プロローグ1
「駅……ないよな……ここ……」
ーー尻を抑えながら俺、鈴木 仁太は絶句した。
前を見る。山。後ろを見る。山。左右を見る。山。
山しかなかった。
駅特有の人気も無く、聞こえるのは煩く響くセミの声のみ。
厳密には川も流れてるしよくよく見ると電信柱も立っている。つい先ほど通ったトンネルもある。廃墟にしか見えない建物が何件かある。が、そんな細かい事はどうでもいい。
待ち合わせ場所につくまで我慢していた尻が限界なのだ。
「おちつけ……おちつけ俺……何かの間違いだ……ナビを良く見るんだ…」
バイクに取り付けてあるスマホのナビをたちあげる。
ナビ上は正確に目的地である「伊勢奥津駅」に到着している。
「……そうか…GPSが狂ってるんだ!そうだよな!うん!」
自分で自分に言い聞かす。大丈夫だ!ほら!ナビをよく見て見ろよ!最後に見えたコンビニがここ!そうそう!この橋を渡ってこのトンネルを…
「あってるじゃねーかぁ!!」
あまりの行き場のない怒りに現在位置を正確に示すスマホに八つ当たりしそうになる。
頭を切り替えよう、そこに見える廃墟にしか見えない建物、これが駅だ。今日から俺が利用せざるを得ないだろう最寄り駅だ。そこはもう認めよう。認めざるを得ない。認めるしかないのだ。
これからの通学、移動手段、買い物。様々な問題が残されているだろうがそれは後回しだ。今はもうそれどころではない。
「とりま…トイレを…と…トイレ…」
腹を下している訳ではない、体調が悪い訳でもない。
ただ、暴走しているだけなのだ。
長旅で長い間シートの上で揺れていた為、蒸れて、膨れ上がり、何処ぞの人造人型決戦兵器の如く暴走しているだけなのだ。
まず汗を吹き、市販の軟骨を塗り、涼しい所で10分も立ち休憩すれば落ち着く筈なんだ。
どんなにボロボロに見えても腐っても駅だ。キチンとしたトイレ位あるだろう。
そんな希望を持ち、廃墟にしか見えない建物を通り過ぎようとする。
そして、俺は絶望をする。
「嘘…だろ…?」
その廃墟にしか見えない建物、それは、自分が今欲して仕方がなかった物。それは『トイレ』そのものだったという事。
「そんな…そんな…!」
そして『トイレ』に貼られている一枚のA4用紙に書かれる『故障中』の文字
「うあああああああああああああああああああ!!」
俺は脱力し、膝から落ちかけたが、尻に響く激痛の為、立ったまま叫び続けた。
ど田舎に、俺の慟哭が響き渡る。
鈴木仁太 高校2年生 趣味はバイク いぼ痔持ちだ。