はじまりと桜
明日、父と向かう場所は、新しい生活を始まる場所となる。
翌朝、俺は父の車に乗って見慣れた景色が通り過ぎる窓をみていた。突然、車が停車したかと思ったら「着いたぞ、降りろ」と言われ、俺は車から降りた。そこは昨日までいた施設ではなかった。住んでいた家の隣町にある純和風の家で、花壇にきれいな花が咲いていて、よく手入れがされていて、そこは俺が知っている場所だった。
「え、ここ、おばあちゃんち?」
俺は戸惑いながら父に聞いた。父は無言で玄関の方へ歩いて行った。俺はそのあとをついて歩いた。玄関の前まで来ると父はインターホンを鳴らそうとしたが、庭のほうから声がしたのでその手を止めて、庭の方へ顔を向けた。庭の方には俺の祖母の姿があった。
「あら~よく来たね」
俺は祖母の姿をみるとすぐに抱き着きに走った。俺は祖母が大好きだった。
「お久しぶりです。急な頼みですみません」
父は丁寧にお辞儀をした。俺はどういうことなのかわかっていなかった。
「いいのよ、そうだ、中にはいってお菓子でも食べようか?」
祖母は俺の顔をみてニッコリと笑った。俺はその笑顔につられて俺も笑顔になった。家の中には祖父もいて、父と祖父は二人きりで話していた。長い時間だったように感じた。俺は祖母と別の部屋で祖母が用意してくれたお菓子を食べていた。何があったのか聞きたかったが、聞いても何も答えてくれそうにないことを察して何も聞かなかった。時計をみるともうすぐ八時になりそうだった。「お父さんの仕事の時間だ」俺は立ち上がって、父たちがいる部屋へ向かった。その姿を祖母は止めることはしなかった。父たちがいる部屋の前につき、俺は父を呼ぼうとしたが、できなくて、迷っていると部屋の中から「お願いします」「うちの娘がすまないことをした」
と、父と祖母の会話が聞こえてきた。祖父の言う娘とは俺の母親のことだった。会話を聞いた俺は、なぜ二人が謝っているのかがよくわからなかった。すると突然後ろから「入りますよ」と声がしたのに俺は驚いて声をあげた。振り向くとそこには祖母が立っていて、祖母は部屋の扉を開けた。
中にいた、父と祖父は机を挟んで向かい合わせに座っていて、二人とも少し驚いた顔をしていた。
「二人とも、この子にもちゃんと説明してあげたほうがいいんじゃないですか?」
と祖母は言うと俺の背中をポンと押して中にいれてくれた。父と祖父は少し難しい顔をしたあとに、父が「横に座りなさい」と言って、俺を横に座らせた。そのあと、父と祖父は俺が分かるように説明してくれた。母が浮気をして、出て行ってしまい、父と母が離婚したこと、母には子供を育てる気がないこと、父は仕事が忙しいため子供を育てるには難しいと判断した祖父母が俺を引き取ると言ってくれたこと、今までのこと、これからのことたくさん説明された。俺は理解できる部分だけ理解する感じで全てが理解できたのはあとになってからだった。
「それでは、よろしくお願いします」
父は車に乗って仕事に行ってしまった。祖母が「中へはいりましょうか?」そう言うので俺は家の中へ入った。今日から新しい生活が始まる。
俺は祖父母と暮らすようになってから以前よりも明るくなっていた。たまに顔を見に来る父にも「お前が元気そうでよかったよ」と言われるほどだった。保育園も施設もやめたので、同年代の子と遊ぶことはなかったがある日、「すいませーん」と玄関の外から声がした。その声は同い年くらいの声に聞えた。俺は玄関の扉を開けた。そこには一人の男の子が立っていた。その子は水色の髪をしていて、寝ぐせなのか髪質なのかわからないが髪がはねていた。その日はちょうど祖父母は外出していて、家には俺しかいなかった。
「なんですか?」
とその男の子に聞くととても焦った様子で「トイレ!」と答えた。これがのちに友達になる俊太との出会いだった。
トイレからでたあと俊汰は自己紹介してくれた。
「僕、しゅんた、君は?」
「僕は、さ、さとう」
「さとう?甘そうなだな!」
しゅんたは、とても明るい子のようで膝には絆創膏が貼られていた。一体何があったのか聞くと、外で遊んでいたところ突然トイレに行きたくなって近くにあった家に駆けこんできたそう。
「こんなことよくあるの?」
「んー、たまに」
「そっか、たまにか、気を付けてね」
「うん!」
しゅんたは、近くの保育園に通っているらしく、この家の前をよく通るらしい。たまに祖母のことを見かけては挨拶をしていたので、顔見知りだったらしい。しゅんたは、しばらく話したあと帰って行った。俺は同年代の子と何気ない会話ができたことが嬉しかった。そのことを祖父母にも話すと「あの、元気な子か。じゃあ、同じ小学校になるかもな」と祖父に言われた。その言葉に俺はハッとした。自分がもうすぐ小学生にあがることを改めて思い出したからだった。
桜の花びらが舞い踊る日、その日が小学校の入学式だった。俺は元々人見知りだったので馴染めるか不安だった。祖母の手をギュッと握りしめ、離さなかった。すると向こうの方から誰かが手を振って走って来るのが見えた。あの髪・・・「しゅんただ!」俺は祖母の手を離してしゅんたの元へ走って行った。しゅんたは、相変わらず髪の毛がはねていたが、以前会ったときとは違って、きれいな制服を着ていたので凛々しくみえた。
「同じ小学校だったんだな!今日からよろしくな!」
しゅんたは元気にそう言ったあと、また戻って行ってしまった。俺は、しゅんたに会ったことで安心して、入学式を無事に終えることができた。
入学式が終わったあと、俺は祖父母の元へ走って行った。するとそこには父の姿もあった。仕事を少しの間だけ抜けだして見に来てくれたらしい。
「お父さん!来てくれたんだね!」
父は笑っていた。俺はそれが嬉しかった。父はしゃがんで俺の目を見ていった。
「入学おめでとう。これから、勉強頑張れよ。」
「うん、頑張るよ」
父は少し疲れているようにも悲し気な風に見えた。
「お父さん?」
「最後に、言いたいことがあるんだ、俺が言えた義理じゃないが、お前は一人で生きることはない。絶対誰かが、助けてくれる。お前のことを愛してくれる人がいる。それを忘れないでくれ」
父があまりに真剣な顔で言うので俺は少し怖かった。なぜ、父がそんなことを言うのか、その頃の俺にはわからなかったが家に帰って祖父母に話しを聞くと父は転勤が決まったらしく、しばらく、いや、数年は会えなくなるらしい。その話しを聞いたあと、やっと俺は、父がなぜあんなことを言ったのかわかった。もう、会えないことを覚悟してのことだったのだろう。




