ambivalence
『本当、メンヘラってないわ。もう俺彼女とかいらないし。恋愛もきついから無理だわ。』
そう言って彼はジンライムを一口飲んだ。
『そういや、俺さ、お前が初めてかも。女友達』
嬉しそうに微笑んで私を見る彼の方を向かずに私はそうだね。と返した。
彼にとっては楽しいだろう。音楽の趣味も漫画の趣味も合う女友達なんて。
そりゃそうだ。好きでもないのに先回りして話を合わせているのだから。
そんな努力も知らずにいつもニコニコ笑って楽しそうに話して去っていく。
私はそんな彼の後ろ姿をいつも見ていた。
『今度ここ行かね?』
『別にいいけど。』
飛び上がりたいほど嬉しいのに、私は努めて冷静に返す。
喜んではいけない。彼の女友達の範疇から決して出てはいけない。
自分で決めたルールに私は縛られている。
本当は気づいているのに。
数年後、わたしと彼は自然と疎遠になっていった。
わたしは彼を好きなままだった。
彼は結婚するそうだ。
友達曰く、可愛らしくお似合いのカップルらしい。
私は落ち込まなかった。
両耳につけたイヤホンからは彼の好きだった音楽が今も流れている。
好きでもなかったはずなのに染み付いて取れなくなってしまっていた。
音楽と同じように、そっけなくて可愛げのない自分を演じるのも癖になってしまっていたみたいだ。
おかげで男の人も寄り付かない。
どうしてくれるんだ。と思いもしたが彼を好きになった私が悪いのだ。
本当。惚れたら負けなのだな。
憎らしい彼の幸せを。願えたことにほんの少し安堵した。