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プロローグの始まり ~遭遇~

2064年、地球ひいては世界に衝撃がはしった。

宇宙から突如、銀色の飛行物体が日本の北海道元旭川地区に墜落してきたのだ。

日本は人口減少に伴い、政府が居住区を各地で指定していた。その影響で旭川には現在居住者はおらずただの廃墟となっており、誰もいなかった墜落現場では幸いにも死傷者はゼロだった。

しかし元々は家や商店街、それら様々な建物が放置されたままであったため墜落現場周辺は大惨事であった。落ちてきてもなお勢いが止まらなかったのであろうその墜落物は一本の瓦礫だらけの大きな道をかつての生活地域のど真ん中に作っていた。

推定全長40メートル級の機体は各所で小さな赤や黄色などの光を点滅させておりそれ以外の動きは全くない。そのいくつもの光点が異常を示しているのは誰の目からでも明らかだった。

船体の形は大小2つの長方形が長い方の側面同士くっついたようなもので大きな方の片側の先端には丸みがある。その先端部分に特に大きな傷が無かったことから墜落の衝撃にも耐えうる強固な素材で作られていることが窺い知れる。小さい方は窓ガラスのような透明な素材であったためブリッジであろう。ただマジックミラーの類なのか中の様子を確認することは不可能だった。そして船体部分にも所々に窓のような物があったがブリッジ同様艦内を見ることは叶わない。

だが火器管制が外から一門も確認できないことからただの宇宙航行艦ではないかという意見もあれば、脈絡なく地球に落ちてきているためこれはどこかからの宣戦布告なのではと議論しあう各国首脳会談が連日行われている。

いつ何が起きるかもわからない状況で墜落現場に急行した日本警察は下手に手を出すことも出来ず調査は飛行物から離れた距離のみから行われた。

人類初、地球以外の生命体との遭遇になるのではないかと全人類は不安と期待、様々な想いが込められた視線をそのシルバーの機体に向けている。

そのまま一週間が経過し、世界中にその謎の飛行物体について報道され、世界中の人々の注目はその墜落物に集まっていた。

そんな中・・・・・・。

「はぁ、一体いつになったら帰れるのかしら」

飛行物体から約100メートル離れた場所。

お昼を少し回って陽の光が一段と暑く照らされている、仮設テント内。

少々汚れたパイプ椅子に座っている女性がふぅっと長机に肩肘を付いてアンニュイな表情でぼやく。ブラウスは第二ボタンまで開けていて上から見れば下着が見えそうになっている。袖は肘近くまでまくられており、背もたれには先刻まで来ていたのであろうスーツが半分に折られた状態で掛けられている。タイトスカートから見える太ももは男性職員を振り向かせるには十分なものだった。

明るめのブラウンでロングヘアー。実年齢よりも若く見られることの方が多そうなきれい顔立ちの女性。身長は170近くですらっとしたスタイル。おまけに子供は二人。周りの部下や同僚たちも羨むものを持ち合わせていることを当の本人はあまり自覚していない。

そんな彼女の目下の悩みは現場でのむさ苦しさ、忙しさでもなければ上司からの無理難題の押しつけでもなく不衛生な職場のせいでなった肌荒れでもない。

丸一週間も家を空けて子供たちは大丈夫なのかという心配、ただこの一点であった。

可愛い子供たちのことを考えると周りの何人もの警官たちの騒々しさや整理しなければならない大量の書類の束、それこそ飛び交う議論の声も彼女にとってはどうでもよかった。

ましてや墜落物の事も忘れかけ、時折「どうして、北海道にいるんだろう・・・」とつぶやいた時には周りから少し休めと言われたほどである。

この廃校舎を利用して設営された仮設テントはかなり広かったグラウンドを一瞬にして日本県警特別対策本部にその姿を変えている。無論、4階建ての校舎もすべて対策本部となっていた。

現在女性がいるのはちょうどグラウンドのど真ん中に建てられたテント内。そのテント内にはいくつかの長机で作られた急造の簡易オフィスのようでいつもと目にする様な職場の体をなしていた。彼女の目の前には長机にのせられた支給のノートPCと山積みの書類、そしていくつかの栄養補給食。

愛する我が子たちへの思いにふけっていた女性はふと視線の端に目つきの悪い同僚がテント内に入って来るのを捉え、意識を現実へと引き戻す。

「あ、ソウジくーん。やっと会議終わったの?」

この対策本部はあちこちでいろいろな作業が同時進行かつ早急に行われている。今後の動向を決める会議、墜落現場での対応マニュアル作成、マスコミ対応、今後のスケジュール調整など他多数。

即座に外国から選りすぐりの研究者たちによる科学チームが作られ、墜落物の解析もこの本部で行われているほどだ。そのチームの代表者は歳が同じくらいの女性だったはずだ。

そんな緊迫したテント内で何とも不釣りあいな彼女の明るい声が通る。

その声に気づいたぼさぼさの黒髪男が女性の方へと歩いていく。女性と同じような、しかし男性用の警察制服を身に着け、その腰には鞘に納められた刀剣がぶら下がっている。ボタンは胸元まで開いており白のシャツがその姿をさらしていた。

「ええ、つい先ほど・・・というか七海さんも会議出てください」

表情は真顔であったが、やや疲れ気味の声に聞こえる。

最近昇進し、同じ役職になったのだが部下時代の方が長いため敬語で話してくるのが七海、と呼ばれた女性にとって少し可笑しく感じた。

「面倒くさいから、却下」

七海は30代後半の年齢であるが警察内の地位はそれなりに高く、能力は優秀である

しかし家庭や私情、そして面倒くさがりで職務を放棄しがちなのが玉にキズであった。彼女は椅子に座ったまま長机の端に置いてあった栄養補給食のスティック菓子を取りそれを食べ始めた。もう一つを取り、立ったまま周りの様子を見渡している男にひょいっと片手で差し出した。

「どうせまだ何も食べてないんでしょ。ソウジくんも何か食べないとぶっ倒れるわよ」

「いや、結構です。こんな暑さじゃ食欲もわきませんし、俺は数日飲まず食わずでも動けるんで」

そう言いつつソウジは七海の正面にある長机にもたれかかった。そのまま胸ポケットから扇子を取り出しそれで少しでも涼もうと試みていた。それでも額から出てくる汗は止まらず、グッショリとしている髪からは汗が時折雫となって、地べたにポタリと落ちる。

ここはすでに政府によって捨てられた街。

つまり電気、水道といった人が生きるためのライフラインは全て止められている。北海道唯一の居住区である札幌市から電気を通してもらっているが最低限の電源しか繋ぐことが出来ず扇風機も校舎のクーラーも付けることが出来なかった。

ちなみに水は毎日給水車が日に5回ほどここにやって来て補給をしてくれている。

いくら北海道とはいえ、夏はやはり暑い。加えて周りの人の多さ、稼働しているコンピュータの数々。セミの鳴き声も最高潮のこの季節にこの仕事場は控えめに言って地獄であった。

七海は黒髪に差し出した栄養補給食を机にポイッと投げ、食べかけの方を口に運び込む。それが口の中でありったけの水分を吸っていく。ネチャ、ネチャと歯の裏にこびりつく感触がたまらなく不快であったがそれを我慢し、飲み込む。そんな様子を見かねてか、黒髪が近くのクーラーボックスからすでにぬるくなってしまった飲料水のペットボトルを持ってきてくれる。それを受け取り、すぐさまふたを開け、思いっきり口に水分を補給する。

ゴキュッ、ゴキュッと喉を鳴らせ、体の中に水を流し込んでいく。ふいーっと、ペットボトルの水を一気に飲み終えるその姿は、まるで仕事終わりの一杯目を飲む中年サラリーマンの様であった。

「ありがと・・・・・・で、いつまでこの状況が続くの?会議で今後の方針決まった?」

「全然話が進まずに終わりました。相変わらず静観派と強行突入派でキレイに真っ二つですよ」

呆れた物言いで、黒髪の男は扇子をたたんで机に投げると次はさっきまで七海が使っていたうちわを机から取り、それで仰ぎ始める。扇子より涼しいのか、少々男の頬が緩んだ。

「冬弥さんも頭抱えていましたよ、こんな奴らの意見まとめるなんか無理だって」

「あー、あの人のイライラしてる顔が目に浮かぶー」

冬弥と言うのは七海の夫である。どちらか片方でも地元に残留できればよかったのだが残念ながらこの非常事態はそれを許すことなく二人とも現場に派遣されたのだ。七海は大きなため息をついた。

「ため息なんてして、らしくないですよ」

「だって、愛する我が子たちには会えないしこんな蒸し暑いとこでもう一週間も過ごしても状況は変わらないし。冬弥もイライラするのがわかる」

空調が無いため和らぐことのない暑さ、子供に対する不安にまとまらない会議ときては、あの温厚な旦那でもイライラするのはむしろ当然と言える。彼の眉間にしわを寄せた、いかにも不機嫌な顔が目に浮かぶようであった。

食べ終えたスナック菓子の袋を座ったままゴミ袋へと投げ入れる。空気抵抗で入らないと思われていたが案外入るんだなーと内心感心する。

「結局はあのロケットらしきものから生命体が出てくるのかどうかが論点ですから。結局は向こう側のアクションを待つしかないと署長が言ってました」

「まぁ、あのおじいちゃんなら一番無難な選択するよねー。そのせいで下の人間に迷惑被るまでがお約束だけど」

白髪とひげがもじゃもじゃな直属の上司が頭の中で思い浮かんだ。特殊な材料で造られているのか中の事は何を使ってもわからないし、そもそも近づくなと言われているためろくな調査ができないと科学チームが嘆いている、という話を聞いたことがあった。

我が子たちを暗示しつつ前髪を指先でくるくるしては離し、それを繰り返す。

男はうちわも諦め、腕を組んで今後の行く末を心配していた。ロケットもどきは一週間も沈黙したままだ。

七海はまるで台風みたいだ、と感じた。当の墜落物は何も起きない台風の目。

だが周囲の状況は暴雨風のように乱れている。警戒域が世界中すべてを黄色のゾーンに変えている。

本部の周り、そしてロケットの周辺、はては空にはヘリコプターで連日報道人たちが詰めかけている。あれほど危ないと言っているのに近づく馬鹿な報道陣たち。一度くらい痛い目を見たらいいと心の中で毒づく。

そして周囲の自分たちを取り巻く環境。何も進展せず時間だけが刻一刻と無駄に過ぎていくこの状況。端的に言ってみんな限界だった。

「ねぇ」

「?なんです」

黒髪の男性はもの言わぬロケットの様子を中継モニターで眺めていた。対策本部ではどのテントにも数台の中型のモニターが設置されており、リアルタイムでその様子が確認できるようになっている。

「もう爆破しちゃったら万事解決だと思うんだけどどう?次の会議で提案してみてよ」

「それは七海さんが会議に出席して直接提案してください」

モニターに視線を向けたまま返って来るテキトーな返事。

七海は半分死んだ目でグデーッと長机に頭を突っ伏した。朝にせっかくセットした髪が台無しであったがもうそんなものは彼女にとってどうでもよかった。

テント内にいる一番若い婦警の子(26歳)は三日目で寝巻に使っていたジャージで仕事をし始めたし、マスコミ対応でいつも笑顔を日本中、いや世界中に振りまいていた女の子(31歳)は5日目でとうとう化粧をあきらめた。彼女たちに比べれば七海は頑張った方だろう。明日から私もボサボサヘアーだーと思いつつ顔を机に置いたまま横を向く。書類の山だけが彼女の琥珀色の目に映る。

「ねぇ、ソウジ君はボサボサヘアーの私でも好きでいてね」

彼女の目の前にはもはや消化するのも嫌なぐらいに積みあがった書類の山が作られていた。へへぇ、うふふ、と魂のこもっていない乾いた笑いが自然とこみ上げてくる。

だから周りの雰囲気が一変したことに気づく事が出来なかった。

「いや・・・・・・何言ってるかわかりませんが・・・・・・七海さん・・・これ・・・・・・!」

「ん~何?」

黒髪の男、ソウジ君の応答が歯切れ悪いと感じ、ゆったりと上半身を起こす。周りを見渡すとこの暑い中誰も身動きせず、ただ一点を見ていた。モニターに何か写っているのだろうか?

疑問に思いつつ、視線を皆と同じ方向にやる。

「あれは・・・・・・」

周りの緩み切っていた緊張感は一気に張りつめ、七海の頭は瞬時に覚醒する。

さっきまで騒がしかった他の警官たちも今は手を止め、モニターを見ている。

まるで時が止まったようであった。

暑さなど感じない程に体感では寒気を覚えた。開いた口が塞がらないとは今まさにこういうことを言うのだろう。

今、数台のうちの一つのモニターに映っているのはロケットの出入り口と思われていたところを固定カメラで撮っている画面だ。

一週間前から今までずっと何も変わらなかったその扉が・・・・・・少しずつ開きつつあるのだ。言葉を失う。ゆっくりと中からは灰色の煙を吐き出している。開いた先は煙が立ち込め、邪魔をしているため中の様子を知ることはできない。それがすごくもどかしかった。

一体誰が中にいるのか。

この一週間、何が中で行われていたのか。

その扉の先には、何が待ち構えているのか・・・・・・・・・その回答を持ち合わせている者は世界中何処にも、誰もいない。ただあの墜落物の中にその答えが待っている。

これからさきどうなってしまうのか、七海もソウジも、そして誰にも想像することが出来なかった。



えー、どうだったでしょうか。投稿するとき、クリックしようと思っても寒さと緊張で指先が震えてうまくすることができなかったMiiYと申します。

拙い文章ではありますが最後まで読んでくださった方々ありがとうございました。

よければ感想、レビューしてくださればと思います。

今回の投稿文は「なんだこれ?」と思われた方もたくさんいらっしゃるかもしれませんがここから物語を広げていく予定ですのでこれからの展開を楽しんでいただければと思います。

ありがとうございました。

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