占いと不良少女
グラウンドで声を出して練習に励む人たちや、様々な管楽器の音色が聞こえる放課後。そんなどこにでもある風景を破壊する、怒鳴り声が響く。
「おいこらまて! 私の占いが信じられないってのか! 」
「ヒィッ! 」
ドタドタドタッ と、部室から女の子がなりふり構わないといった様子で逃げていく。
「ごめんなさいーーー!!! 」
「おい待てって… チッ! 何でいつもみんな逃げてくんだよ! マジで意味分かんねぇ」
ポツンと一人、口悪くぼやく女の子が取り残される。風貌は口の悪さにぴったりな金髪で、着崩された制服で、まさに不良といった様子。
「おい、テメエこら、何見てんだよ。おら、こっち来い! 」
「…? 」
不良は、傍にいた男の子の腕を掴む。
「テメエしかいねぇだろ! おら、そんなとこ突っ立ってねえでさっさとしろ! 」
「えぇ、何ですか一体… 」
無理矢理、女の子が先ほど飛び出した部室に引きずっていく。そのドアには、
【占い部】
という紙が貼られていた。
「んで? テメエは何を占って欲しいんだ? 」
「・・・えっ? 占いって言いました? 」
想像していたものと程遠い言葉に、キョトンとする男の子。
「なにしてんだ。ほら、さっさと言えって」
「いや、特に占って欲しい事なんてないですけど・・・」
「あぁ? さっきテメエ、この占い部の方をジッと見てたじゃねえか」
「いや、そりゃあれだけ叫んでる人がいたら見ますよ、普通は」
男の子はあきれた様子で答える。すると不良少女は、
「あぁん! 」
と、言って男の子を睨みつける。
「ひぇっ、な、何でもないです・・・」
その凄みのある不良少女の顔に、男の子は思わずたじろぐ。
「まぁいい。グダグタしてねえでさっさと言えって。なんかあるだろ? 恋だとか友達だとかの悩み事がさぁ」
そう言って催促する不良少女に、男の子はこう答える。
「あ、えーと・・・そ、それじゃあ運勢占いをお願いします」
「ほら、ちゃんと占って欲しい事があるじゃねえか。よし、運勢だな、ちょっと待ってろ」
そう言って、ゴソゴソと何かを探す不良少女。その顔はどこか楽しげだった。
「んじゃ、今回はタロットで占うぞ。テメエのこれからの運勢はっと・・・」
シャシャシャっと、手慣れた手つきでカードを切っていく。
ある程度シャッフルしたところで、不良少女は一番上のカードをめくる。
「っと、テメエの運勢は・・・ お、なかなかいいじゃねえか。恋人の正位置だ。よかったな」
そう言うと不良少女は、男の子の背中をバンバンと叩く。
「いたっ痛いですってもう・・・」
そう男の子が呟き、占い師である不良少女の方を見ると、ニコニコと機嫌が良さそうだ。
ここでしばしの沈黙が訪れる。
「・・・んぇっ? これで終わりですか? なんかもっと意味とか具体的な助言とかあるんじゃ? 」
沈黙に耐えかねて、男の子は占いの結果について催促する。
「んなもんねぇ。とりあえずなんも考えずにいたらいいんだよ。はい、以上」
不良少女は吐き捨てるように言う。
「・・・もしかして、適当に言ってるんじゃないですか? 」
そう訝しむ男の子に、不良少女は間髪入れずに、
「あぁ? テメエ、喧嘩売ってんのか? 」
と、男の子に凄みのある顔で詰め寄る。
「い、いや、そんなつもりじゃないですけど」
男の子はたまらず目線を下に逸らす。
「ちっ、とりあえず信じてりゃあいいんだよ、いい結果がでてんだから。」
「まぁそうですね。あんまり占いとか信じてないですけど」
「あぁ? 今何つった? 」
ピクリ、と不良少女の顔の青筋が反応する。
「いやいや、何もないですよ。あ、あー、明日が楽しみだなぁ」
「それでいいんだよ。ほら、分かったらさっさと帰りな」
「・・・自分が無理矢理引っ張ってきたくせに」
男の子は、ぽそっと呟く。
「あぁ? 」
不良少女は、その小さな呟きを聞き漏らさない。
「いえ、何でもないです! さよならーーー!! 」
もうこれ以上捕まってたまるかと言わんばかりの速さで、男の子は占い部を飛び出す。
「・・・やっぱ人を占うってのはいいな、うん」
一人部室に取り残された不良少女の顔はほころんでいた。最初に占った女の子と同じく、男の子も飛び出すように逃げたにもかかわらず。
一方、男の子は、
「・・・占いとか信じちゃいないけど、誰かに良いって言われるのは悪くないなぁ」
と、呟き、軽い足取りで家路についた。