降ってきた仕事
コンコン。
事務室清掃があらかた終わってひと息ついていると控えめなノックがドアから聞こえてきた。
「失礼しまーす。デバイスの調整終わりましたー」
そういって部屋に入ってきたのは同じ学年の原田直。
隣でお茶を飲んでいる雨野と同じ制服。小さく三つ編みに括られたその海を連想させるような青髪が肩にかけられている。顔はおっとりとしており、事実性格もおっとりとして、誰に対しても物腰が柔らかい。瞳はきれいな山吹色だった。
その後ろに続いてもう一人、黒のタクシー帽をかぶったピンク髪の、少々猫背姿勢の男性も続いて入ってくる。身長は原田と比べると数センチしか変わらないだろう。
「お疲れ様、直ちゃん。それにシリンダさんも」
「ええ、お疲れ様です。・・・・・・何かあったんですか、ずいぶん書類が散らばっているみたいですけど」
室内に入って、原田はまずぐちゃぐちゃに置かれている紙類が最初に目に入ったようだ。さっき来たときは何とも無かったですよね、と不思議そうに尋ねる。
「あぁ、まぁ、あそこのお二方が派手にやらかしてくれたから・・・・・・」
グレイさんは、こめかみを軽く抑えまたも嘆息する。横目でその例の二人をにらむがソウジとワンさんはそんなことに気付かないふりをし、口笛を吹いていた。
「フフ、大体はわかりましたよ。グレイさんもいつもご苦労様ですね」
そう労いの言葉をかけたのはタクシー帽の男性。帽子だけでなく服装までもタクシー運転手っぽい彼だがこれでも正規の警察官でソウジと同じく戦闘班である。
「そう言ってくださるのはシリンダさんだけです」
労いの言葉がうれしかったのだろう。さっきまで怒り心頭で、頬を膨らませていた顔を緩ませる。
「直、お疲れー」
「あれ、優依?今日当番じゃないのにどうしたの」
原田がこっちにやってくる。俺は雨野と二人掛けのソファに座っていたため、その席を譲るべくゆっくりと立ち上がる。その意図が分かったのか原田は俺とすれ違いざまに「ありがと」と小さくつぶやき、場所を交代した。
原田は俺が座っていた所に腰を下ろしそのままガールズトークが始まってしまったため、俺は話に参加することは到底不可能だった。
俺は今日ここに来た目的、つまり課外ミッションを果たすためにソウジの元へと歩いていく。
ソウジは一番下の引き出しに常備してあるポテトチップス出して、それをポリポリつまんで食べながらワンさんと電子型のカードゲームをして遊んでいる。
こいつ、ほんとに警官か?
ワンさんとソウジはただ自分たちの職場を荒らした挙げ句、やるべき仕事をせずにサボっていた。
「おいソウジ。今日のミッションはなんだ?俺はわざわざあんたが散らかした部屋の掃除をするために来たわけじゃないぞ」
ゲームの手を止め、こちらに顔は向けず目線だけをこちらにちらりと向ける黒髪ズボラ警察。瞳からは暗に「邪魔をするな」と言ってきているようだった。
目の前にいるこの男が現在日本でナンバー2の強さを誇ることがにわかに信じられない。
だが俺の表情から察したのか電子ゲームを、終了させ。
「・・・そうだったな。じゃあ今日の課題を言い渡すとすっか」
身体ごとこちらに向き直り、頭を掻く。
「確か、予定ではドーム外警備だよな」
「いや、実は予定変更になった。グレイ、今何時だ」
シリンダさんと話しながら、しかしその手を休めることなくデスクを片付けていた彼女がピタッと手を止め、着用していた腕時計を確認する。
「5時32分です」
先ほどと打って変わった落ち着いた声。それを聞いたソウジサンは少しばかり眉をひそめる。
「ちょっと時間経っちまってるな・・・が何とかなるか。アキト、今回はお前と原田だけじゃなく、シリンダと雨野も一緒に行ってもらう」
「何?」
「ん?」
「ほう」
「え、私も?」
4人ともそれぞれの反応をみせる。その中でもシリンダさんだけは何かを察したようだが、学生3人組は困惑気味であった。ミッション内容の変更は今まで何度かあったもののメンバーの増員、まして事務室の人たちの手助けなど前例はない。
ここの事務室にいる人たちはソウジが率いる日本警察唯一の戦闘チームである。
そのため他の職員より武器の扱いが手馴れており、俺たちみたいなそれなりに武器を使用できる学生たちの面倒を見てくれている。
何度か実践訓練で手合せしたことがあるがソウジやワンさんには手も足も出なかった。それは俺だけに限った話でなく上位レートで前衛ポジションの全員が、である。
シリンダさんとグレイさんは後方支援での役割であるため戦う姿は見たことが無い。
あともう二人ソウジさんのチームには戦闘員がいると聞いたことがあるのだが、ほとんど顔を合わせたことがなかった。
そんな中、シリンダさんが出ると聞いてから三人は全く話に付いていけていなかった。
「グレイ、今回の概要説明」
この人たちは俺たちの反応にいちいち気にすることも無く、話を淡々と進めていく。
ワンさんは少し眠たそうにあくびをしていた。
「はい。今回アキト君たちにやってもらうミッション内容は今から約一時間後、このドーム付近に不時着する小型宇宙船の調査です」
小型宇宙船の調査?なんだってそんなことを学生である俺らに?頭の中でクエスチョンマークが踊る。
それは原田も雨野も同じようで目を合わせるも一様に首を傾げるだけであった。
「何か質問は?」
突然そう聞かれても対応できず俺は口が開かなかった。
最初に動いたのは雨野だった。
「それって私たちの出来る許容範囲超えてませんか?宇宙船の調査って・・・私たち専門的な知識何も知りませんよ?」
それはそうだ。俺たちの在籍している学校は武器所有という特別なケースであってもそれ以外は何も変わらない普通科の学校なのだ。
「調査と言っても簡単なものよ。その宇宙船の中に何があるのかを確認して欲しいの」
「物資の確認、ですか?それこそ俺らじゃなくて、警察側がきちんとした調査をするでしょう・・・・・・?」
「いや、今回は中の物が何であろうがそれを誰にも見つからずにここに持って帰ってきてほしいんだ」
ソウジが意味の分からないことを言いだした。
「そう言ったものは正規の手続きが必要じゃないんですか?」
「今回は急務でな、無駄な手間に時間をくっている暇はない」
「さっきまで書類で遊んでいましたよね・・・?」
つまり隠密で事を運べということか。グレイさんが睨みながら部屋中に聞こえるようつぶやいたが、ソウジさんは聞こえないふりをして話を続けていく。
「私は自分に出来る事なら何でもしますよ。それに最新の科学技術ロケットが間近で見られるなんて機会めったに無いですし」
意外と原田は乗り気なようだ。わくわくが隠し切れないといった感じで嬉しそうな表情を浮かべている。
「俺からも聞かせてくれ」
数ある疑問のうち、一つに絞って口を開く。
「何だ?」
「今回のミッション、何でわざわざ俺たちにやらせる必要がある?それこそあんたたちが出ればいいんじゃないのか」
頭の中で離れなかった違和感。
本来、俺たちがいつも行っている課外ミッションは学校と警察が連携して行っていることである。そのため、ドーム外の周辺警備や、警察との合同訓練などミッションと言ってもそこまで本格的なものではない。もちろん命の危機にさらされるような危険な案件も回ってきたことは一度もない。
だが、「今回は誰にもばれずに」と言っていた。自分たち以外の警察の人間や学校、ましてや外部の人間に知られてはいけないという事になる。
これは今まで受けてきた課外ミッションのどれよりも危ない物である可能性が高い。
そんな危険度の高い任務を俺たちに任せるメリットが思いつかなかった。
じっとソウジさんの答えを待つ。彼の薄黒の瞳も瞬きなしでこちらを見据えてくる。
俺に見つめられていたソウジさんはいつもの調子で軽くフッと笑い
「心配すんな。お前が考えているような危ない事はねぇよ。何かあったら俺らも出る。そのために今回はシリンダにも行ってもらうんだからな」
「それ、答えになってませんよ?」
答えをはぐらかされる。雨野が俺の言いたいことを代弁してくれた。ソウジの答えに対して、彼女は不服そうだった。まぁ、収穫としては自分たちの身の安全の保証はしてくれる事だろうか。
「今回ばかりは私たちの上の人からの命令でアキト君たちに任せる事になっているの。それだけじゃご不満?」
ソウジさんに代わってグレイさんがにこやかに答えてくれる。
返答を聞く限りこれ以上めぼしいことは教えてくれないだろう。
「分かりました。すぐに準備にかかります」
「あぁ、くれぐれも頼んだぜ」
それで今回は引き下がった。
ただこの人たちの上と言ったらもう日本代表という事になる。このチームは日本代表という国のトップの直属チームなのだ。だがそのトップがなぜ・・・?
分からないことを聞き出そうとしたらその疑問が疑問を呼ぶことになってしまった。
「お前ら二人も、もういいのか?」
そんな俺を置いてすでに次の話へと移っており、ソウジさんは雨野と原田に視線を移していた。その瞳には何か俺たちを試しているかのような思惑を感じる。
「私は・・・・・・何も。あ、ただこれって評価されますか?秘密裏に行われるミッションだからそこだけ・・・・・・」
「その点は心配いらねぇ。お前らはさっきアキトが言った通りドーム外警備をすることになってる。まぁ、今回の緊急ミッションを成功させればA評価をくれてやる」
「やった。気合いれよー!」
そう聞いた雨野はソファから勢いよく立ち上がった。だが不安は残っているのか微妙な面持ちだ。
「原田は?」
「じゃあ、私も一つだけいいですか?」
「何だ」
「その宇宙船の中身、持って帰ってきたらその正体を教えてください」
「・・・俺の答えられる範囲だったら教えてやるよ」
数秒の間があったが片方の口角をあげ、怪しげな笑いを見せた。
原田の質問が的を射ていたのかどうかはわからない。
ソウジに本当に教える気があるのかもわからない。
一つだけわかるとすればその墜落物を調べに行かなければどうしようもないということだ。
そう考え、俺はいつもの隊服に着替えるために事務室から足早に出る。その後に続いて原田と雨野も慌てて着いてくる。
「なんか・・・変だね」
原田が後ろから率直な感想を漏らした。
「この課外始めてもう一年近く経つけどこんなことは初めてだな」
この件についてわからない事や開示されていない情報が多すぎる。そんなことも今まではなかった。嫌な予感がする。それは三人の心の中でわだかまったまま晴れることは無かった。
どうだったでしょうか?物語が少し動いてきた感じするでしょう?
え、しない?あ、そうですか……(シュン
まぁそれはおもしろく書けない自分の責任ですね。もっと頑張りまっす!
新キャラどうでした?チャプターが更新されるたびに新しいキャラを投下していってますが。
逆に多すぎてわからない可能性もありますよね……。もっと個性豊かな感じに書かないとみんなわからなくなっちゃいますよね……。頑張ります。
今回もお読みくださり、ありがとうございました。
よろしければ感想、レビューヨロシクおねがいします。