占いと委員長
※注意※
作者は占いについては素人の為、それっぽい雰囲気をお楽しみ下さい。
《コンコン》
「失礼します」
ガララっと扉を開け、占い部に入ってくる者が一人。キリリッとした表情に整った顔、そして着崩れの一切無い制服の着こなしをしている。
「あい、どちらさんで・・・ゲッ、委員長じゃねえか」
「ゲッとはなんですか? ゲッとは」
それは悪うござんした、と悪びれる様子もなく言う不良少女。
「んだけど、こんなところになんのようだよ? 占いと縁遠そうなのに」
「それをあなたが言うのね・・・」
少しあきれた様子の、委員長と呼ばれた少女。
「まあいいわ、今日は、この部室についてある噂を聞いたもので、それを確かめにきました」
「噂? 」
「えぇ、なんでもここの占いはよく当たるのだとか」
「ハハッ、誰かは知らねえが、そう言ってくれるのは嬉しいねぇ」
不良と遠い位置にあるはずの委員長からの予想外な言葉を聞き、顔を逸らす不良少女。その口元は緩んでいる。
「んで? その噂を聞きつけてここに来たって事は、委員長もあたしに占って欲しいって事だよな? 」
「そ、そうよ。何か悪いかしらっ? 」
「いんや、全然悪くなんかねぇよ。あたしはここに来た奴は誰であろうと占うからさ」
「まぁ、冷女と呼ばれる委員長が、何を占って欲しいのかは興味あるな」
ニシシっ、とからかうように言う不良少女。すると、
「ッッ! もう結構ですっ! 」
ドタドタッと部室を出ようとする委員長。
「待て待て委員長、ここで帰ったら一体何しに来たんだって話だぞ? まぁそんな怒んなって。悪かったからさ」
ほら、ここ座れよっと案内する不良少女に、しぶしぶと座る委員長。
「んで? さっそくだが委員長は何を占って欲しいんだ? 」
「・・・こ・・・い」
「こ? 何だって? 」
「だ、だから、恋占いをしてちょうだいって言ってるのよ! 」
部室にしばらくの間委員長の声がこだまする。そしてすぐに静寂が訪れると、
「こ、恋占い? あの委員長が? 」
その空気に耐えきれない様子で、不良少女は委員長をからかう。
すると、無言でガタッと立ち、顔を真っ赤にして立ち去ろうとする委員長。その背中越しに不良少女は言う。
「いいのか? あたしの占いはよく当たるらしいぞ? 」
その言葉を聞くと、ピタッと体を硬直させ、数秒間立ち止まると、くるりと向きを変えて戻ってくる委員長。
「もうここまで来たらお願いするわよ! さあ、早くしなさい! 」
吹っ切れたと言わんばかりの委員長に、
「まぁまぁ、そう焦りなさんなって」
と、飄々と諭すように不良少女は言う。そして懐からタロットカードを取り出す。
「んじゃ、このタロットで占うぞ」
「えぇ」
手慣れた手つきでカードを切っていく。そして、規則通りに裏向けて並べ、その中から一枚のカードを表向ける。
そこに描かれていたのは、死だった。
「死? 死って事は上手くいかない・・・」
みるみると表情を青ざめていく委員長に、不良少女は語りかける。
「いや、そう判断すんのは早計だぜ」
「だけど死って出てるのよ! 」
「まぁ落ち着きなって、委員長。死ってのは、全部が全部悪いだけじゃねぇ。特に恋に関してならな」
「・・・本当? 」
うるうると目元を濡らし、小刻みに震える委員長。その様子はまさに子犬のよう。
「クハッ! まさに恋する乙女だな、委員長」
そう言って茶化す不良少女。
「そ、そんな事いいから、さっさと意味を教えてちょうだい! 」
「焦んなって。だけど、説明する前に、委員長の恋について教えな。じゃねぇと、上手く伝わらねぇからな」
「うッッッ」
この不良少女に言うべきか悩む委員長。そして不良少女はそれを静かに見守る。
「・・・分かりました。簡単に説明します。告白されました。はい、以上です」
「・・・マジで? 」
「マジです」
そう言って、委員長はズズイッと顔を不良少女へと寄せる。
「はぁ~、それでどうしていいか分からずテンパった委員長は、噂で知ったあたしの占いに頼ろうってなったわけか」
「///べっ、別にいいでしょ!? そ・れ・で! 私は話したのだから、占いの死の意味を教えなさい! 」
そう言ってさらに顔を近づける委員長に、不良少女はたじろぐ。
「近ぇ、近ぇから! んなにガン飛ばしてくんじゃねえ/// 分かったからまずは座れって」
委員長のあまりの顔圧に、さすがの不良少女も動揺する。そして、気を取り直すように、委員長へ意味を教える。
「まぁ簡単に言うと、死ってのは、終了とか衰退ってのを意味してんだ」
「やっぱり良くないじゃない・・・」
「まだ説明は終わってねえよ。終わるって事は、新しい何かが始まるって事でもあんだよ」
「? 」
不良少女の言葉に、置いてきぼりにされる委員長。その様子を見た不良少女は続けて言う。
「例えば、これまで他人だった関係が終わって、新しく恋人っつう関係が始まるとか」
「つ、つまり、付き合うって事!? 」
「それは知らねぇよ。あんた自身が決める事だからなぁ。あたしの占いは、付き合えば幸せになれる、とかが分かるもんじゃねえし」
まぁでも、と前置きをして、さらに不良少女は何かを悟ったように言う。
「死っつう結果が出た時の、委員長の顔見てりゃあ、どうしたいかは分かるけどな」
それを聞き、アワワっと口元を震わせ、顔を真っ赤にする委員長。
「どうだ? 占いの結果についてはもう大丈夫か? 」
「えぇ、もう十分よ・・・」
そう言う委員長の表情は、何か憑き物が落ちたかのように、どこかスッキリとしている。
「今日はありがとう。またお邪魔させてもらうわ」
「おう、いつでも来な」
そうしたやり取りを交わし、委員長は部室を後にする。
(ま、せいぜい頑張りな、委員長)
窓越しに夕焼けの光が射したせいか、不良少女の表情は、やや紅く染まっていた。




