過去
駐車場を出て10分が経った。周辺は見慣れた街並みが続いている。
時間はすでに6時5分。雨野と警察署に向かっていた時よりもドーム内の建物は紅く染められている。
車内で誰も口を開くことは無く、やることがない俺と雨野は外を眺め、真ん中に腰を掛けている原田はPCを操作していた。この時間帯になれば、家に帰る学生、今から飲みに繰り出すサラリーマンといろんな人たちが街中を思い思いに歩いている。見飽きはしないが、この何とも言えない静けさがむず痒かった。
車のことはよくわからないがシリンダさんはかなり運転がうまいのだろう。信号で停車するときもほとんど揺れず、ドライブテクニックとエンジンの小刻みな振動が気持ちいい。
ボーっとしているせいか眠くなってきた。
最近夜更かしが多いため授業中に睡眠時間を確保することもしばしばだ。俺はその眠気に抗わず、素直に身を委ねて墜落予想地点まで眠ろうとしていたら。
ピロン。
メッセージの着信音が俺の耳中で鳴った。電子デバイスになって以降、着信音などは周りの迷惑にならないよう装着している本人だけに聞こえる様な機能となっている。
重たい瞼を開き、シャットダウン気味だった頭を無理やり動かしてそのメッセージを開く。
差出人は、原田。つまり隣にいる彼女から。宛先は俺と雨野となっていた。
肝心の本文はかなり短い物だった。
『さっきの私たちの会話、聞かれたと思う?』
横目で彼女たちを眺める。
依然、原田の手は定期的にキーボードの上を行き来している。雨野は大きな欠伸をしながら電子パネルを操作していた。どうやら俺と同じで眠りかけていたところみたいだった。
俺は正面に座っているシリンダさんの様子をうかがいつつ、分からない、と打ち込みそれを送った。
すぐさま返信が返ってきた。
『とりあえずはこの話は保留で。あとはいつも通りでお願い』
先に目の前にある課題をさっさと終わらせようということなのだろう。
そこでメールのやり取りは終了し、また車内という決して広い空間ではないが各々で時間をつぶしていた。窓の外をみると建物は少なくなり、ドームの外に出られるゲート付近に来ていた。
ここには何度も来ているがすべて課題関連だ。一般人はこのあたりの立ち入りを禁止されており、警察や特例のマスコミでも許可なしではドームから外に出ることはできない。
一般人がドーム外に出る方法は電車やバスなどの公共の交通機関しか方法はなく外の管理はすべて政府や警察が執り行っている。
だがそれでも、不法に出ていく輩が時折いるためその者達を見つけ次第連行するというのがドーム外警備の主な仕事だ。そんな奴は大体不法に武器を所持しており戦闘することもある。
この活動は警察が長い間やってきているものだがその数は減ることなく最近は増えてきているといってもいい。その武器入手ルートもいまだめぼしい手掛かりはなく、いたちごっことなっているのが現状だった。
さらに10分が経過し、6時15分。街明かりからかなり遠くなり、ゲートが見えてくる。空は赤と少しの黒になっており車道わきに建てられている街灯の周りには虫が舞っているのが見えた。ドーム障壁の近くになると建物はその数を減らし、その周りは一面雑草が生い茂っている。ドーム内開発計画ではこのあたりもいつかはビルやマンションといった住民のための施設が建てられる予定だがこの辺りはまだ進んでいないため。
そのため信号の数も極端に減るのでシリンダさんは軽快に車を走らせている。今からこのドーム近辺に宇宙船が墜落してくるからか遠目でもゲートの前にはたくさんの車両が立ち並び、車から出て時間をつぶしている人もいる。車道を出て、ゲート近くにある駐車場に車を停めているのも見えた。
「参りましたね。まだかなりの数がゲートの出場待ちですか」
ピンク髪の運転手がぼやく。後部座席からも見えるあの列に並べば予定時刻までに作戦ポイントにはたどり着けない。俺は内心落ち着かなくなっていた。隣に座っている女子たちは本格的に眠くなったのかそれぞれの船をこいでいた。
「困りましたねぇ」
口ではそういうが、声は平淡そのものだった。
ゲートは全部で4つの機械が管理していて片道2つずつのゲートとなっている。
その一つ一つにドームに付属した自動ドアのようなものがあり、許可が下りた車に対してその門は開かれる。
前の車にならってシリンダさんも自分の車をならばせた。最後尾に停車する。その僅かな揺れで横の二人が目を覚ました。
「もう・・・ついた?」
目をこすりながら雨野が少々口足らずな口調で聞いてきた。いつもの彼女とのギャップに驚く。寝起きの雨野って、少しかわいいな。
本来の雨野はしっかりとしていて隙がないといった感じだ。そして性格もよく男女関係無しに人気もある。勉強面も戦闘面でも優秀な成績を修めている人の寝起きがこんなのとは意外だった。今の雨野は寝ていたせいで少し髪は乱れ、まだ眠たそうな目は半分も開いておらずボーっとしている。原田は大きな欠伸をして、またゆっくりと目をつむってしまった。
「いや、まだだ。着いたら起こしてやるよ」
「ん、ありがとぉ」
そういうと先ほどと同じように寝てしまった。うつむいて横髪が邪魔をしているため寝顔を見ることはかなわなかった。少し惜しい気もした。
原田は顔をわずかに上に向けて静かに眠っている。いつものおっとりした顔で気持ちよさそうに寝ていた。
「お二人とも疲れているのですね。雲井君も仮眠をとってはいかがですか?」
ハンドルに手をかけ、前を向いたままのシリンダさん。
相変わらず声は淡々として、進まない列に対する焦りや苛立ちは一切感じない。
「俺はそこまで疲れるようなことはしてないです。それに仮眠なら授業中にとりました」
「そういったことを堂々と言えるのはご両親にそっくりですね」
可笑しそうに笑いながらシリンダさんが答える。
「うちの親、居眠りとかしていたんですか」
「えぇ、何なら勤務態度はソウジさんよりひどい時もありました」
な、なんてこった。もしかして俺の未来の姿はあのソウジさんよりひどいものなのだろうか。将来に対しものすごく心配になった。
「ですがずっとそういうわけではありません。働いていた時は誰よりも手際よく、一番に仕事を終え皆が残業している時でも定時で帰っていました」
「それって俺、どう反応するのが正解なんです?」
だが確かに昔の記憶ではいつも同じ時間に帰ってきて、同じ時間に食卓を囲んでいたような気がする。
「フフ、二人ともとてもよい方でした。私も面倒を見てもらったものです」
「シリンダさんっていつから両親の下で働いてたんです?」
「私が警察になった時からずっとです。ソウジさんと私の不肖の姉もそうですよ」
ソウジのことは親から何度か話で聞いたことがある。だがシリンダさんの姉の話は初耳だった。
「シリンダさんにお姉さんがいるんですか?」
「まぁ、恥ずかしながら。2つ上の姉がいます」
「今はどこに?」
「えぇ・・・それはですねぇ・・・・・・」
俺が聞くと口ごもってしまった。何かまずかったのだろうか。
「聞いちゃいけませんでしたか。だったらすいません」
「いえ、そんなことはないのですが。・・・あの部屋に空いているデスクがあったでしょう」
「あぁ、あの2つですね。俺ほとんど会ったことないんで顔を知らないんですが・・・」
「あの一つに本来ならば姉が座っているのですが・・・現在放浪中でして」
「へ?」
つい固まってしまう。
「えーとそれは出張とかではなく・・・?」
「えぇ、世界各国を自由に渡り歩いています」
もはや言葉が見つからない。しかし俺にはシリンダさんの苦笑いからなんとなくわかってしまった。
「それって・・・もしかして・・・・・・仕事が嫌で?」
「はい。お恥ずかしながら。ただ毎日連絡は来るんです。昨日、近日中にはこっちに帰ってくるとメールに書いてありましたが」
シリンダさんは気まずい顔をしていたのがルームミラーで見えた。このチーム、本当に大丈夫だろうか。問題児は2人ではなく3人だったというわけか。に対しまともな人はシリンダさんとグレイさんのみ。チームとして機能しているかどうか怪しいぐらいだった。だとするともう一人も?
「あのもう一人の方って・・・・・・」
「いえ、そちらの方は長期出張で今はワールドセンターの方に・・・・・・」
コンコン。
するとそこで運転席の車窓が叩かれる。
見てみるとそこに立っていたのは青の警備服を着ている白髪混じりの橋本さん。もう60代だそうで警察の激務に体が耐えられなくなりドーム入出場の管理部に異動したと聞いたことがある。シリンダさんは窓を開け、顔を出す。
「シリンダさん、こんなとこまで珍しい。どうしたんですかい?」
「ご無沙汰です、橋本さん。私も例の墜落物に対応するために狩り出されたわけですが・・・何かトラブルでも?」
「ええ、こんな時にマシントラブルで自動認証機が動かなくなって。今は緊急の対応で私が一台一台確認を取っているわけですわい」
いつものしわがれた声からは疲労が感じられる。その顔はしんどそうな顔つきであった。俺もシリンダさんと同じように窓を開け、外に顔を出した。
「確認が取れているなら、なぜ前の車を通さないんです?」
俺は疑問に思ってつい聞いてしまう。それで俺や雨野が中にいることに気づいたようだ
俺たちの顔を確認すると優しい笑顔を浮かべ。
「今日の朝からフル稼働させていたんだがどうもそれがだめだったみたいで。ここは確認からゲートの開け閉めまですべて自動なんだ。おかげで4つともシステムがダウンしちまって。今は修理中という訳だ」
「いつからこの状態に?」
「そうだなぁ。お昼頃くらいかな。おかげで嫁が作ってくれた弁当を食いそこなっちまったよ」
軽いノロケと共にどうしようもないね、といった感じに笑った。
「その復旧作業はあとどれぐらいで終わる見込みですか?」
隣から声が聞こえた。パッと横を見やると、少々髪がボサボサになっているが寝起きとは思えない凛々しい顔の原田がそこにいた。いつの間に起きたんだ。橋本さんは、腕時計を見て。
「業者さんが言うにはあと40分ほどだったかな」
目線をそのままでそう言った。
「あの駐車場に停まっている車も待っている人たちですか?」
俺は指を指し尋ねる。
「いや、あれは作業を待たずに非常口から出てった連中のだな」
非常口。そういえばそういうのがあったな。だいぶ前に聞いたことだったのでその存在を忘れていた。
「シリンダさん、墜落予定時刻まであと何分ですか?」
電子端末を操作しはじめる運転手。しかしその手つきからは相変わらず落ち着きを感じる。
「時間は6時19分。あと約10分、ですね」
「このままじゃ間に合わない」
雨野を除いて車内で緊張感が走る。
「ん、どうかしたのかい」
おじさんだけは俺たちの会話内容に理解できず、戸惑っている。
「アキト君、雨野さんと一緒に先に行ってください」
「へ?」
シリンダさんが横目で見てくる。冗談を言っているような顔つきではなかった。
「このまま車内にいても仕方ありませんから、非常口から出て先行してください。墜落予測ポイントはこの中に。そしてこれも持って行ってください」
そう言って渡してきたのは円状のポータブル端末と黒色のリュック。ポータブルの方は縁のスイッチを軽く押すとブンとシステム音を鳴らして、このあたり一帯を3Dマップで表示する。そこにはここのドームらしき半球状の物体、その中には建物が多少乱雑ではあるが緑の格子状で示されている。
その半球状の少し離れた場所には赤く点滅している点とドーム内で白く点滅している光点が一つずつ存在している。
「その赤の点が墜落予測地点です。そしてその白いのが私たちの現在位置。今、あなたのテア・フォースをそれに登録したのでどこに行ってもあなたの現在位置を示すようになっています。リュックの中身は、見ればわかるでしょう」
「あ、ありがとうございます」
シリンダさんの迅速な対応に驚きつつ、そのマップを眺める。だが距離的にみて、全速力で墜落時間に間に合うかどうかわからない。
「あともう一つ。何があるかわからないのでテア・フォースは常に起動させたまま行ってください。それならば間に合うでしょう」
どうやら俺の考えはお見通しだったようだ。武器を展開せずともコアを起動さえすれば身体は強化される。確かにそれなら全力で走れば間に合いそうだ。
俺はポータブルをポケットにしまってリュックを肩に下げる。
「分かりました。今から俺と雨野でポイントに向かいます」
「頼みましたよ」
「無茶だけはしないでね」
2人の声を背に、俺はリュックを背負い扉を開け勢いよく飛びだす。
そして車後方から回り込み、逆の後部座席ドアを開ける。するとどうやら雨野はもたれかかって寝ていたようで体重を預けるものが無くなった彼女が半身を外側に傾けた。
「わわっ!?」
それで目を覚ましたらしく、灰色の車道に手を付けすんでのところで頭を打つことだけは回避する。二人は苦笑いしながらこちらを見ていた。
「雨野、行くぞ。ミッション開始だ」
「え、もう着いたの?」
全く会話を聞いていなかったようだ。まぁ、寝ていたから仕方ない。
「説明は移動しながらする。とにかく俺と二人で現地に行くことになった」
「え、わ、わかった」
まだ状況を飲み込めていない生返事が返ってくる。雨野は上半身を起こし、車内から出てきた。
「橋本さん、悪いですが非常用出口で彼らをお願いできますか」
「シリンダさんの頼みは別に構いまわないよ。むしろ申し訳ないぐらいだ」
「私どもは後から行きますので。二人をお願いします」
「分かった。じゃあ二人ともついておいで」
おじさんの背中に二人でついて行く。
とうとう、この奇妙なミッションが開始された。
どうだったでしょうか。ミッションが始まるのかと思いきや自分でも書いててびっくり!
始まらないというね、もう詐欺ですこれ。まことに申し訳ない。
ちなみにこれ、原田直さんですが武器はこの何回も出てきているPCです。
また詳細な説明をしますが今のうちに知っていただければと思います。
しかしなかなか読んでくださる方がいらっしゃらないのでどうやったらみなさん読んでくれるだろうと現在思案中です。なんかいい宣伝方法あったら教えてください。
ここまで読んでくださってありがとうございました。次も読んでくださったらうれしいです
感想、レビューお待ちしております。
P.Sそろそろストックがなくなりそう(震え声) MiiY