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第二十六話 旧校舎の花子さん その3


 「この先には、私の体があるの。見られたくなくて……。」

 ピンク色の長髪に包まれた頭を下げる幽霊。

 まだ少女と言って良い年齢だ。学園の生徒であろうか。

 

 言い忘れていたが、この世界の住人は、かなりカラフルだ。アニメの世界の住人みたいに。

 肌も、髪も、色とりどり。それに合わせてか、服飾文化も多様であるように思われる。

 そっち方面には不調法なので、細かいところは分からないけれど。


 それにしても気配が薄い。儚げだ。

 ひょっとしたらクマロイ村のトマス坊やよりも。

 これではフィリアでもなければ、建物の外から気づくことはできまい。

 

 幽霊の言葉を二人に伝える。


 「それで、来る人来る人を脅かしていたと、そういうことですか。」


 「同じおなごとして、気持ちは分からないでもないでござるな。」 


 「しかし、ご家族は心配されているでしょう?このままというのは、やはり良くありません。」


 「我等は霊能者にして宗教者。天真会会員であり、聖神教の神官でござる。旅路の身支度のお手伝いはお任せあれ。」


 「同じ女性ですし。そちらの男性、死霊術師(ネクロマンサー)のヒロさんですが、彼には遠慮してもらうということでどうでしょう?」



 「あ、いや、その……。」

 まだ他に何かあるようだ。

 「他にも見られたくないものがあるのと……。もう少し、こっちに居たいかなって……。」


 挙動不審になる。

 ここまではしおらしかったが、そう言えば、俺に対して結構な悪罵を投げかけてくれていた。

 

 「はっきり言ってくれないか。そうしてくれないと俺達としても対応に困る。」


 「書きかけの小説とか絵物語があるの!見られたくないの!」


 急に気配が濃く、大きくなった。

 その勢いに、フィリアと千早が、思わず身構える。


 そっちが本来の姿か。

 「豹変されたり、あんまり妙な態度を取られると、こっちとしても警戒せざるを得ないからさ、正直に頼むよ。」

 

 「これはあたしたちのご同輩かもね。」

 アリエルが口を出した。

 

 「ちょっと!こんな露出狂の変態と一緒にしないでよ!」


 「イロモノという意味では一緒でしょうが!なんだかんだ言いつつ私を見るその目つき、バレてないとでも思ってるの?」


 「ぐっ!」


 「アリエル、どういうこと?」


 「アリエル?良くもまあ!騙るんならせめてそのカッコをどうにかしなさいよ!」


 「残念だけど、本物なんだ。とにかく、アリエル。」


 「おそらくこの子……。」


 「ああもう、分かったわよ。そうですー。私は腐ってますー。死体だけにってか、ハハッ。」

 ベッタベタの幽霊ジョーク一本、入りましたー。


 「ヒロ殿?」


 「気配の変化の理由が分かりましたか?」


 二人はさらに臨戦態勢を固める。

 

 「あんた達みたいなリア充に分かってたまるか!腐女子ってのはね!世間をはばかって生きるべきものなの!堂々と自己主張するもんじゃないの!」

 

 「二人とも、大丈夫だ。気配が薄かった理由は後で説明するけど、危険なものじゃない。……しかし幽霊さんよ、その割には、俺には随分な態度だったじゃん。」


 「コミュニケーション可能な相手には、ついつい遠慮が無くなっちゃうんだよね。二人よりも、君のほうが頼みやすいや。あっちは美少女すぎて、私が話しかけていい相手には見えないんだもん。」

 卑屈さと無遠慮さが同居している。おかしな話だが、分からなくもない。


 「しかしなんであんたみたいなのがこんな美少女二人を連れて歩いてるのよ。あれか。転生チーレムか…ってバカバカしい。どうせ口がうまいとかそういう事でしょ。コミュニケーション能力ってヤツ。ウエーイとか言っちゃったりして。」

 微妙に核心に近いところを衝いてくるあたり、文学屋というのは侮れない。


 「ともかく、頼みごとってのは、君の体が存在している部屋に残した遺稿を処分して欲しいと、そういうことね?」

 自宅に残したパソコンが気になっている俺と同じことか。


 「あ、いや、そうじゃなくて……」

 そう言えば「もう少しこっちに居たい」って言ってたな。

 

 「死霊術師(ネクロマンサー)なんでしょ?お願いがあるの。父さんの姿を見たい。心配かけちゃってるから。こんなことになっちゃって、もう顔は出せないけど……。見るだけは。それでね、父さんが天に帰る時、一緒に逝きたい。死んでからいろいろ考えたんだけど、できることって、もうそれぐらいしかないから。」


 俺の家族も心配してるんだろうな。急に行方不明になっちゃったわけだし。

 ひどい親不孝をしている。

 それなのに俺はこっちの生活を楽しんで……。

 

 「分かった。『君の父さんが死ぬまで』の期間で、契約だな。」

 

 「ヒロ、お人よしすぎるわ。物書き、同類だから分かるの。この子、遺稿を処分したいんじゃなくて、まだ書き足りないのよ。それとね、ヒロ。このテの子はね、たまに本当のクズもいるけど、大抵は基本的なところでキッチリしてるものなのよ。ごみのポイ捨てとか落書きとか許せないタイプ。そういう意味では信用できるわ。だから……」

 急に重低音になる。

 「まさかタダで自分の都合を押し通そうなんて厚かましいこと考えてないわよね。恥ずかしい。あんたには何ができるのよ。」

 

 急に気配が小さくなる。押しの強いマッチョは苦手らしい。

 「絵が描けるわ。あとは……どういうわけか、地形とか建物とか迷路とか、そういうものの構造がよく分かるの。子供の頃から、迷子になったこともないし、美術館とか案内図見なくても中のつくりが理解できる。」


 空間認識能力が高いのか。これ結構買いだぞ。

 

 「わかった。それでいい。ただ、同級生を変な目で見るなよ。作品の題材にするのも禁止な。」


 「そんな、殺生な!こんなに男子が溢れているのに、それを描くなと言うの!」


 「ヒロ、モチーフにするぐらいのところは許してあげて。」

 急に甘くなったな、アリエル。おいまさかお前も……。


 「ヒロだってこないだはあたしのことモチーフにしたじゃない。」

 それを言われると弱い。

 

 「わかった。それで手を打とう。」


 「ありがとう、お兄さん!」


 「あたしはアリエルよ。本物なの。」


 契約をするとテレパシー的なものが働くようになる。アリエルが本物だということを、認識させられてしまったようだ。

 「嫌っ!そんなのってない!ひどいよ!」

 マジ泣きしている。ほんとうに伝説上の人物なんだな。


 「そういえば名前を聞いていなかったな。俺はヒロ。こっちがアリエルで犬がジロウ。」


 「あたしは……シスターピンク。」


 「ちょっと!仲間なのにペンネームってどういうことよ!それに酷いセンス!」


 「アリエルだってペンネームじゃない!本名教えてくれるの?」


 「……まあ、ペンネームってのは文学を嗜む者にとっては魂の名前(ソウルネーム)よね。いいじゃない、シスターピンク。」


 どこがシスターだよ、ジャージじゃないか。

 でも、アリエルに比べると、「よくいる物書き」っていうイメージ通りの姿かもしれない。

 上下ジャージで眼鏡にひっつめ髪。その髪色がピンクと来ている。

 それにしても「シスターピンク」って……ないわあ。それはないわあ。

 

 フィリアと千早に紹介した。

 フィリアがピンクに冷たい目を向ける。そりゃそうだ。あまりに背徳的に過ぎる。そんな名前で描いてるのがBLなんだし。

 

 

 「ともかく、ご遺体のお浄めでござるな。」

 千早を先頭に、五階の一角に向かう。よく見ないと分からないような場所に扉があり、その向こうに一室があった。

 「約束どおり、ヒロさんは外で待っていてください。浄化を行いますので、その……ピンク頭さんも外でお待ちください。」

 呼びたくない気持ちは分かる。

 二人はマスクと手袋をして、部屋に入って行った。


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