俺と家族
夕暮れ色と太陽
これは俺の小さい頃の話。赤茶の髪に赤色の左目、黄色の右目、これが俺だった。俺は生まれつき目の色が違っていた。それが原因かはわからないが、両親は俺を嫌っていた。そして、俺の周りの人間は俺の目を気持ち悪がった。
「お前なんて生まなければよかった・・・」
これは母に言われた言葉だった気がする。
父は仕事ばかりしている人で休日はずっと寝ているので部屋には入るなと言われていた。母は夜になると化粧をして、ふらっと出ていくことがあった。どこに行くのかと聞くと「あの人に言ったら許さないから」と言われた。あの人とは俺の父親のことだった。父親は仕事、母親は外出で夜は俺一人だった。ご飯は母が用意してくれたコンビニ弁当を食べて、しばらく帰りを待つが、帰ってこないことはわかっていたので、時間になったら自分の部屋に戻って寝ていた。
ある日、俺は母に連れられてとある施設に来た。そこには俺と同じくらいの子供もいれば少し歳が離れていそうな子供もいた。俺はその様子を不思議に思い、母の顔を見上げて問いかけた。
「お母さん、ここ、どこ?」
「黙ってなさい」
母は答えを教えてはくれなかった。大分経ってから、そこが児童養護施設だったことに気づいた。俺が親に捨てられたのは五歳の頃だった。
施設にいた子供たちはさまざまで元気に走り回る奴もいれば静かに外をみている奴もいた。担当の人に両親がいつ自分を迎えに来るのか聞いている奴もいた。俺は少し戸惑ったが、すぐに慣れることができた。別に誰かと接さなければいけないわけじゃない。なら一人でいればいい。いつも夜一人で過ごすのと変わらない。そう思って一人でいることが多かった。
施設の花壇には花が咲いていて綺麗だった。俺はそれをよくスケッチしていた。すると俺のそばに女の子が近寄ってきた。みると自分と変わらないくらいの見た目だった。
「あなたなんて名前?」
相手が突然喋ったので俺は少し驚きながらも自分の名前を答えた。
「ふーん、じゃあ、あなたどうして目の色が変なの?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はその子を押し飛ばした。別にあの子のことが嫌いだったからじゃない。鬱陶しかったわけでもない。ただ、怖かった。
また、いじめられると思ったからだった。俺の頭に浮かんだのは、保育園に通っていたときの記憶だった。目のことを気持ち悪いと言われ、数人に囲まれ馬鹿にされたり、砂をかけられたりした。俺には友達も守ってくれる大人もいなかった。押し飛ばされた女の子は地面に尻もちをつきすぐに泣き始めた。近くにいた子供たちが集まってきてたくさん責められた。俺はそれにさらに混乱して施設から飛び出した。空が紅く染まっていることだけはわかった。俺は自分の家の近所しか知らない。わかる道も限られていたし、戻る場所はあそこしかなかった。
俺は、家のインターホンを鳴らした。夕方、普通なら誰もいない時間にインターホンを鳴らしても誰もいないことはわかっていた。「やっぱいないか・・・」そう思って帰ろうとした瞬間、ドアが開く音がして見上げると父親より少し若そうな男がでてきた。男は、髪の毛が乱れていて、煙草の匂いがした。俺は咄嗟に「間違えました」と言おうとしたが、奥に自分の母親がいることに気づいた。
「お母さん・・・?」
「あんた、こんなとこで何してんのよ」
母は驚いた顔をして、俺の手を掴んで家の中に入れた。リビングには空になったコンビニ弁当やペットボトルが転がっていて、変わり果てた家の姿に俺は何があったのかわからなくなっていた。
「なんだ、こいつ、お前の前の子供か?」
知らない男は俺の顔をじろじろ見ながらそう言った。
「名前、なんだ?ああ?言ってみろよ、おい」
男は俺の顔を片手で掴んで言った。母は男の後ろから俺をみながら、溜息をついたあと、俺の名前を答えた。
「なんだ、こいつ目の色が変じゃねえか」
男は俺の前髪をあげて、目のじっくりとみたあとに「気持ちわりぃな」と言いながら顔を掴んでいた手を放して、俺の頬を叩いた。
「ちょっと、痕が残ったりしたら面倒だからやめてよね」
母はやっぱり男の後ろからそれをみていた。俺は痛さとわけのわからない感情で泣き出した。
「うっせえんだよ」
男は足で俺の腹を蹴った。俺は腹を守るように丸まってさらに泣いた。男はそれを見ながら半笑いで煙草に火をつけて口に銜えた。母は俺を助ける素振りをみせずに、財布を持って出かけようとしていた。
「もう、その子はいいから、早く行こうよ」
母は玄関の方に向かっていた。すると玄関のドアが開く音がして、次に父の声がした。
「おい、お前、どこに行くんだ」
「ちょっとなんで、こんな時間に帰ってくるわけ!出張じゃなかったの!」
「そんなことはどうだっていいだろ、ん、誰かいるのか?」
そんな会話が聞こえたあと、父が廊下を歩く音と母が父を止めようとする声が聞えてきた。でも、あっという前に父はリビングに到着して、男と父は対面することになった。男の方は父の方をチラッとみたが、煙草を吸う手を止めなかった。
「お前、誰だ?なぜここにいる?」
父は重たい声で男に聞いた。男は白い煙を吐くと「内緒~」と余裕そうに答えた。父はその態度に腹が立ったのか、母を責め始めた。俺はそこらへんまでしか記憶がない。気が付いたらソファの上で横になっていた。台所に父が立っていて、コップで水を飲んでいた。
「お前は、なんでここにいるんだ、帰れ」
俺が起きたことに気づいた父は冷たい口調でそう言った。家にはもう母も男もいなくなっていて、父は頬が赤くなっていた。
「お父さん、僕、施設には帰りたくない」
久しぶりに父に話しかけた言葉は少し声が震えていた。父は俺に近づいて、「甘えるな。今日は遅いからもう寝ろ。明日の朝、すぐ家をでるからな」と言うとすぐに自分の部屋に入ってしまった。俺はやっぱり、施設に帰ることに変わりがないことにがっかりしながら、自分の部屋で寝ることにした。




