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第三百四十一話 潜伏 その2



 「詳細はいまだ不明。しかし対外強硬派の兵部卿宮さまが即位することだけはご容赦願いたい……それが彼らA・I・キュビ家の思惑であることは確かです」


 するとここ数年の暗殺未遂騒動、いくつかは彼らによるものか?

 対処に政治的配慮が必要な案件は勘弁してもらいたいのだが。

 勘づいて口を拭っている連中――いないはずがない――の思惑まで気になってくる。

 

  

 「そのあたりを探っていたご親族の不幸、すると実行犯はA・I・キュビ家ですか?」


 「黒幕であることは間違いないと見ていますが、子爵閣下――はい? それでは失礼して――フィリアさん、そこは私どもも十分に警戒していたところ。そもそも、正面切っての勝負ならば」

 

 力みを増す暑苦しい顔。

 己の配下がやすやすと後れを取ることは無いと全力で主張していたけれど、殺されたことも動かぬ事実。


 「警戒対象の外から、特殊な技能によって攻撃されたならば?」


 告げても良かろうと思った。陰陽寮から追放された陰陽師を追っていること。

  

  

 「さればとて、あれが討ち取られるなど……いえ、納得せねばならぬところですか。しかし国家非公認の陰陽師とA・I・キュビ家。どうつながったのです?」



 陰陽師の側にはメリットがある。 

 先にも述べたように、王都は直線的にものを為せる場では無い。

 天才も英雄もひとりでは何もできない……は言いすぎか。


 だが例えば武人は道場に属さねば、切磋琢磨に不自由する。半神的存在へと解脱(?)したエルキュールにして、ソシュール道場に育てられたのだ。

 学者……インテグラ(ついでにアンジェラ)、クレシダ、シアラ殿下にヴィスコンティ枢機卿。王宮、大貴族、宗教団体の保護を受けている。

 異能者もまた然り。天真会に聖神教、そして陰陽寮。身内でかばい合い、融通を利かせている。霊能グッズの流通に至るまで、それぞれ独自のルートを確保している。縄張り荒しは最大の仇敵であれば、無所属のままでは暮らしが立ち行くはずもない。


 実際、所属していた陰陽寮から追放された男は新たな後ろ盾を得ていた。

 当初はヘクマチアル。しかしカレワラと彼らの関係が対立から中立に、是々非々の関係に変わるや――戦場を共にしてしまうと、互いにどうにもやりにくくなるのが困りものである――「切られた」。

 ならば次に選ぶべき提携先は元式部卿宮、兵部卿宮。あるいは上流貴族で俺を快く思っていない者……それこそ先ごろ明らかになった、一部の大輔級あたりかと思っていたのだが。

 キュビ四柱は予想外であった。正直、厳しい。相手取ろうにもカレワラとは規模が違いすぎる。経済・人口で5倍、いや10倍近い。



 「野良の陰陽師では、提携を申し出ても門前払いのはずです。優れた霊能者を数多く抱えるA・I・キュビ家の側から提携を申し出るとも考えにくい」

 

 ラファエロはこだわっているが、どうでも良い。捕らえればわかる。

 問題はあくまでも、追っている男と事件がスレイマン殿下あるいはA・I・キュビ家に繋がっていると想定されること。

 思わず首筋に手を当てたところに、フィリアが追い討ちで不愉快な事実を叩き込んでくれた。

 

 「利益相反でもありますか? 私たちはスレイマン殿下に早めに降りていただきたい。しかしラファエロさんにしてみれば、できるだけ頑張ってもらいたい」


 ラファエロの立場ならば……甲羅にこもったB・T・キュビには手を出せない。

 まともにぶつかり合うB・O・キュビとA・G・キュビにちょっかいを出すには、まだ時期が早い。焦って動いて勝ち馬に乗り損ねれば後で怒りを買う。

 だから東では王国との緊張関係を抱え西でも出遅れている、大忙しのA・I・キュビから利を掠め取る。

 それがQ・B・キュビ家の戦略でなければならないと、フィリアは告げている。


 「A・I・キュビ家が東西二方面作戦に嵌り込むことが前提条件になっているのでしょう?」


 フィリアにも、俺にも、ラファエロにも、当事者A・I・キュビ家にも分かっている理屈。

 なおその状況に叩き込むか回避されるかの勝負を仕掛けているのだ。

  

 

 「彼らが西に氏長者を諦め、東で守りに入ってしまうのが最悪か、ラファエロとしては」


 良く言えば、力を溜める戦略。俺なら真っ先に選びそうな選択。

 フィリアの口の端が歪む。


 「それは完敗を認める行いでしょう? よほどの意気地なしか、他日のため屈辱に耐えることのできる英雄ならでは為しえぬところ」


 苦渋の選択。ますますA・I・キュビ家がミーディエ辺境伯に見えてくるけれど。

 ミーディエ家はもとがトワ系・文官気質。博打が嫌いで継続と蓄積を重視するからこそ隠忍も可能であった。しかし武のキュビ家で当主がそれを我慢できるか、いや家中を統制できるのか。


 「いずれにせよ、まだ判断を下すべき時期ではない。情勢は動きます。そもそもキュビとメルは相互不干渉、ラファエロさんを掣肘できるものではありませんし」

  

 カレワラとキュビの関係は……いや、やめておこう。

 

 「他人事なら面白いんだけどな? 『大きな話』と陰謀論」

 

 大きな枠組みも大切だが、それが人探しの手がかりになるものではない。 

 結局、陰陽師はどこにいて何をしているのやら。


 「地道に行くほかありませんよね。ティムル・ベンサムさんの得意分野でしたか?」


 職業的知見にとどまらない。ティムルは王都に生まれ30年以上を暮らしてきたのだ。引換え俺には土地鑑が無い。 

 何か別の手を考えていかねば。潜伏する男を炙り出すために。   




しばらく投稿をお休みいたします。


可処分時間を新たに書き始めた小説に割きたいと思うようになりました。

しばらくの間、異世界王朝物語の投稿をお休みいたします。

再開予定は年内、遅くとも来年の1月中には復帰する予定です。

ご理解賜りたく、お願い申し上げます。

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