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第二十八話 調査


 疑問の中には、女神に聞くまでもなく自分で調べられそうなこともある。

 

 「死霊術って何だ。どういう原理なのか。」

 この疑問がその典型だ。


 「異能」をテーマにする講義。

 女神の予報どおり、雨風がガラスを打つ中で行われた。


 

 「異能」のうち、原理から能力行使の理屈まで分かっているのは「説法」と「浄霊術」ぐらいらしい。

 異能の中では、この二つは割りとよく見かけられる。そのため、研究が進んでいるのだ。

 


 死霊術師(ネクロマンサー)は、存在は知られているものの、それほど数が多くはない。

 社会の表に出てくる死霊術師となると、さらにその数を減らす。

 サンプルが少ないために、研究が進んでいない。分からないことが多い。

 自分で調べるつもりだったけど、難しいかな。

 


 ノブレスの「ゴーレムマスター」は、数としては死霊術師(ネクロマンサー)とあまり変わらない。

 しかし、「ゴーレム」自身が「その出自・存在意義・由来」などを語ることも多いため、「原理が分からない」ということは少ないらしい。

 「原理」と言ったって、「神様が作った」以上には突っ込めないのだが。そういうのを「原理」と言っていいものやら。

 まあそれで充分という気もする。あの女神を見ていると。


 「バード」に関わるような異能のうち、ジャックの「大音」は、霊力の変換。その意味ではフィリアの浄霊術と原理的には同じ。

 マリア・クロウのほうも異能持ちだ。「共鳴」という。歌に乗せて、感情を共有するのだそうだ。

 彼女の説明によると、「幼い頃、夢枕に歌の神が現れて、一緒にお歌を歌った。そして朝、目が覚めたら異能を得ていた」のだとか。

 原理的には「神の祝福」で説明される。



 ここ最近で、最も訳が分からないのが、ヴァガンの「ビーストテイミング」らしい。

 これまでに類例が無いうえに、なにせヴァガンは口が重く、説明が下手だから。

 学園も調べようが無くて困っている。


 ……だが俺は、ヴァガンと会話を重ねるにつれ、ひとつの感触を得ている。

 恐らくあれは、霊能だ。

 それも、ひょっとしたら俺と同系統のものかもしれない。

 

 学園側に口外するつもりはない。

 天真会に言うべきかどうかは、実際に関係者に接してから決めるつもりでいる。

 今のヴァガンは、あまりにも「後ろ盾」が弱すぎる。

 情報を明かすことがヴァガンにとって良いことかどうか分からない。



 「ヴァガンの能力は霊能だ、死霊術に類するものだ」と判断した理由。

 それは、ヴァガンと動物たちの意思の疎通の仕方にある。


 たとえば、猫と対するとき、ヴァガンは「みゃーみゃー」と話しかけるわけではない。

 人間の言葉で話しかけている。あるいは何も言わずに背中をなでたりする。

 そうすると猫がみゃーみゃー言ったり、何も言わずしっぽを動かしたりする。

 それだけでヴァガンは、猫の意図を理解している。


 おそらくは、「死霊術師と使役する霊との間に生ずる、テレパシーのようなもの」と同類だ。

 俺が霊犬ジロウと意思を疎通させているのと、よく似ている。

 ヴァガンは契約なしで意思疎通できるというのが、俺とは違うけれど。


 リージョン・シンでの生活を、そのうちヴァガンにたずねようと思う。

 何かヒントになるところがありそうだ。


 

 なお、俺に対しても、学園側の聞き取り調査が行われている。

 臨死体験のことを告げるかどうかは迷ったが、フィリアや千早との約束もあるし、そこはぼかしておいた。

 「女神と会った」ことだけは告げておく。

 死霊術が女神のギフトでないことははっきりしているので、意図的にミスリーディングを誘っているわけだが……。

 どこまで明かしてよいものか分からない。身を守る必要もある。

 今のところはこれで許して欲しい、そう思ったのだ。


 大ジジ様が能力を得たきっかけは何だったんだろう。

 神様に会ったことはあるのだろうか。

 また話をしてみたくなった。


 

 文献その他にも目を通す。


 ひとつ、気づいたことがある。

 これまで失念していたこと。

 

 「死霊術師(ネクロマンサー)」という言葉。

 これまでの俺のイメージでは、「幽霊を操る」というよりは、「死体を操る」ものであった。

 ゾンビとか、スケルトンとか、そっちを使役するイメージであった。


 だが俺は、そっちは操れない。というか、試したことが無い。

 体から抜け出てきた幽霊や魂の方を操っている。


 だから「屍霊術師」ではなくて「死霊術師」。細かいけれどそういうことになる。


 また、操ると言っても、強制的にコントロールしているわけではない。

 指示を出しているだけ。幽霊がそれに従って「くれている」という感じがする。

 


 霊に消滅を強制する浄霊師(エクソシスト)説法師(モンク)のような強さは、俺には無い。

 見えていない、聞こえていないという強みか……とも思っていたのだが。


 そもそも、浄霊師や説法師は、「人と霊とは全く別のもの」と捉えているフシがある。

 霊は物質、「物」扱いなのだ。霊の「霊気・霊力」としての側面を重視しているようにも感じられる。


 その点では、俺の感覚の方が異質らしい。

 フィリアや千早はだいぶ俺の影響を受けているようだが。それでも「霊と人とは別物。同列に論ずるほうがおかしい。」という意識を譲ることはしない。


 「霊」と「霊気・霊力」。

 その違いや区別、あるいは共通性。

 とりあえずはその辺に何かの糸口がありそうだ。

 しばらくはそこを意識していこうかと思う。

 

 

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