこの扉を開けるたぁいい度胸だ・・・って、なんだ、先生かよ」


 「は~い、先生ですよ~」


 甘ったるい声でそう言って、不良少女にハグを試みようとする先生。


 「うぉっ! だからくんじゃねえ! 毎度毎度やめろって」


 不良少女は、先生の顔を押さえつける。どうやら二人は、以前から見知った仲の模様。


 「イタタタっ! もう、もっと優しくしてくれてもいいでしょ~」


 「あんたに優しくする義理はねぇ」


 そうキッパリと突っぱねる不良少女。


 「え~、先生に向かってそんな事言っていいんだ? へぇ~」


 含みを持たせながらそう言って、ニヨニヨする先生。


 「この野郎っ・・・ッハァ、もういい・・・」


 突っかかろうとするも、疲れた様子の不良少女は、ため息をつく。


 「あ、あれっ? おーい、いつもみたいに来ないの? そんな態度見せられると先生、調子が狂っちゃうんだけど」


 「んなもんで狂う調子なら、いつも狂ってんのと変わらねえよ・・・」


 そうやっかむ不良少女だが、いつものような覇気がない。

 そんな様子の不良少女を見て、何かを察した先生が優しく語りかける。


 「どうしたの? なんかあったの? 」


 「何もねぇよ」


 素っ気なく答える不良少女。


 「そっか、なにもないっか・・・」


 「それじゃあ・・・」


 そう言うと、先生は不良少女の後ろに回り、ギュッと優しく少女を両腕で包む。


 「あっ? 何すんだよっ」


 そんな先生を遠ざけようとするも、


 「だいじょうぶ、だいじょうぶ」


 少女を包みながら、先生はささやき、頭を撫でた。

 そして、腕を振り払おうとしていた不良少女は、打って変わって大人しくなる。


 ぽん、ぽんっと頭を撫で続ける先生に、少女は少しずつ肩の力を抜いていくとともに、ポツリ、ポツリと言葉をこぼす。


 「昨日、あたしのとこに来た奴を追い返しちまった。あいつにも悩みがあったのに、あたしは・・・」


 そう話す不良少女は、微かに震えていた。

 先生はそれに気付きつつも、わざと見ないふりをして、うん、うん、とただ頷く。


 「そっかぁ、そんな事があったのね」


 もしもね、そう前置きをして、先生は続けて語りかける。


 「もしも、あなたが昨日、その子を占っていたら、どうなっていたと思う? 」


 「・・・分かんねぇよ、そんなの」


 「そう、分からないよね? じゃあ、占わなかったら、どうなってるのかな? 」


 「・・・・・・」


 少女は何も答えない。

 そんな少女を見て、先生はより力を込めてギュッと抱きしめる。


 「大丈夫よ、あなたはすごく優しいから。人を思いやれる子なんだからきっと、その子にも、あなたの優しさはちゃんと伝わってるわよ」


 続けて先生は言う。


 「もし本当に昨日の事を後悔してるなら、こんなところに居ていいの? 」


 そう言うと、先生は抱きしめていた両腕をすっと少女から離した。


 「・・・ちっ、情けねぇところ見せちまった」


 少女は、その目元の涙を拭いながら言う。


 「そんなの、私はあなたの先生で師匠なんだから。何度でも見せていいのよ」


 先生は誇らしげに胸を張る。


 「んな事すっとまな板が目立つぞ」


 「なっ! 言ったな~、先生の気にしてる事をっ! 」


 そんなやりとりを交わす少女の表情は、さっきまでと違って、スッキリとしている。


 「・・・うん、もう大丈夫そうね。もしあれだったら久々に占ってあげてもいいのよ? 」


 そう申し出る先生。それに対して不良少女は、


 「ハッ、もう必要ねぇよ」


 といつもの調子でぶっきらぼうに断る。


 「そっか、じゃあもっと頑張りなさいよ! あなたは私の一番弟子なんだからっ」


 そう言って先生は、少女の背中をバシッと叩いた。


 「イッテ! 何すんだよっ! 」


 「ほ~ら、早く行ってらっしゃい」


 語気を強める不良少女を前に、ヒラヒラと手を振る先生。


 それを見た少女は、返事代わりだと言わんばかりにチッと舌打ちをして、部室を後にする。ただ、その去り際に、


 「・・・ありがと」


 と、小さく小さく呟いた。


 そして、少女のタッタッタっと廊下を駆けていく足音を、先生は聞き届ける。そして、


 「さ~て、悩める弟子も送り出した事だし、鍵閉めてか~えろっと」


 と部室に残された先生は、やれやれ、と言った様子で一人呟いた。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ