天然の怪力娘
特になし。楽しんで読んでいただければ幸いです。
さっと着替えを済ませ、体育館に入った。彼以外来ている生徒はまだいないらしく体育館は静寂に包まれていた。自分の足音だけが館内で小さく反響する。体育館といってもここと一般の学校の体育館とはかなり様相が違っている。
施設は2階建て、中の床や壁は白に統一されてかなり殺風景だ。広いフロアが一つ建物の真ん中にあり、その端々に5畳ほどのブースが多く配置されている。あとは申し訳程度にテーブルと長椅子、観葉植物がぽつぽつと置かれているだけだ。
特にやることが無かったため腰にホルダーでぶら下げている拳銃を持ち、調子を確かめる。もう片方の空いている手で浮遊型の電子パネルを展開させオートでメンテナンスを開始する。銃の断面図がパネルに映し出され、随所に数値がはじき出される。一通りチェックし、数値に異常がないことを確認し終えたタイミングで少しずつ俺と同じく紺のジャージに着替え終わった学生たちがぞろぞろと館内に入ってくる。2クラス分の人数、約80名の生徒たちは授業が始まるまでのフリータイムを過ごしている。友達と話しているヤツ、俺のように電子ウィンドウを開き、何かのデータを眺めているヤツ、と一気に体育館の状況は一変、話し声や作業音でガヤガヤと騒がしくなる。
授業の開始を知らせるチャイムが鳴り実戦演習が開始された。
この授業にも担当教諭がいるが、特にこれといった始まりの合図はない。武器を利用した危険行為がされていないか、対戦相手をなぶるような行為はしていないかなどのあくまで監視の役割だけを担っている。
周りの学生が各々対戦相手を決めてブースに入っていく中、俺は対戦相手が決まらずにいた。
「さて、どうしたもんかね」
対戦相手が決まらない以上、やることが無い俺は体育館の端に移動する。俺が歩を進めるたびに周りの人たちが勝手にどいてくれる。その顔は少しおびえているような感じだったが俺は微塵も気にしない。皆が道を譲ってくれるおかげでスムーズに体育館の端に置かれている長椅子に到着できた。長椅子の真ん中に堂々と腰を下ろし右手をさっとかざして再び電子パネルを呼び起こす。
パネルから校内の学生特設サイトを開き、授業欄「実戦演習」を見てみる。
そこには学年別で各学生の使用武器種別、戦闘結果、そしてレートが記されている。
レートは勝てば上がるし負ければ下がる。みんな最初は500からスタートで勝てば30ずつ上がり負ければ15下がる。簡単な仕組みだ。現在俺は高校2年であるためその2年生レート一覧を見る。
その一覧の「レート上位者」という欄をタップする。すぐにページが開かれ顔写真と名前がリストアップされる。
そこには自分の名前「雲井アキト」という名前があった。
もちろん俺以外にもレート上位者がいるのだがその顔ぶれは入学してこの授業が始まってから全く変わっていない。ほかにもそこには戦績、武器種別などの詳細が書かれていた。それらを眺めていると。
「おー、これはこれは雲井君じゃないか!そんな所で何をやっているんだい?」
電子ウィンドウを閉じ、声の聞こえた方へ振り向くと見知った小柄な女子が手を振りながら小走りでこっちにやってくる。
肩下より長い銀髪をツインテールにしている小柄な女子。ルビーを彷彿とさせる真紅の瞳。そして口元はなぜか満面の笑みだ。俺と同じジャージに身を包んでいるが、前は開けており真っ白の体操服に「くじょう」とひらがなで大きく彼女の名前が書かれている。
俺の近くまでやってくるなり――――――。
「やぁやぁ、今日は3組の子達とだったんだね。なんか雲井君と会うの久しぶりなような気がする~、元気してた?」
「九条とは昨日も一昨日も会っただろ・・・?」
わけのわからないことを言い出す九条。
昨日も一昨日も会ったのは九条がわざわざ用も無いのに俺の教室にやってきたからだ。
「あれ、そうだったかな?」
「お前のおバカっぷりというか天然さには毎度あきれる」
「いいじゃないか別に。その分元気だということさ!」
つ、疲れる・・・。こいつの話相手はマジでしんどい。当の本人、九条紗良は能天気に俺の隣で腰に手を当て高らかに笑っている。人生楽しそうだな。こういう人間は悩みが無さそうでうらやましい限りだ。
そう思いながらジトーッと見ていると。
「なんだ、そんなに、見つめられると照れてしまうぞ?まさか・・・雲井君、私のこと・・・」
今度は腰に当てていた手を頬にあて顔を少し赤らめ、体までくねらせている。こう見ると出るとこは出て引っ込むところは引っ込んで男子受けする体つきをしているというのに、こうも魅力を感じられないとは。人間中身が大事ということが身をもって思い知らされる。
「断じてないから安心しろ」
俺はそうきっぱりと言い切った。
「それは残念」
次は少し、肩を落としがっくりしている。ずっとそこでおとなしくしていろ。
長椅子から立ち上がりその場から、というより九条から離れようとする。しかし銀の小動物はずっと俺の後ろをついて来ていた。
「なんだよ、まだなんか用か?」
目線はまっすぐ、後ろの俺の周りをぴょこぴょこついてくる奴には一瞥もせず尋ねる。
それに反応し、タタタッと小走りで俺の前に立ちふさがりまっすぐビシィという擬音語が聞こえてきそうな勢いで指さしてくる。
「うん、雲井君勝負するぞ!というかそのために君を探していたんだ」
「却下」
「即答とは。嫌われたものだ・・・しかし!君はこの授業中誰とも実戦せずに終わる気かい?」
デコに手を当て、首を横に振りながらやれやれとでも言いたそうな表情。コロコロとよく表情が変わるやつだ。
この授業には一応ノルマが課されている。勝敗は問わないからとりあえず「三戦はしろ」というものだ。
「人様に指をさす失礼なやつとはしたくないだけだ。他の奴とやる」
少しイライラしてきたため嫌味っぽく答える。
「なんと!そんな無作法な学生がこの学校にいるのかい!?これは指導が必要だね」
だが目の前に立ちふさがっている彼女はそんなことにも気付かずにあごに手をあて悩んでいた。殴っていいか?
こいつの場合本気で言っているのか冗談なのか本当にわからない。これ以上は会話が続かないと判断し、率直に言うことにする。
「九条とはせずにほかのやつと対戦する」
「うん、私ではだめな理由を聞こーう」
「だって、お前強いもん。それに俺、お前苦手だし」
性格的にも、戦闘スタイル的にも。だからかわからないがこいつとの累計戦闘成績は先ほど確認してみたら五分五分であった。
「だけど私たちがこうして楽しくおしゃべりをしているうちに周りの生徒たちは二、三戦目を始めている人たちが多いんじゃないかな?それに自分で言うのも気恥ずかしいが私たちのような頭一つ飛び抜けているような者が勝負を申し込んでも、中々受け入れてくれないんじゃないかな」
「ちっ、九条のくせに正論を・・・」
確かにレート上位者は嫌煙されがちなところがある。さっき俺が長椅子に向かっていったとき周りの生徒たちはただ道を譲ってくれたわけではない。俺という強者が向かってくるのが怖かったから避けたのだ。始めのうちは実力試しで挑んでくるやつも何人かいたが、全員漏れなく返り討ちにしてしまったことにより俺には「勝てない」と悟ったのか挑戦してくるやつは一切いなくなってしまった。
そして俺と九条の周辺でも、早くもノルマを終えたのであろう学生たちがその結果を見て一喜一憂しているのが横目で確認できる。眼鏡に内蔵されている電子時計を覗いてみるとすでに残り授業時間は半分ほどだった。・・・.答えは考えずとも決まりきっていたようだ。
「ふっふっふ、おとなしく私との勝負を受けるのだー」
こいつの言う通りになるのは癪だが・・・。
「・・・・・・仕方ない、か」
このままごねていてもノルマは達成できないし、九条の言うとおり俺らみたいな上位者連中の申し出なんて今更誰も受け付けてくれない。どんなに強いヤツでも弱いヤツでも勝てば30、負ければマイナス15なのだ。そりゃ少しでも勝ち目のある奴と戦いたいだろう。俺もそうすると思う。
というか毎回こんな似たようなやり取りを九条と会ったときにしている。あいつは全く覚えてなさそうだが俺も学習しないとな、と反省する。
「よーし、じゃあ早速ブースに入ろう!3連闘でいいだろう?」
「あぁ、それで頼む」
そう言ったところで近くのブースの自動扉が開いた。ちょうど実践が終わったのであろう男女二人組が出てくる。男子の方が少々落ち込んだ表情に対して女子の方は笑顔であった。きっと女子の方に軍配が上がったということだろう。心の中で次は男子が勝てることを応援しつつ、ブースに入室する。
かすかにブース内に残る火薬の匂いと煙たい感じ。
だがそれはすぐに消えてなくなった。相変わらず便利な装置だ。
ブース自体は四方の壁すべてが白色の何の変哲もない部屋。
「ステージはどうしたい?」
「最初はこのまま、後の2戦はランダムセレクトでいいだろう。判定は一撃致命傷が入れば、もしくは降参と認めるまで」
「りょーかいだ。あとセーフティモードだったかな」
「当然だ」
俺の回答に合わせ、九条がブースに備え付けられているコンソールパネルを軽快にたたく。セーフティモードとはこのような訓練室に備えられているものであり、登録してある武器であれば刺そうが撃とうが痛くもないし、怪我もしない安心安全の設備である。そしてノルマは三戦さえすれば対戦相手は問われないのだ。
そうするとさっきまで五畳ほどの広さしかなかった部屋が瞬時に広くなる。何度見ても慣れない。構造自体は、電子体系を利用した固定領域拡張システムかなんか・・・・・・って授業説明されていたが難しすぎて内容を全く覚えていない。
広くなったブースで俺と九条は少し離れた位置で対峙する。
「テア・フォース、展開」
九条がそうつぶやくと、彼女の右手に大剣が青光のリングをまとって顕現する。
それと同時に空気が変わった。正確には九条をまとっていた何とも言えない朗らかな空気だ。普段の時と戦闘時の彼女の雰囲気は劇的に変わる。
初めて勝負したときはそのギャップに驚いてそのまま負けてしまったぐらいだ。
いつもその緊張感を保っていれば威厳があるだろうに。学校生活の方はあのバカ丸出しの天然な性格であるがために生徒会長という役職を任されているもマスコットキャラのような扱いを受けている。
それに相変わらず派手な大剣だった。大きさは九条の身長と変わらない程で、両刃部分には金の装飾。刀身には紫のわけのわからない柄が描かれており、柄は銀色で持ち手のところには野球ボールぐらいの水晶が装飾として取り付けられている。
それに比べ俺は水色に光り輝く光剣に黒の二丁拳銃。
光剣は柄が少し平べったいものを採用。刀身は緩やかにカーブを描いているサーベル。拳銃に関しては四角形の形をしている。その中に円状の空洞がありその空洞の直径を描くようにトリガーがある。
右手に剣を、左手に拳銃一丁をつかみ戦闘態勢に入る。残り一丁は予備で腰のホルダーに下げたままである。武器との共鳴率を眼鏡型端末でちらっと確認する。数値は53パーセント。悪くはない。
視線を前に戻し、九条を見据える。この戦闘時にしか味わえないこの空気。肌にピリピリとくる。
両者武器を構えたまま動かない。集中しているためか1秒が長く感じる。
ただお互い睨みあいその時を今か今かと待っている。
その次の瞬間、戦闘開始のブザーがこの二人きりしかいないブース内で高らかに鳴り響いた。
「俺から・・・行かせてもらうぜ!」
合図と同時に疾駆。九条の持つ武器は見た目が派手なだけで何の変哲もない大剣。小細工無しでまっすぐ突っ切る。
持っていた銃で3発、彼女にではなく彼女の足元に目掛けて放つ。それが床に着弾し、煙幕をあげた。俺は臆することなく突っ込み、距離を縮める。彼女の影が見えた。
だがこのことは彼女にとっても想定済みで俺が真正面――――――大剣の射程範囲に届いた瞬間、軽々と右の片腕だけで横薙ぎにふるう。華奢な体から初見であれば想像できない動きと速さ。その動作だけで周りの煙幕も飛ばされてしまう。
九条が只者では無いと知っていた俺は、その横薙ぎをスライディングでかわし九条の懐に入ることに成功。そのままの勢いで光剣を彼女の左腰部分目掛けて叩き込もうとする。スライディングから低めの抜き胴。まだ勝負が始まって間もないが、授業の残り時間が少ないからな。この一戦もらった!
彼女の体に剣先が触れる寸前、バシッと鋭い音が室内に響く。剣を握っている方の腕を真顔の九条は左手でつかんで止めていた。なんという反射神経。
だが、それだけでは終わらなかった。一度離れようとするも、右腕が動かない。正しくは九条の方が単純な力比べでは俺より上であるということだ。つまり俺がいくらあがいても彼女が放さない限り動かないのだ。彼女は元から腕力だけは学校一であると言われており、実際それを証明するかのように学校の物品を破壊している。本人にその気は無くても加減を知らずにやっているのだから余計にたちが悪いのだ。
それが武器の影響によりさらに強化されている。つまりこの学内で九条に力で勝てる奴はほぼいないということだ。
満面の笑みを浮かべているバカ力の持ち主が片手で大剣を振りかざしていた。冷や汗がタラリと落ちる。そのまま勢いよく俺目掛けて大剣が振り下ろされ――――――
「うおおぉおおぉ!?」
左手で持っていた拳銃を大剣に向けて何発かうち、そのうちの一発が刀身にかすった。
だがそんなもので大剣の勢いは止まるはずもなくそのまま振り下ろされ、思いっきりドガァァァンと床をへこませた。砂埃が俺たちを中心にまった。
「一本目、もらったよ」
そう言った九条の顔にはある種の余裕が浮かんでいる。
だが次の瞬間それは驚きに変わった。砂埃が落ち着き俺の状態を視認したのだろう。
さっきかすったエネルギー弾が幸いにも大剣の軌道をわずかにずらしてくれたのだ。そしてそれが生み出した誤差は腕を掴まれたままでもかわし切るのに十分なものだった。
目の前の大剣が天井に備え付けられているライトの光を反射させキラリと刃部分が煌めき、刀身部分では所々で俺の顔が映し出されている。
間一髪であったが、このまま掴まれたままでは拉致が明かない。
「いい加減、放しやがれ!」
「おおっと!」
そのまま俺は体をひねり、回し蹴りをお見舞いする。その拍子に九条はようやく俺の右腕を解放してくれる。九条は何回かバックステップし後ろに下がる。
しかし俺は持っていた剣を床に突き刺し、間髪入れずに立膝でしゃがんだまま二丁の早打ちで攻めていく。それを九条は難なく大剣で弾かれていく。自由自在に右手、左手と持ち替え時には回転、かわしながらリズムよく無駄のない動きをしている。細く、そして長く結われている銀髪も激しく揺れている。無造作に弾かれた淡い水色の光弾たちはブース内の壁や床に吸い込まれるようにぶつかっていく。
くっそ、あんな大剣振りまわしておいて、何で防ぎきれるんだよ!?
心の中で舌打ちしながらそれでもなお撃ち続ける。スタミナ切れを狙おうという考えも浮かんだが、すぐにそんな甘えを捨て去った。
光弾をはじいている彼女が鼻歌を歌い始めたからだ。
「そんなものかい?じゃ・・・.今度は私から行くぞ!」
九条は踊るかのように大剣を操り俺の放つ光弾をなおもはじきながらこっちに向かって走ってくる。余裕なのか、それともただ単に戦闘が楽しいのか分からないが不敵な笑みのまま。
こ、これだから脳筋は・・・。
俺はトリガーを右手に持っていた方を素早く三回押し、九条に向ける。
「だったら・・・これはどうだ!」
この銃はただ単発の光弾を打つだけではない。入力によって打てる弾丸が変えられるという特徴を持っている。俺がこの武器を愛用する理由の一つだ。
そして今の操作は。
「デストロイ・ショット!」
そう言うと、右手の銃の方から先ほど撃っていた光弾などではなく一筋の大きな光が目の前の光景を占める。九条もさすがに反応できなかったのか光に飲み込まれていく姿がかすかに見えた。ブース内では轟音と共に土煙がブース内を覆う。この銃のいいところはこうして戦局に応じて戦い方を変えられることだ。このタイミングの撃ち変えは九条でも防ぎきれないだろう。立ち上がってから銃を仕舞い、床に刺してあったソードを持ち上げ勝利を伝えるアナウンスを待った。
「・・・?」
しかしいくら待ってもアナウンスは流れない。土煙が収まってきたため辺りが見渡しやすくなる。それに合わせてデストロイ・ショットを打ち込んだ方向を見渡すが一向に九条の影が見えない。
怪訝に思っていると―――――――急に体中の体毛がぞわっとし本能的な何かが頭の中で警鐘を激しく響かせる。
「たぁぁあぁぁ!」
九条の叫び声、いや雄叫びが聞こえる。とっさに上を見上げると、大剣を振りかぶろうとする九条の姿。
「うおおおぉぉぉ!?」
考えるよりも早く体が動き、その場を離れる。バランスを崩してしまい、伏せた形になってしまった。
彼女の叫び声と共に地鳴りがブース内に響く。急いで立ち上がり後ろを振り向くと床は先ほどより大きく凹み、小規模なクレーターを作るとともに周りはヒビだらけになっていた。
あっぶな。あと少し遅かったら真っ二つだった。
しかしそんなことを考えている暇は無かった。九条がゆらりと立ち上がり赤く輝かせた瞳を俺にむけてくる。完全に獲物を狙う肉食獣の目であった
九条は勢いに任せて俺に切りかかってくる。即座にレーザーソードと銃を構え、互いの武器を打ち合う。
やはり一撃が重い。大剣と交わり、弾かれるたびにソードの残滓が激しく散っていく。剣と剣がぶつかる音が耳につんざく。繰り出される攻撃を弾き、時には受け流しつつも隙があれば、片手に持っている拳銃を打ち込む。九条は危なげなく俺の銃弾をかわしていく。このままでは力負けしてしまうことは目に見えている。正面衝突は九条の十八番であり、正直俺の方がジリ貧だ。
だが俺もこのままなぶられて終わるわけにはいかない。少しずつ、本当に僅かであるが相手のリズムを崩しにかかる。攻撃をただいなすのではなく、九条の大剣を長めにソードの上で這わせる、弾くタイミングを早くするなどしてリズムを乱していく。そうすれば自ずと反撃できる隙が生じる。
特に九条は大剣であるため一撃一撃は強力であるがやはり隙は生まれやすい。
彼女の現在の攻撃パターンは武器を持っている手が片手のときと両手の2パターンがある。そしてそれは俺に攻撃を打ち込む角度によって頻繁に持ち変えていた。
そのニヤニヤ顔にほえ面をかかせてやる。
そして崩しにかかって10数回は打ち合い・・・・・・。
九条が両手で大きく武器を振り下ろそうとするこのタイミング。
ここだ!
俺は攻撃を受け流すのをやめ、片手に携えていた銃を投げ捨て両手で握ったソードで彼女の武器を頭上に大きく弾いた。
「!」
その俺の大きな弾きで九条の小柄な体が後ろにのけ反った。
俺の思惑通り体勢は崩れ、懐ががら空きになる。
俺はソードを右手にすばやく持ち直して、彼女の右肩斜めに切りかかる。彼女の再度繰り出す振り下ろしは不可能だ。今度こそもらった。彼女の顔が視界の端に映った。
九条は――――――なぜか真紅の瞳をキラキラさせながら俺を見ていた。
戦闘時の彼女より素の方に近い顔だった。
ギョッとしてしまうが、俺の手は止まらない。切っ先が九条の肩に届―――
「!?」
かなかった。
九条は片手で俺のソードを掴んでいる。武器をどこにやったのか分からなかったが、すぐに大剣がガキィンという甲高い音をブース内で響かせ、その存在を知らせてくれた。
振り下ろすのが間に合わないと踏んでそのまま投げ捨てたのか。
なんてやつだ。
セーフティモードのおかげで俺の剣を握っていても痛くはないが、それでも実行に移すのは難しいだろう。怖いもの知らずにも程がある。
だが悠長に考えている暇を与えてくれるわけもなく彼女の握りこぶしが飛んでくる。かろうじてかわし。左足で思いっきり彼女の腹を蹴った。
今度はもろに入り、後ろに飛んでいく九条。彼女の小さなうめき声が聞こえた。その勢いを活かすことができず、そのままごろごろと転がっていく。
腰に下げていたもう一丁の銃を向け、急いで立ち上がろうとしていたデストロイ・ショットを打ち込む。
本日何回目かの爆音がこのブース内に響く。風が吹き荒れ、煙がまい、室内の状況を把握することが不可能となる。
だがあのタイミングでの攻撃はいくら九条でも避けることは困難だろう。
そう思い油断していた。
横からゴウッと大気が動くような音。
振り向くとそこには砂埃を纏い大剣を振りかぶったまま、飛んでくる九条。
その速さに反応できず―――
「これで・・・・・・1勝目だね」
「へ・・・?」
気付けばジャージが少しぼろぼろになっている九条が俺の後ろに立っていた。それに遅れて吹き荒れる強風と、空間パネルに表示された「LOSE」という敗北を告げる2文字。
え、どゆこと?なんで俺負けてんだ?ていうか最後の俺のショットをかわしたのか?
あたりのエフェクトである砂埃や、クレーターなどは消え失せ真っ白なブースに戻っている。
しかし俺はそんな周りの変化には目もくれずただ戸惑うばかり。そんな所に今回の勝利者である九条が近づいてくる。すでに武器はその手にはない。だが「してやったり」とでも言いたそうな満面の笑みは隠さずに。
「どうだったかな、雲井君」
「いや・・・どうだったも何も砂埃で見えなかったんだが・・・」
「そーかーそーかー」
声色からかなり喜んでいるのがわかる。対照的に俺は悲しくなってきた。それなりに付き合いが長い九条に出し抜かれるなんて思っていなかったからだ。
「最後のやつ、どうやってかわしたんだ。確実に当てたと思ったんだが?」
「へへ~、後ろに武器を放り投げて正解だったよ」
その一言で察する。なるほど、避けたのではなく投げ捨てた大剣でガードしたのか。さすが脳筋。その考えには至らなかった・・・・・・と言うか俺の最大火力が防がれるのか。かなりショックだ。
「防ぎきれはしなかったよ。ほら、服もぼろぼろになっちゃったし」
俺の思考を読むな。実戦訓練で服がボロボロになってしまうのがこのモードのダメなところだ。彼女のジャージはあちこち焦げていて、穴も開いている。彼女のあでやかな肌が服の穴から見えるため、目を逸らす。よく見れば俺のも少し焦げていた。
「い、いや、それにしてもあのお前にそぐわないスピードはどうやって生み出したんだ?武器の隠された能力か?」
「え、特別なことしてないよ。ただ前に飛んだだけー」
俺の周りをくるくると舞いながら銀色の小動物がそう答える。数本の髪が俺に当たり少しくすぐったい。しかも戦闘後だというのにもかかわらずほのかにいい香りがした。それが俺の鼻孔をくすぐってくる。
「さすがの雲井君もあの速さには対応できなかっただろう」
ピースサインをむけウインクをしてきた。確かに大剣携えてあんなスピードで迫ってくてくるやつは世界広しと言えどもお前だけだろうよ。運動神経が良いとは思っていたが少し侮っていたようだ。
それにやっぱり怪力ってこえー。俺が畏怖をこめた目線で九条を見ていると。それが伝わったのか距離を縮めて、顔を覗いてくる。
「ふふん、やっと雲井君も私を尊敬したかい?結構結構」
全然全くこれっぽっちも俺の気持ちは伝わっていなかった。俺、こんなやつに負けたのか。
しかも戦闘途中からいつもの小動物状態に戻っていたしな。
はぁ。せめて負けるなら本気モードの九条に負けたかった。
だが俺の中にまだ引っ掛かっている物があった。目の前で何か考え事をしていた九条に再び尋ねる。
「なぁ、教えてくれないか。俺がデストロイ・ショットを打った後、二回ともどうやって俺の居場所が分かったんだ?あの煙の中じゃあ見えなかったと思うけど」
「それはね、これだよ!」
そう言って自分の顔を自慢げに右手で指差す九条。はっきり言って意味が分からない。
「すまない、何を言いたいのかがわからないんだが・・・。まさかとは思うが視力とか言わないだろうな」
「違うよ、これだって」
自分の顔を前に出してくる。やはり理解できず、俺は腕を組んで首をかしげる。
「もったいぶらずに教えてくれないか?」
「んー、見えない?これだよ、これ」
そう言って九条はさらに顔をこれでもかと言うぐらい近づけてくる。その距離わずか数センチ。お前には恥じらいと言うものは無いのか。
身長差があるせいで九条は上目使いである。
ここで急な話だが体育館の各ブースではカメラが付いている。広いフロアの方にモニターでどんな戦いが繰り広げられているか確認できるようにするためだ。担当教師もそのモニターを使って成績評価等を行っている。そしてこのブースにもその例にもれずカメラが備え付けられている。
ここで話を戻すがこれではそのカメラの角度によってモニターに俺と九条がキスをしているように映っているのではないかと不安になる。慌てて離れようとするが九条の左手でガシッと俺の腕が掴まれ離れる事が出来なくなる。
こういうときほどこいつの天然さと馬鹿力は最悪だなと思いつつ俺は最後の抵抗で目を逸らす。
「だから、目を見てって」
いや、そんな近くで直視とか無理だ。俺もお前も健全な若者なんだからそういうのはもっと順序をだなぁ・・・。そう思いつつ横目でちらっとだけ見てみる。可愛らしい顔が眼前にまで迫ってきているが。
「?」
すると九条の瞳に少し違和感を覚えた。彼女のきれいな真っ赤な瞳。出来るだけ彼女の顔を意識しないように横目のまま見てみると、その瞳の周りには小さい長方形や円が映っている。明らかに室内灯を反射している光ではなかった。その不自然な光には一つだけ心当たりがあった。
「おい、まさかそれって・・・」
「ようやく気付いたかい?これが新しい電子デバイス端末なんだ」
ようやく俺を解放し、自慢げに話しくる。
電子デバイス端末とは一昔前で言うケータイである。今は時計型、片耳にかける物、そして俺が愛用している眼鏡型の3種類が世界中に普及している。
そしてつい先月に、コンタクト型のデバイスが発売されることが大々的なニュースとなっているのを見た。だからその存在と大まかな機能は知っている。従来の機能以外に戦闘時でのロックオン機能、熱感知などのアシストが付与されているらしい。ちなみに俺が愛用しているのは一番の旧式だが、眼鏡型の物だ。
あの煙幕の中、俺を察知できたのはきっと熱感知なのだろう。
だがまだ発売はされていないはずだった。
「ちょっと待てよ。なんで発売前の代物をお前が持っているんだ?」
「これ、一昨日事務室の方で試験テスト用にいくつか届いたらしくてね。データが少しでも多く欲しいって言うから私もそれを手伝っているんだよー」
そう言うことか、と俺は納得する。
「で、使ってみてどうなんだ、実際」
「そーだね。やっぱり熱感知は便利。視界が通らないところだったら一気に優位になれるから。でね、まだこれ言っちゃいけないらしいんだけど雲井君だったら大丈夫だと思うから教えとくね」
「ん?だいたいの機能ならニュースで聞いたけど、まだなんかあるのか」
「そうそう、一昨日グレイさんから聞いた話なんだけど、相手の動きや戦闘パターンを予測するアシストが付くかもしれないんだって」
「それはすげぇな」
実戦が不慣れな人は学生だけでなく大人にも少なからずいるだろう。そんな人たちにはかなりありがたいアシストだろうな。
「でも、俺はいいかな。せっかくここまで腕を伸ばしたんだし、これからも自力でやっていきたい」
「それに関しては同意見だね」
そう言ってにぃっとはにかむ彼女。頭の回転が速いこの九条は普通に好きなのだが、なんせ素が天然だからな。
ノルマを終えて、このブースから出てしまうときっと戻ってしまうんだろな。そんな名残惜しさを噛みしめながら。
「九条、まだノルマは2回分残っているんだ。さっさと俺の2連勝で終わらすぞ」
「ふふん、そう簡単にいくかな?じゃ、始めるとしようか」
九条に再戦を申し込む。俺と九条は先ほど同様距離を開け、和やかなムードは一瞬にして消え去った。
今あるのは相手に対する警戒心、敵対心。そして相手の対する敬意。ただそれだけだ。
さっきも言ったようにレート上位者の対戦相手はそのほとんどが上位者である。
だからこそ俺たちはライバルでありながら、切磋琢磨しあえる仲間でもあるのだ。
上位者にならなければ、俺にとっては無縁だった九条とのつながりも一切なかっただろう。
そんな今の生活も案外捨てたものではないのかも知れない。
どうだったでしょうか。今回から女の子が出てきましたよぉ!ただ自分の描写能力が乏しく皆さんにはわかりづらいことになってしまっているかもしれません……。もっと頑張りますぅ。
一番はイラストが描ければいいんですがね。自分中学の時は美術1か2を行き来してましたし、高校のときは選択でしたので音楽に全力で逃げました。音楽は元々吹奏楽を中学時代でやっていたので何の問題もなくいい成績だったので。
まぁ僕の成績談義をしても仕方ないですね。
物語「戦士たちは何がために戦う」タイトル通り、ようやく戦闘シーンが!
めちゃくちゃ大変ですね、戦闘シーン!
色んな小説を読み返したり追加で買ってきたりとして、勉強しました。
その成果が出ていればいいのですが。
せめて武器デザインぐらいできればなぁ、と思う今日この頃。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
感想、レビュー(低評価でも嬉しいです)お待ちしております