幕間 ~大人たち~
「やっぱり私は反対です」
学生たちがいなくなったいつもの事務室。少し納得がいっていないような物言いだった。
「何がだよ」
ワンとカードゲームを再開させたソウジが疑問を疑問で返す。意識はゲームに集中させており、あまり会話を真面目にする気は無いように彼女は伺えた。
だがそれは毎度のことなので、彼女もあまり気には留めていない。
「シリンダさんだけでなくソウジさんかワンさんを同行させるよう連絡を・・・」
「だめだ、それじゃあいつらの面倒を見てる意味がない」
このチーム、特にソウジとワンさんは戦闘面で圧倒的なものを持っている。もし彼らが動くとなれば嫌でも世界は注目し、何かあったのではないかと疑惑の視線が向けられる。
だからこそ、自分たちが動かなくてもいいように優秀な部下としてアキトをはじめとする学生の面倒を見ているのだった。
「そうかも、知れませんが・・・」
「じゃあお前が出るか?」
その返答でグレイはソウジに向けていた視線を落としてしまった。
「いえ・・・それは・・・・・・」
「冗談だ」
真顔だった彼の口元。少しだけ口角が上がっていた。
「・・・・・・でも万が一、あの人たちの予想通りなら・・・・・・」
やはりどこか納得いかなさそうなくせ毛の彼女。
「そんな最悪のケースはあんまし考えてねぇ」
「えぇ・・・」
そこはチームリーダーとして考えてほしいものだった。この仕事を始めて以来、チームリーダーのせいで頭痛が増えたと思う。
「ま、あいつらが何を持って帰って来るかによって今後の世界情勢にも少なからず影響を与える。これまで以上に慎重に動かないといけなくなる。最悪俺たちも出なきゃならないかもしれないが、それはあくまで最悪のケース。今までも何とかなったんだ。テキトーにやりゃ何とかなる」
今は考えても時間の無駄、ということか。
「だいたい、あの3人を含め、ここに来る11人。あぁ、今は9人だがあいつらはここに来るべくして来ている連中だぞ。学年でトップレベル?はっ、そんなもんは余裕でクリアしてもらわなきゃ困る」
そう言われると反論はできない。事実そうであるのだから。
室内はシリンダの淹れたコーヒーの渋い香りで満たされていた。鼻の奥でわずかに独特の苦みを連想させる。カチャ、カチャと無機質な作業音だけが聞こえてくる。この事務室に質素ではあるがキッチンもあり、そこでシリンダはコーヒーをドリップさせている。かぐわしい香りを纏わせた彼がガラス製の純白なコーヒーカップを持って近づいてきた。
「悪い方へ物事を考えてしまうのはあなたの悪い癖ですよ。これでも飲んで落ち着いてください」
そう言ってシリンダはグレイの机の上にカップを置き、コーヒーをゆっくりと注いでくれる。
その一連の滑らかな動きが、彼のコーヒー好きを表している。コーヒーの香りはさらに強くなり、自分の気を落ち着かせてくれているようだった。
「そーそー、これ以上考えても結論は出るまいて。余たちはここで大人しく若き戦士たちの無事なる帰還を待とうではないか。あ、余の勝ち」
「はぁ!?マジかよ!」
ソウジの悲鳴にも似た叫び声が事務室内にこだまする。対照にワンは大きな笑い声をあげている。いつもと変わらない調子の二人を見つめて、さっきより大きな嘆息をした。
私もあんなお気楽に物事を考えられたらなぁ・・・・・・。
だが彼女の性格上、心配せずにはいられなかった。
「このままで本当に大丈夫でしょうか?」
「その安全度を引き上げるために今回、私が同行するんです。任せておいてください」
そう言ってシリンダは持っていたカップを傾け湯気を盛んに立たせているコーヒーをゆっくりと口に流し込んだ。私もそんな彼を見習うようにして、温かな淹れたてのコーヒーを味わう。
何を考えているのか分からない彼の瞳がなぜか今は頼もしく思える。私が直接赴くことが出来るのであればそうしたいが、そういう訳にもいかなかった。
ここはシリンダさんに任せるほかないだろう。きっと大丈夫だ。
彼も、かつての大戦の功労者なのだから。
そう心を無理やり落ち着かせながら、半分以上残っていたコーヒーをグイッと飲み干した。
どーでしたか?といっても今回は話と話の間のお話ですが。
分かりやすくいうなれば0.5話ですね。ここに伏線を入れていったのですが、伏線ってこの後明確に「これをする」ってビジョンがないと中々難しいですね。そして読んでくださってる方に色んなことを考えてもらうということを念頭に書き進めたのですがどうだったでしょうか。
お話は変わって今日も寒かったです。寒い中学校帰りに自転車屋さんに寄って今度買う自転車の下見をしてきました。最近の自転車屋ってすごい!色んな保険があるんですよ。修理、空気入れ、窃盗エトセトラ。
何でも保険。そんな盗まれるようないい自転車選ばないよって思いながら店員さんの会話を聞き流してました。
さて今回もお読みくださってありがとうございました。まだまだ物語は続いてくださるので気長に更新を待ってくださればと思います。
よければ感想、レビューの方よろしくお願いします。ありがとうございました。