第五話
ジャンルをヒューマンドラマからハイファンタジーに変更しました。内容は一緒です。
私個人としてはヒューマンドラマとして書いたところが強いですね。
そこは中庭だった。ちょうど礼拝堂より奥の空間に位置するようだ。
周囲は礼拝堂やここの所有物件と思しき白壁の建物などに囲まれているが、都市の中にあってもその広さは中々のもので、芝生は青々と、日の当たる花壇には季節の花が植えられ、ここで生活する孤児と思しき子供たちが元気に走り回る様はとても牧歌的だった。
「まるで箱庭みたいです」
私は完全に黒子モードに移行し、代わって少女が情緒たっぷりに賛辞を述べた。
すると少女の存在に気付いたらしく中庭で遊んでいた子供たちがちらほらとこちらをうかがってきた。
皆遠巻きに私たちを、主に少女を興味深く、あるいは少し警戒しながら観察している。まあいきなり知らない子が来たら誰だって驚き困惑するだろうし、少女は私が手塩にかけてお洒落させているだけあってかなりいい身なりをしている。これがもう少し庶民染みた格好だったら反応も違っていただろう。
ただその中にあって唯一私たちを警戒せず駆け寄って来る子が一人。もちろん他でもないマウ君だった。
「ルーウィさん! よかった来てくれた!」
あの、今はできれば少女の方を構って欲しいな。この状態で私が話しかけられるのはいささか恥ずかしいのだ。何と言うか、役を演じている最中に役者自身の名前を呼ばれるような感じ。職業病だろうか。
「こんにちは」
私に代わって少女が隙のない愛嬌を振りまく。が、マウ君は少女のことを一瞬見遣っただけで、他の子供たちに少女のことがよく見えるように立ち位置を変え、そのまま私の正面に立った。
「こんにちは!」
「……」
私は薄っぺらい笑顔を貼り付けたまま無言を貫いた。そしてささっと少女の背後に隠れてしまった。
「ちょっと、ルーウィさん?」
それでもマウ君は純粋で、私を追いかけて回り込んでくる。
私は少女の側面に移動して離れる。
そしたらマウ君も少女の後ろから私に近寄る。
私はまた距離を取る。
そんなことを繰り返したばかりに、私たちは少女の周りをグルグルと阿呆みたいに回る羽目になった。
すると周りで見ていた子供たちが笑い出す。
道化師の出し物を見るみたいにきゃっきゃと楽しそうに笑っている。
「わはは、何それ!」
「新しい遊び?」
「ていうかこのお姉さん誰だよ?」
その時になって私ははっと冷静になった。
ダメじゃん。気が付いたら少女より目立っているじゃん。何より照れくさくてマウ君を避けたのに、これじゃ余計に恥ずかしいじゃん……。
私は顔から火を吹いて俯いた。
「ふふふ。ぜひ、あなたからも自己紹介をしてあげてください。人形の女の子と一緒に、ね?」
祭司さまがフォローを入れる。私はもう穴があったら入りたい気分。こんなはずではなかったのにと辟易した。
「なんか……ごめんさない。マウ君」
「それはいいからさ、ほら」
マウ君は子供たちの方へ目を遣って私を促した。
本当は目立ちたくなかったのだけれど、もう今更だし観念しよう。
「えと、私はルーウィ。人形遣いをやっています。この子、この女の子が私の精霊人形、です……」
私は目が回るくらい緊張して、たどたどしく俯きがちに自己紹介をした。そして小さくタクトを振り、少女も恭しく頭を下げる。
子供たちは沈黙していた。関心を失ったとか、怪しんでいるという風でもなく、庭に迷い込んできた野良猫を観察するような顔で興味津々と私たちを見ていた。
何かこの場を和ませなければならない。あれこれと知恵を絞った結果、私は単純かつ明快な方法を取った。
「あの、じゃあ、ジャグリング。ジャグリングを、やります!」
そう言って、タクトを宙に大きく振る。
すると少女が左右に手を広げ、周囲に赤や青、黄色、緑と色とりどりの光の球が漂いだした。シャボン玉のように浮かぶそれらは少女の手の振りに合わせて、クルクルと彼女を取り囲んで回りだす。ただのジャグリングではできないようなアクロバティックで複雑な光球の軌道。それは星々の軌跡のようでもあり、妖精の舞のようでもあり。
人形遣いとしての私の得意技、光球ジャグリングだ。
マウ君も含め、子供たちが一様に目を輝かせてショーに見入っている。私も気分が乗ってきて、心地よい達成感と一種の安堵、あるいはペースを乱されっぱなしだった状態からの逆転的優越感に浸って、ますます光球のスピードを上げた。
それからは何と言うか、夢中だった。
私は仕事では「少女」を使わない。目的に応じた精霊人形を複数操っている。だからこうしてこの子がパフォーマンスをしているのを大勢に見てもらって、歓声を集めているのはある種新鮮な体験だった。
――同時に私は少女の後ろ姿に私自身を重ねた。すると少女に向けられていた歓声も、惜しみない拍手も、笑顔も、ショーが終った後に握手を求められることも、「すごかった」「きれい」と言ってもらえることも、全てが自分のことのように感じられることができた。
少女は幼き日の私の姿をしている。いくらか盛ってはいるがそれは私自身なのだ。話の飛躍を恐れず言うならば、今あの輪の中で賞賛を浴びているのは過去の私なのだ。
私の中で凍りついていた何かが溶けていくのを感じた。溶けだした何かはじわりと心にしみる。切なくて、でも気持ちがよくて。幸せだった。その瞬間の私は確かに報われていた。
精霊人形の少女に幸せな経験をさせて、それを私の中に共有する。それが私の望み。現実には叶わないことを、いや、叶わなかったことを私の分身に叶えてもらう。そのためだけに「少女」はいる。それは一種の芸術活動であり、自分への慰めでもあり、いっとう陶酔的な言い方をするならば……。
「このような素敵なものを見せてくれて、どうもありがとうございます」
私の横でショーを見ていた祭司さまが労いの言葉をかけてくれた。