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第二十九話 天真会 その3


 年長組に漂い出した微妙な空気を打開したのは、子供たちの歓声。

 

 シンタが突撃してくる。

 「プリン!うまそー!あれっ?まんじゅうは?」

 

 「おまんじゅうはまた今度よ。ちゃんと取ってあるから、安心しなさい。」

 ロータスが、再び慈母の微笑みを見せる。

 

 これが魔性の女か…。天真会、恐るべし。

 そんなことを考えていたら、下から声が聞こえた。

 

 「ありがとうございます、ヒロさん。皆、喜びすぎちゃって、お礼もしなくてごめんなさい。」

 まだ小さな女の子。それこそ10歳行かないぐらいであろうか。礼儀正しいもんだ。

 

 「どういたしまして。君も席にどうぞ。」

 

 「ありがとう。マリーと言います。」

 

 ロータスがこちらを振り向いた。

 「マリーは偉いわね。きちんと挨拶して。『ヒロくんには』。」


 マリーが言い返す。

 「ロータス姐さんよりは『年の近い』私の方が話が合うでしょ?私がおもてなしするわ。」


 「マリー、姐さんと張り合うのはまだ早いでござるよ。」


 「『馬鹿力』がある千早姉さんには分からないよ。私の気持ちなんて。」

 

 マリーさん、全方位にケンカを売っていくスタイルですか。

 それにしても、単に「ませている」ということだけでもなさそうだ。


 「とにかく、マリーも席について。シンタが待ち切れなさそうにしてるからさ。」

 

 「シンタは単純よね!異能持ちはこれだから!」


 

 ともかく、お茶の時間である。

 ギュンメルからここまでの、旅の話を披露した。

 男の子達は、「はぐれ大足」や悪霊を退治した話に目を輝かせていたし、女の子たちは、どちらかと言えば山の民やギュンメル伯爵家の生活ぶりに興味を示してくれている。

 感触としては悪くない。

 

 「俺も悪霊退治したいな!」シンタはどこまでも「男子」であった。


 「シンタ、説法師(モンク)の仕事は退治ではありません。輪廻の輪にお還しすることですよ。」

 アランがたしなめる。

 シンタも説法師(モンク)なのか。


 「浄霊師(エクソシスト)のティムと、ユウと組んでさ。それで千早とおんなじパーティーだ。でもなあ、ユウはビビリだからなあ。役に立たないかもな。」

 テーブルの片隅に目をやるシンタ。


 大人しそうな男の子がいた。シンタにバカにされて下を向いている。

 彼がユウか。「おんなじパーティー」って言うことは……、死霊術師(ネクロマンサー)なのか?


 「ユウ、君は死霊術師(ネクロマンサー)なんだ?俺と同じだね。」


 ユウが顔を上げた。「同じ」という言葉に、目を丸くしている。


 「ユウ、こちらのヒロさんは、とても優れた死霊術師です。後でいろいろ教えてもらいなさい。」

 アランが、俺に会釈を施す。


 「俺もまだまだ勉強中で、わからないことだらけだからさ、ユウからもいろいろ教えてくれるかな?」


 ユウの顔が輝いた。

 「うん!ヒロさん、お願いします!」


 きっと孤独だったんだろうなあ。天真会みたいに「理解があるところ」でも難しいのか。

 

 学園の話になった。

 やっぱり皆、目を輝かせる。


 「俺も入れるかなあ!」


 「勉強をもう少し頑張らないと難しいわよ、シンタは。」

 と、ロータス姐さんのひと言。


 何も言わないユウ。だが、その顔は真剣だ。どうやら「その気」になったな?

 アランがこちらを見てうなずいている。

 多少は子供たちの役に立てたようだ。


 「あの!」

 隣から、切羽詰ったような声が聞こえた。

 「お茶のお代わり、どうぞ!」


 マリーが、震える手で、お茶を入れてくれる。

 下を向いているので、表情が見えない。


 ……まずかったか。

 異能のないマリー。霊能冒険譚も、学園も、彼女には縁がないのだ。

 本来なら孤独を感じなくて済むはずの「普通の子供」が、ここではむしろ孤独を感じている。

 

 「ありがとう、マリー。気が利くんだね。」


 「これぐらいしか……。」

 

 こりゃあマズイ。どうにかしないと。

 「マリーは何が得意なの?」

 

 「マリーは何でもできるわ。家事も勉強も運動も得意。」

 「焦らなくても大丈夫ですよ、マリー。」

 ロータスとアランも気づいたようだ。


 「千早!マリーが彼氏にちょっかい出してるぞ!」


 「こらシンタ!何を申すか!」

 

 「ヒロさんも、千早姉さんみたいなメスゴリラよりは私の方がいいですよね?」


 マリーが元気を取り戻した。

 この子は、強い。

 

 「マリー!お主まで!言うようになったでござるな!」



 集団生活を送っている子供たち。

 幼い子の数も多い。

 お昼寝タイムとなるため、お茶の時間は終了。


 年かさの子供たちと、会話を続ける。

 大人しい子は、フィリアのところに集まった。

 身体を動かしたい子供たちは、千早のところへ。

 

 俺は、ユウと話をすることにした。

 マリーもこっちに来た。


 「ユウ、俺の周りに居る幽霊が見えるかい?」


 「ぼんやりだけど、見えます。裸のおじさんと、ピンク頭のお姉さんと、白い犬。」

 

 「おじさんですって?ヒロ!言ってやって、お兄さんだよって!」

 アリエルが何か言っているが、とりあえず無視。

 

 「おじさんが何を言ったかは聞こえる?」


 「いえ、口を開けて何か言っていることは分かりますけど……何を言っているかは。」


 「お兄さんって呼んでほしい」ってさ。

 

 「あ、本当だ。口を『お、に、い、さ、ん』って動かしてます。ごめんなさい、お兄さん。」


 「ヒロさんの幽霊って、何かヘンタイっぽいかも。犬の霊なんて聞いたことないし、裸のおじさんと頭がピンクのお姉さんって……。」

 マリーさん、その認識は大きくは間違っておりません。


 「ユウは今、幽霊を連れているの?呼び出してくれるかい?」


 「呼んでみますけど……出てきてくれるかどうかは、分からないんです。めったに出てこないし。……お母さん?」

 

 女性が現れた。

 「良かった。出てきてくれると思ってたんだ。……悪い人だったりすると、出てこないから。そういう時は、僕も逃げるんです。」

 

 「お母さんとは、意思の疎通はできないの?」


 「いしのそつう?」


 「ゴメン、お互いに何を考えているか、話し合ったり、あるいは感じ取ったり、そういうことはできるかな?」


 「話し合う事はできません。お母さんが何を言っているかは聞き取れなくて。ただ、大まかに『何が言いたいか』は、分かるような気がします。『逃げて』とか『こっちよ』とか。」


 大ジジ様も意思の疎通に苦労したと言っていたが、「見える能力、聞き取る能力」が強いほど、意思疎通の自由度も大きくなるのかもしれない。


 「ヒロさんは、どうなんですか?」

 

 「俺は、完全に見える、会話ができる、何を考えてるかのやり取りもできる、なんだ。見えすぎるもんだから、生きている人間と幽霊の区別ができないぐらい。」 

 

 「すごいなあ。僕もお母さんとおしゃべりしたい。……もう二年になるんです。」


 「お母さん?」

 母親の方に、話を振った。

 子供では要領を得ないこともありそうだし、場合によっては心の傷を抉ることにもなりかないから。



 「家が火事に巻き込まれたんです。私と夫は先に亡くなって、別室に寝ていたこの子をふたりで逃がしました。」


 ユウの母が、語りだす。


 「親戚はほとんどいなかったんですけど、ろくでもない遠縁が財産目当てに葬儀に現れて……。大した財産がないと分かると、この子を食い物にしようとして。連れて行こうとするのを邪魔したら、私たちは悪霊扱い、この子は死霊術師(ネクロマンサー)扱いです。夫が抵抗して浄化されている隙に、この子を連れて逃げたんです。」


 「立派なご主人だったんですね。」

 

 「ええ、火事に遭ってから見直しました。こんなに頼りになるなんて……。夫のためにも、とにかくこの子が大人になるまでは私が留まって頑張らないとって、そう思って……。」


 「お母さん、泣いているの?」

 

 「お父さんが君を守ってくれた、そう言っているんだ。」


 「この子とは会話ができないし、必死でした。悪い大人からは逃げて。あちこちにいた幽霊にも助けてもらって。天真会なら、恐ろしい異能を持っている子供も受け入れてくれる。そういう噂を聞きつけて、こちらに来ました。噂どおり、天真会は死霊術師(ネクロマンサー)も受け入れてくれたけれど……まさかとは思うけれど、異能持ちを集めて、利用するつもりなのかもしれない。やっぱり完全には信用しきれない。それでこの子を守っているつもりなんです。」


 ユウのお母さんが、俺に頭を下げた。


 「私には分からないことが多いし、この子を見守るので精一杯。ヒロさんとおっしゃいましたか、あなたから見て天真会は信用できますか?このままここにいて大丈夫ですか?」


 「私の友人に、千早という女の子がいます。あなたもご存知かもしれません。とてつもない剛力の持ち主ですが、天真会はそれを利用することもなく、間違いを起こさぬように教育を施していました。私は、千早を信頼しています。そのような千早を育てた天真会は、基本的には信用できると思っています。」

 

 「良かった。任せられるんですね?信用していいんですね?」


 「ヒロさん、お母さんは何て言っているの?」

 

 「火事にあってから大変だったけど、ここに来ることができて良かったって。」


 ユウの両肩に、手を置く。

 ここは、しっかり話しておかなくちゃいけないところだと思ったから。


 「ユウ。さっき、こっちのお兄さんの口が『お、に、い、さ、ん』って動くのが分かった、って言ってたよね。お母さんとも、そうやって会話の練習をするといい。それと、お母さんや、その他の幽霊と会話ができるようになったら、仲間の幽霊を増やすといい。きっと力になってくれる。」


 幽霊を振り返り、紹介する。


 「このお兄さんは、俺の先生みたいなものなんだ。犬も随分役立ってくれている。ピンク頭もいい友達だよ。こないだ輪廻の輪に還っちゃったけど、男の友達もいたんだ。」

 

 もう一度、ユウと目を合わせる。


 「天真会の友達や、他にも生きている人間の友達も大切にしなきゃいけないけど。幽霊と友達になれるのは死霊術師だけなんだ。さびしいことなんかなくなるぞ。やかましいぐらいになる。」

 

 そして、大人にも。

 この子には、まだまだ支えが必要だ。


 「お母さん、たちの悪い幽霊かどうかの見極めは、お母さんにお任せします。……アランさんも、見極めの教育を、お願いします。」


 「分かりました。そちらにいらっしゃるのが、ユウ君のお母さまですか?出来る限りのことはいたします。協力して、ユウ君を大人に。これからもよろしくお願いします。」


 アランの態度を見ていて思う。

 やはり基本的に、天真会は信用して良さそうだ。

 

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