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夕暮れ色と太陽  作者: Shu
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俺が前髪を伸ばす理由

コンプレックスを含めて自分が好きになれたら

あれから数年が経った。こう言ってしまえば、何事もなく過ぎ去ったようにも感じるが、その数年の間にたくさんのことが起こった。俺が中学に入ってすぐに祖母が倒れて亡くなった。祖母が亡くなった日、俺はずっと祖母のそばを離れずに泣いていた。でも、それ以上にタコ吉と俊太も泣いていた。祖母は優しい人だった。だから、きっとあっちでも幸せに暮らしていると思う。そして、それから一年後に祖父も亡くなった。俺は大人のふりをして、涙を堪えた。でも、一人になって、祖父母の写真が並んだ仏壇をみると堪えていたものが溢れた。面倒みて愛してくれた祖父母もいなくなった。俺は孤独に・・・

「お兄ちゃん?どうしたの?寝ないの?」

声がする方を見るとパジャマを着て、目を擦りながら、寝ぼけているタコ吉が立っていた。そのとき、父が言っていたことを思い出した。

「一人で生きることはない・・・愛してくれる人がいる・・・」

確かにそうだった。祖父母がいなくなったから一人ってわけではない。タコ吉という家族がいて、俊汰という友達もいる。俺は一人じゃない。それを確かめるように俺はタコ吉を抱きしめた。

その日から数ヶ月後に俺たちは引っ越した。俺が高校、タコ吉が小学校に入学することがきっかけだった。俺は高校入ってすぐバイトを始めたが、それだけでは足りない。そのほかは父方の祖父が助けてくれている。父方の祖父は数年前に妻、俺の祖母を亡くしてから一人で暮らしていた。母方の祖父の葬儀のときに俺のとこに来て「俺は、子供と一緒に住む気はないし、お前の面倒を見る気もない。だが、お前を見捨てて、あいつらに祟られるのも困る。だから、俺が少しだけ手助けしてやる。いいな」と偉そうに言っていた。父方の祖父は母方の祖父母と違って、少しひねくれた人で、ああは言っていたが、多分、俺たちのことを心配してくれていたのだろうと思う。それにあれから父にも会った。まだ、こっちに帰ってくる予定はないらしい。「お前が成人するまでは少しだけだが面倒みさせてくれ」と言って、入学祝いをくれた。この二人は素直じゃない。確かに親子だなと思った。

高校も小学校も自宅から近くて、俺は毎朝、タコ吉を小学校付近まで送ったあと通り道にある俊太の家に寄ってから学校へ向かう。

「いってきまーす」

「じゃあな」

タコ吉を送って、俊太の家の前まで来ると金髪の男が立っていた。近寄って挨拶をすると「よお」と返してくれた。こいつは、山本。中学の頃に同じクラスになった。俊太とも仲がよかったらしく、それ繋がりで俺も仲良くなった。好きなバンドが一緒で、ライブに行ったりもした。恰好もそうだが、中身の大分チャラチャラした性格だが、それは表の姿で、俊太と三人でいるときは大人しくてクールだ。過去に何かあったらしく、女子にはモテモテだが、誰か一人を愛す気はないらしい。

「そういやさ、新曲聞いたか?」

「ああ、あれね、聞いたよ」

「やっぱ、あれ、ドラムがすげえいいよな」

「あれはライブで絶対聞きたいよな」

そんな話しをしていると、ガチャと扉が開く音がして、中から俊太がでてきた。「ごめんごめん」謝ってはいるが、顔はふざけているようだった。

「いつもだろ。謝るなよ」

「そそ、気にしてねえから」

「え、なに、二人とも怒ってね?」

「怒ってねえよ」

「俺もー」

俺たちはこんな感じで毎日登校していた。

「そういえば、佐藤の前髪、すげえ伸びたよな」

俺は、小学校の頃から少しずつ前髪を伸ばしていた。それは、もちろん、目を隠すためだった。

「そうだな、そろそろちょっと切らなきゃな」

「いや、佐藤の切ったは切ってねえからな」

目のことについて、言ってくる人は減らないが、俺自身が少しずつ気にしないようになってきてはいた。でも、目を隠すことはやめなかった。

「前髪切ったほうがかっこいいのにな」

「そうなのか?俺が会った頃には大分長かったからな」

「おう、めっちゃかっこいいんだぜ」

そんな二人の会話を聞き流しながら、考えてみたが、この二人は俺の目をみても何も言わなかったし、気持ち悪がらなかった。他にも同じ図書委員の子とか今のクラスメイトは俺が目を隠すこと、たまに気付いた奴がいてもそいつが騒いだりはしなかった。小さい頃は誰も俺を愛してくれないと思っていた。誰もが俺の目を気持ち悪がると思っていたが、そうじゃなかった。俺の目を一番嫌っていたのは俺だったのかもしれない。俺が俺の目を好きになることができなかった。昔、祖母に言われたことがあった。


「あなたの目は夕暮れ色と太陽の色」


その言葉を聞いてから、俺は自分の目が少し好きになれた気がした。俊太やタコ吉、山本に出会えて、傷ついた過去を振り返っても笑い飛ばせるようになった。一人だと思っていた過去の自分に会ったら言ってやりたい。「一人じゃないぞ」って。そんな綺麗なこと言えるくらいには俺の心に余裕が生まれたのかな、と思う。


放課後、俺は、俊太と山本と一緒にタコ吉の迎えに行った。俊太は子供が好きらしくタコ吉の世話もうまかった。山本は、子供の世話は少し苦手みたいだが、「吉はいい子だから平気」と言っていた。

「よっしゃ、今日、花火でもすっか!」

という、俊太の思い付きで、今日の夜に俊太の家に集まって花火をすることに決まった。タコ吉はすごく行きたそうに喜んでいて、たまたま今日はバイトが休みだったのもあって、俺は賛成した。山本もちょっといやいやながらではあったが、来るらしい。そのあとに俊太が電話で詩音ちゃんという、俺たちと同じ小学校に通っていた女子を誘った。詩音ちゃんを誘うと言ったとき、山本の顔が少し引きずったように見えたが、気のせいなのか、いつも、詩音ちゃんといると目を逸らしたり、あまり会話に参加しなかったりするので、苦手なのかと聞いてみると「いや、別に嫌いってわけじゃねえよ」というので、俺の思い過ごしだったようだ。


その日の夜、俺とタコ吉は用意したお菓子を持って俊太の家へ向かた。

「花火楽しみだね!」

タコ吉はワクワクした様子だった。「そうだな」と返したとき、向こう側から男女が歩いてくるのが見えた。少しずつ近づくたび、誰かに似ている気がしてきた。声が聞えてくる、声も聞き覚えがあった。すれ違う直前になって、やっとそれが、自分の母親であることに気づいた。相手も俺の顔をみて、ハッとしたような表情をしたので、気付いたのかもしれない。でも、俺は、それを無視するように歩き続けた。すれ違う瞬間に「ちゃんと生きてたのね」とボソと聞えた。母は五歳の頃に俺を捨てて、それから男と出て行った。あれからずっと会っていないし、記憶のどこかで忘れようとしていた自分もいた。だけど、今この瞬間に思い出した。忘れようとした黒い過去を全部。俺が立ち止って何か言い返してやろうと思ったとき、俺の手を小さな手がギュッと握った。タコ吉だった。

「みてみて、猫がいるよー」

そういうとタコ吉は猫のほうを指さした。その方向には三毛猫がのんびりした様子で歩いていた。

「ああ、猫だね、かわいいね」

俺は精一杯笑って見せた。うまく笑えているか分からないが、笑ってみた。

そうこうしていると、母親の姿はどこかへ消えていて、気付けば俊太の家の近くまで来ていた。家の前で俊太が待っていて「遅いぞ」と手を振っていた。俊太の家にはすでに山本と詩音ちゃんが来ていて、俺たちが最後だったらしい。俊太の家の人が用意してくれたスイカを食べたあと、花火を始めた。俊太もタコ吉も詩音ちゃんも楽しそうにしていた。俺と山本はそれを少し離れたところからみていた。

「なんかあったか?」

山本が唐突に聞いてきた。その目は花火の方を向いていて、何気なく聞いている感じだった。

「いや、別に、なにもないよ、どうして?」

「だって、お前が時間通りに来ないのはなんか変だなって、お前の足を止める、もしくは、緩めるようなことがあったのかと思ってさ」

山本はやけに勘が働く。こうなってくると、あまり嘘をついても意味がないことが自分でもわかる。

「実の母親に会ったんだ。十年ぶりくらいかな」

「へー、それが原因?」

「ま、そうかな」

山本は消えた花火を見ながらぽつりぽつりと昔の話しをしてくれた。

「俺は、昔、母親に置いて行かれたことがあるんだ。家に一人。ずっと帰ってこない母親を俺は待ち続けた。でもある日、父親に言われたんだよ、もう帰って来ないから待つのはやめろって、そんで数年たってから街中で母親を見かけたんだよ、でもその隣には、男がいて、子供もいた。裏切られた気分だったよ。でも、もう、相手には新しい人生があるなら、俺も新しい人生を歩んだほうがいいなって思って、忘れることにしたんだ。、ま、実際のとこ、全然忘れられてないんだけどさ」

山本がこんなに自分のことについて話したのは珍しかった。いつも女子に愛想を振りまいたり俊太の面倒みたり山本とはまた別の顔を知ったように思えた。

「なんか、お前が昔の俺と似てる気がしてさ、抱えてるもんが違うのはわかるけど、でも、お前はもう、一人じゃないし、しっかりしねえと、吉が不安がるだろ。お前はアイツの兄であり父親でもあるだろ。守ってやんなきゃ」

そう言って山本は別の花火を取りに行った。「うん、頑張ってみる」とつぶやいてみた。


人は抱えるものがそれぞれ違う。コンプレックスや忘れたい過去、トラウマ、それを忘れたふりして毎日生活している。母がなぜ、俺たちを捨てたのか俺にはわからない。でも、きっと、母も俺がどんな気持ちで今まで生きてきたのかわからない。それでいいと思った。母のことを忘れたい過去の中にしまっておくのはやめにしようと思う。俺も少しずつ未来を生きていこうと思った。みんな、いろんなことを隠しながら、そしてそれを支えながら、少しずつ相手を理解して、認め合って、好きになる。俺が自分の目を好きになれたみたいに、あいつらのことを好きになれたように、母のこともそして、自分自身のことも好きになれたら、と思う。


翌朝、俺は美容室へ向かった。

「前髪切ってください」

「はい、あれ、お客さん、目の色が、」

「はい、俺、生まれつき、目の色が違うんですよ。夕暮れと太陽の色です。」

「へー、珍しいですね、でも、確かに、きれいな色ですね」





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