占いと先生
《ガララッ》
ノックもせずに、占い部の扉を開ける者が一人。
「やっほ~、元気~? 」
かなり馴れ馴れしい挨拶を、部室にいるであろう不良少女にする。
「ノックもなしにこの扉を開けるたぁいい度胸だ・・・って、なんだ、先生かよ」
「は~い、先生ですよ~」
甘ったるい声でそう言って、不良少女にハグを試みようとする先生。
「うぉっ! だからくんじゃねえ! 毎度毎度やめろって」
不良少女は、先生の顔を押さえつける。どうやら二人は、以前から見知った仲の模様。
「イタタタっ! もう、もっと優しくしてくれてもいいでしょ~」
「あんたに優しくする義理はねぇ」
そうキッパリと突っぱねる不良少女。
「え~、先生に向かってそんな事言っていいんだ? へぇ~」
含みを持たせながらそう言って、ニヨニヨする先生。
「この野郎っ・・・ッハァ、もういい・・・」
突っかかろうとするも、疲れた様子の不良少女は、ため息をつく。
「あ、あれっ? おーい、いつもみたいに来ないの? そんな態度見せられると先生、調子が狂っちゃうんだけど」
「んなもんで狂う調子なら、いつも狂ってんのと変わらねえよ・・・」
そうやっかむ不良少女だが、いつものような覇気がない。
そんな様子の不良少女を見て、何かを察した先生が優しく語りかける。
「どうしたの? なんかあったの? 」
「何もねぇよ」
素っ気なく答える不良少女。
「そっか、なにもないっか・・・」
「それじゃあ・・・」
そう言うと、先生は不良少女の後ろに回り、ギュッと優しく少女を両腕で包む。
「あっ? 何すんだよっ」
そんな先生を遠ざけようとするも、
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
少女を包みながら、先生はささやき、頭を撫でた。
そして、腕を振り払おうとしていた不良少女は、打って変わって大人しくなる。
ぽん、ぽんっと頭を撫で続ける先生に、少女は少しずつ肩の力を抜いていくとともに、ポツリ、ポツリと言葉をこぼす。
「昨日、あたしのとこに来た奴を追い返しちまった。あいつにも悩みがあったのに、あたしは・・・」
そう話す不良少女は、微かに震えていた。
先生はそれに気付きつつも、わざと見ないふりをして、うん、うん、とただ頷く。
「そっかぁ、そんな事があったのね」
もしもね、そう前置きをして、先生は続けて語りかける。
「もしも、あなたが昨日、その子を占っていたら、どうなっていたと思う? 」
「・・・分かんねぇよ、そんなの」
「そう、分からないよね? じゃあ、占わなかったら、どうなってるのかな? 」
「・・・・・・」
少女は何も答えない。
そんな少女を見て、先生はより力を込めてギュッと抱きしめる。
「大丈夫よ、あなたはすごく優しいから。人を思いやれる子なんだからきっと、その子にも、あなたの優しさはちゃんと伝わってるわよ」
続けて先生は言う。
「もし本当に昨日の事を後悔してるなら、こんなところに居ていいの? 」
そう言うと、先生は抱きしめていた両腕をすっと少女から離した。
「・・・ちっ、情けねぇところ見せちまった」
少女は、その目元の涙を拭いながら言う。
「そんなの、私はあなたの先生で師匠なんだから。何度でも見せていいのよ」
先生は誇らしげに胸を張る。
「んな事すっとまな板が目立つぞ」
「なっ! 言ったな~、先生の気にしてる事をっ! 」
そんなやりとりを交わす少女の表情は、さっきまでと違って、スッキリとしている。
「・・・うん、もう大丈夫そうね。もしあれだったら久々に占ってあげてもいいのよ? 」
そう申し出る先生。それに対して不良少女は、
「ハッ、もう必要ねぇよ」
といつもの調子でぶっきらぼうに断る。
「そっか、じゃあもっと頑張りなさいよ! あなたは私の一番弟子なんだからっ」
そう言って先生は、少女の背中をバシッと叩いた。
「イッテ! 何すんだよっ! 」
「ほ~ら、早く行ってらっしゃい」
語気を強める不良少女を前に、ヒラヒラと手を振る先生。
それを見た少女は、返事代わりだと言わんばかりにチッと舌打ちをして、部室を後にする。ただ、その去り際に、
「・・・ありがと」
と、小さく小さく呟いた。
そして、少女のタッタッタっと廊下を駆けていく足音を、先生は聞き届ける。そして、
「さ~て、悩める弟子も送り出した事だし、鍵閉めてか~えろっと」
と部室に残された先生は、やれやれ、と言った様子で一人呟いた。