表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

疑惑

三人は着替え中、シリンダさんからの届いた連絡の通り地下2階の駐車場スペースに集まっていた。

ここには一般職員の乗用車、パトカーなどかなりの数が駐車されている。

夏だというのにこの武骨なコンクリート造りの駐車場は少し冷えていた。等間隔に最低限の黄味がかったライトと辺りの静けさで俺たち以外誰もいないこのフロアはなぜかもの寂しく感じる。

その駐車場の最奥部には車一台分くらいの横幅で少しぼろくなったガレージがぽつんと一つだけ存在している。

誰も使っていない道具室と話には聞いていたのだが、今回はそのシャッター前で待機という事で着替え終わった3人でシリンダさんが到着するまで待機していた。

ソウジが来ていたような隊服とデザインは一緒だが色は学校のジャージと同じ紺色。これで正規と学生を区分しているらしい。黄色のラインが何本か肩口から入っている。男子用の前はチャックで女子はボタンとなっている。俺の服は腰にソードのつか部分をはめられるところと銃をしまうホルダーがあり、使う武器によってカスタマイズすることが出来る。それぞれ武器にあったコスチュームという訳だ。

女子の隊服も紺色であることに変わりないが、白のラインが入っている。下はスカートとショートパンツ、2種類あるが雨野も原田もショートパンツだった。

正式な隊員であるならライン部分は、階級によって金や銀だそうだ。ちなみにソウジは金色。

「墜落の事、知ってたか?」

ただ待っているのも暇だったので、しゃがんでシャッターにもたれている二人に聞いてみた。二人は俺の問いかけにつられ顔をあげる。蛍光灯が眩しかったのか少し目を細めるのが二人とも同時だったことが可笑しく感じる。

「うん、朝からニュースになってたよ」

「お昼ごろには墜落ポイントの予測位置も出てた」

「まじか」

「知らなかったの?」

「あぁ・・・」

家にテレビはあるが、あまり見る習慣が無いため今日の朝もその例外なくテレビを見なかった。朝飯を食べた後もボーっとしているか、電子端末をいじっているだけで情報系は全くおさえていないため時事的なことには疎い方だろう。

「雲井君、ネットサーフィンは好きなのにねぇ」

「興味があるやつと無いやつではっきり分かれてるだけだよ」

「それでも一昨日から騒がれてたよ。宇宙船、地球に向かって墜落か、ってね。まるで7年前の墜落事件みたい」

本当に全く知らなかった。

異星から入ってきたテクノロジーのおかげで乗り物による事故はかなり減っている。特に飛行機やロケットの墜落といったものはなく、もし事故があったとしても人的なミスで不時着といった、けが人は一切出ないような小さなものだった。

「でもその墜落する船を私たちが調査か・・・・・・」

雨野がうつむき、自信なさげな声でつぶやく。

「さっきまでやる気満々だったのに、もう怖気づいたのか?」

「そそ、そんなこと無いし!」

すぐに否定してくる。だが不安なのか、慌てて手を振ってきた。

「まぁまぁ優依ちゃん、別に今からするのは墜落船の調査だけだから・・・。すぐ終わらせちゃお?」

「でも、絶対誰かいるよ!?まず日本人じゃなかったら日本語通じないよね?わたし外国の人と会ったことないけどそんな時どうすれば・・・」

原田がフォローに入ってくれるが、余計に混乱していく雨野。こんなに慌てている彼女は珍しい。

「言葉は通じなくても俺らが持ってるデバイスが勝手に翻訳してくれる。それにもし何かあっても落ち着いて対処すれば俺らでも何とかなるはずだ。なんてったってシリンダさんもいるし」

「あの人、後方支援専門じゃない」

「いや、前に聞いた話だと昔はあの人も人手が足りない時は前線で戦ってたらしいぞ」

「え、聞いたことないけど」

無理もない。シリンダさんとの実践訓練をしたことが無いし、武器が何なのかも知らない。体も細く、鍛えているような体型ではなく、下手したら俺でも単純な力比べだったら勝てるかもしれない。

「じゃあグレイさんは?」

「あの人は・・・知らないな」

『ええー』

なぜか2人そろって顔を引きつらせる。その反応はおかしいだろ。

「何で知らないの?もう何年一緒に暮らしてんの」

「えーと、約4年?」

「そんな具体的な年数は聞いてないけど・・・・・・」

原田が困惑した様子で俺の回答を否定する。雨野が少し気まずそうな顔をしていた。多分俺の家庭事情の話をしたくないのだろうが、原田はそのことはあまり知らない。

だから俺はそのまま話を続けた。

「あの人、何を聞いてもはぐらかしてくるんだよ。笑ってごまかしたり」

実は諸事情により、俺は妹とグレイさんの3人で暮らしているのだ。

「ふ、ふーん、謎多き女性ってわけ」

歯切れの悪い雨野の返し。

「そう言う事。だからさっきもはぐらかされた時、もう答える気無いんだなってわかった」

「あ、お前たちで出たらどうだ、ってやつ。どうしてそんなことを聞いたの?」

原田が問いかけてくる。

「いつもだったら、警察の要請だったり、学校から「これをさせろ」って物があるはずだ。なのに今回はそれを無視しての緊急ミッション。それに極秘での事。そんなものを頼んでくるやつはソウジさんの直属の上司、もしくはもっと上のはずだ。ここまではいいんだけど何でそんな大事そうなことを俺たちに任せるんだろうと思って」

「はぁーそんな難しいこと、あの短い時間で考えてたの」

雨野が少し感心したように言う。原田は何かを思いついたのか自作ノートPCを取り出し作業を始めてしまった。

「私なんて成績ばっかり気にして・・・なんか嫌な奴みたい」

「そうは言ってないだろ。特に雨野の進路先はかなり難しいから内申点を気にするのもわかる」

雨野の希望進路は現在、世界を取りまとめるワールドセンター。かつての国際連合を母体としたものでその組織を中心に世界は回っている。特に異星関係の条約や、各国の会談などはワールドセンターが構えている都市で行われており、各地方を取り仕切る代表者「セブン」と呼ばれる非常に能力の高い7人が駐留し世界を円滑に動かしている。呼称はそのまま代表者で地方によっては首相群よりも発言力や人望、影響力があるらしい。ちなみに日本では代表者と総理の関係は対等である。

「ソウジさんたちの上ってなると・・・総理大臣か各国代表者・・・あとは総議長ぐらいだね」

PCキーボードを叩いていた原田が調べてくれたのか、そんなことを言ってきた。

総議長というのは、センターで首相側を取りまとめる人で、セブンの定例会議に顔を出し首相側の意見、見解を伝える所謂橋渡し的な役の人である。確かきれいな女性だったはずだ。

「やっぱり気になるな・・・なぁ、今回の墜落してくるやつって、どこから発射されたものだ?」

「リークされてる情報では外装に書かれている英語の文字からしてアメリカで開発されたもので物資輸送中の事故、異星からの帰路途中で何らかの不具合があったものと断定。通信はつながらない。アメリカ代表のアレックス氏も乗組員の無事を祈っていると声明を・・・そう記事には書かれてる」

俺は原田のPCディスプレイを横から覗く。そこにはオンライン記事と実際のロケットであろう写真がかなりぶれた状態で映っている。その白銀色の物体からは灰色の煙が出ており、その隙間から辛うじて見えたのは機体に書かれている黒色のアルファベット。

「そう記事には書かれてる・・・?直、何か知ってるの?」

俺も妙な言い回しが気になった。原田が画面からこちらに顔を向けてくる。俺もそれに釣られて彼女の顔を見た。その表情はいつもののほほんとしたものだったが、彼女の眼はメガネの奥からしっかりと俺をとらえている。

「これ、署の前でメディア関係っぽい人たちが話してたんだけど、実はこの輸送船、アメリカのものなんかじゃないかもしれない」

俺と雨野はその言葉を聞いて、表情を強張らせた。

「どういうこと?船体には英語が書かれてるんでしょ」

怪訝そうな声で尋ねる雨野。

「どうしてそんな考えに?」

俺は自分の動悸が早くなるのを感じる。何か知ってはいけない、これ以上考えてはいけない。そう本能が言ってきているかのようだ。

再びPCを操作し、別のタブを開き予め用意していたのかデータ表が出された。そこに映っているのは宇宙船の模型図。それも大量の。雨野も気になったようで俺とは反対側から同じようにして画面を覗いている。

「見て。これは前に私が拝借したデータなんだけど」

どうせ「勝手に」だろうに。俺は内心呆れつつも、そのデータから目が離せずにいた。まだシリンダさんは来ていないだろうか。さっと周りを見やるが、その気配はまだ感じることはできず、数多くの車が俺たちを囲うように寝ているだけだ。

「これは・・・宇宙船開発記録?こんなものどうやって・・・・・・?」

「一度だけ警察の職員用パスでセントラルサーバーに入ったことがあって、めぼしいデータは全部コピーしたの。そしたらこんなお宝データもあってね。えへへぇ」

悪い笑いを包み隠さずあらわにしている。とんだ悪党が友人にいたものだ。

「もしかして・・・このさっきの写真に写っていたロケットの形に該当するデータは無かったってこと?」

雨野が恐る恐る質問する。涎を垂らしていた悪党は、ハンカチでそれをぬぐい、小さくうなずいた。

「うん、試しに全世界の開発記録も照合させてみたけど・・・結局どれも当てはまらなかった。つまり答えは一つってわけ」

「純粋に異星で開発されたものが墜落してくるってわけか」

「そう言う事。カモフラージュで英語の文字くらい入れてても何ら不思議じゃないし」

このミッション、相当きな臭くなってきた。この墜落物が今後の俺たちの環境を変えるかもしれない。そんな気がしてならなかった。ソウジたちはこのことをすでに知っていて俺たちにこれを任せたのだろうか。

「少なくとも、ウソの声明を出しているアメリカとそれを黙認している日本の両代表はこの事実を隠そうとしている」

「そんでもって、それがばれないように俺たちにお鉢が回ってきたってことか。とんだ片棒だな」

俺は苦笑する。

「私たちじゃ荷が重いね」

「せめて九条がいれば簡単に持ち上げられるかもな」

そんなバカげたことを言い合って少しでも心を落ち着かせようとした。何も考えないことにした。俺と原田は向かい合って軽く笑っているがもう一人はそうもいかなかったようだ。

雨野がよろよろと力なく立ち上がる。その様子にさすがに心配になる。

「ど、どうした?具合でも悪いのか」

「何の前触れも無しに異星の宇宙船が墜落してくる・・・?おかしくない?本来だったら異星からの声明があってもおかしくないのに・・・。一体何が狙い?しかもアメリカもウソの声明って、もう訳わかんない・・・・・・」

そのままガシャン、とシャッターにもたれかかり、膝をガクッと曲げ、しゃがみ込む。そのシャッター音が駐車場内で木霊する。

雨野に対し、掛ける言葉は無い。むしろ俺たちも混乱している。

「ま、詳しく調べるには実際見てみないとね」

そう言って、PCの電源を落とさずそのまま閉じてカバンの中にしまった。

小さく嘆息をついた原田は立ち上がり、駐車場内の中を見渡そうとすると。


「お待たせしてしまって申し訳ありません」


俺と原田はバッと振り向く。そこにはさっきと変わらない服装で立っているシリンダさん。帽子を片手で軽く持ち上げ、会釈をしてきた。距離的には5メートルも離れていないだろう。まったく気が付かなかった。

足音も気配も。さっきまでの会話を聞き取られてはいないだろうか。

額から汗がタラリと顔をつたって落ちた。

「すぐに準備を始めますので、ちょっと待ってくださいね」

そういうとポケットからキーを取出し、雨野がもたれかかっているシャッターの鍵を開ける。雨野はすぐにその場から離れ、俺の隣に戻ってくる。俺たちの動揺や焦りはばれていないだろうか。

「よいしょっと」

屈んで、シャッターを持ち上げた。その開けた先に映っていた光景は一台の淡いピンクの車が停められたガレージ。壁のあちこちから配線がその車につながれており、外装の所々がその本数と同じだけ内部をあらわにしている。まるでその車を中心とした蜘蛛の巣だった。それらをシリンダさんは一本一本取り外していき、同時にこの外装部分も取り付けていく。

「これは?」

落ち着いた声音で原田が尋ねる。俺も二人もなんとなく見た目でわかってはいたが、この静けさに耐えられなくなったのだろう。

「私の車です。こいつは少々特殊でして。無理を言ってここに特別なガレージを造ってもらったんです」

これのどこが特殊なのだろうか。色を除いて見た目は完全に一昔前の典型的なタクシー車だ。この車と彼が駅前にいれば間違いなくタクシー業者と間違われるだろう。

「どうぞ。狭いかもしれませんが3人とも後ろでお願いします」

取り外し作業が終わった彼が後部座席の扉を開け、俺たちに乗るように促した。

3人ともガレージに入り、それに乗車しようとするが。

「先、乗って」

「あ、あぁ」

先に乗ると思っていた原田から譲られる。確かにこのままいけば俺が真ん中になって気まずくなるか。

ここは原田に従って一番に乗り込み、端の窓際に腰を下ろす。それに続いて、原田が真ん中に座り、雨野が窓際に座った。さっきまで原田のPCを見ている配置と同じだ。車内はよく掃除がされていてピカピカである。足元にもチリ一つ落ちていない。シートからは微かに柔軟剤の香りがしており、彼が毎日手入れをしているということがひしひしと伝わる。それは前の席も同じような感じだった。ただカーナビのようなものが中央部分に取り付けられているがそれは俺がイメージしているよりもかなり大きい。最近のカーナビはあんなものなのだろうか。そのディスプレイの周りもわけのわからない計器やスイッチが所狭しに並んでおり運転席は車というより飛行機を連想させる。

それらを眺めていると、運転席にシリンダさんが滑り込むように座った。カタカタっと何かたたくような音がしたと同時、エンジン音とその振動が車内で響く。カーナビや計器は動くことなく沈黙を続けていた。まさかただの装飾ではあるまい。

「それじゃ、さっそく行きましょうか」

そう首を軽く傾け、こちらににこりと笑いかけてくる。彼にもし前職があるとするならば確実にタクシードライバーであろう。

『よろしくお願いします』

3人とも声がはもり、その次の瞬間にシリンダさんは車を発進させた。


どうだったでしょうか。少しずつ話が動いてきましたがそれが伝わればいいなーと思いつつこのあとがきを書いています。さてここでですね、ちょっと用語が多い気がしますのでここで補足しておこうかなと思います。

テア・フォース・・・武器。「コア」というエネルギー源が内蔵されている。

          形状は武器からアクセサリーまで多種多様でワールドセンターで開発されている。

ワールドセンター・・世界を統率している機関。場所は太平洋上の日時変更線と赤道が交わるところに位          置している埋立地。各分野最高峰の研究がなされている。オリンピック、万国など          世界的な催しもここで行われている。

電子デバイス・・・・今でいう携帯端末。眼鏡型、時計型、耳装着型があり、コンタクト型が発売予定。


ざっくりこんなところでしょうか。もしわからないぞって箇所があれば感想欄のほうでお願いします。

自分の文章能力があればこんなことにはならないんですけどね…。

ここまでお読みくださってありがとうございました。まだまだ物語は序盤ですのでまた次回も楽しみにしてくれればと思います。

感想、レビューの方よろしくお願いします!      MiiY

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ