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第二十二話 入学 その1


 学園には寮がある。

 2~3人にひと部屋の割り当て。

 

 フィリアと千早は、初等部に途中転入して以来、ルームメイト。

 初等部は3年課程。日本で言えば小学校の4~6年生にあたる。

 二人は王都にある学園の初等部に在籍していたのだが、アレックス様・ソフィア様夫妻の異動と共に、新都の学園へと転入したのだそうだ。

 この春に入学するのは中等部。何の留保もつけずに「学園」と言う場合は、中等部を指す。


 「それではここで。」


 「男子寮はあちらでござる。」


 「じゃあまた、入学式で。」


 

 寮監のところに、ご挨拶に向かう。

 「寮監の塚原だ。一応教官でもある。」

 中肉中背、30代ぐらいの、特徴を説明しづらい男性であった。


 「ルールはそちらに書いてあるから読んでおくように。君は庶民だから大丈夫とは思うが……大まかに言って、自分勝手は慎んでほしい、ということだ。特に難しい事は無い。分からない事は同室の者に聞けば大丈夫だろう。なお、寮内の生活については、基本的には在寮者の自治に委ねられている。責任を負うのは寮長だ。君たちから見ればリーダーだな。私が直接君たちの生活に関わる事はあまりないと思っておいてくれ。」

 

 つまりは、パブリックスクール方式ね。

 小説で読んだことあります。


 「食事は、学内にある食堂で摂ることができる。風呂とトイレは共用。学年ごとに分かれている。何か質問はあるかな?……まあ、すぐには思いつかないか。二、三日暮らしてみてから聞いてくれ。」

 

 寮長のところに向かう。三階の奥にある一室が、寮自治会の部屋であった。

 「寮長のシァオ・ファンだ。一年間、よろしく。君の部屋は、101号室。二人部屋だ。細かい事は同室のノービスに聞いてほしい。……寮は、自治を重んずる。寮に貢献するという意識を忘れないでほしい。至らない点があったら改善していくのも、個々の寮生と寮自治会の義務だ。遠慮なく言ってくれ。」


 とりあえず、寮長は「性質の悪い先輩」ではないようだ。

 

 

 一階に戻り、101号室に入る。

 そこには、眼鏡の少年と……タヌキ?がいた。

 

 「今年からお世話になります、ヒロと言います。」


 「ノブレス・ノービスです。こちらこそよろしく……。敬語は無しにしようよ。」


 「そうだね。」


 雑談をする。

 「僕の出身というか、実家は、新都のはずれにあるんだけど……。君は?」


 「分からないんだ。記憶喪失の状態で、ギュンメル伯領のクマロイ村で保護されたんだ。」


 「悪いことを聞いちゃったね、ごめん。」


 「気にしなくていいよ。だいぶ馴染んできたし。」


 「庶民枠で、失礼だけど身元が怪しくて入学できるってことは、相当な異能を持ってるんだろう?」


死霊術師ネクロマンサーなんだ。あと、身元についてはアレクサンドル・ド・メル様が保証してくれている。」


 「うひゃあ!……でも、征北将軍様の身元保証なら、怖いこともないか。」

 

 この一連の流れ。

 「出身地と階層、能力、庶民なら身元保証人。」

 この世界の人間にとっては、それが言わば、「身分」であり「身元の証明」なんだろう。

 

 「聞いてばかりじゃ悪いね。僕は、割と長く続いている家の一人息子なんだ。でも、住所が新都のはずれにあるってところで、家の勢いはお察しということで。」


 「能力は……『銃士(ガンナー)』を名乗っている。ボウガンが得意なんだ。後はワイヤートラップ。この二つだけなんだよね、得意なのは。」


 穏やかな口調と気弱そうな顔からは想像もできない、物騒な能力である。

 

 「それと最近、不思議なことがあったんだ。実家で机の引き出しを開けたら、そいつが飛び出してきてさ。」


  首を傾けて、彼の隣にいた、タヌキ?の紹介を始めた。

 「自己紹介しなよ、ラスカル。」 


 「初めまして。超時空妖怪・鉄腕ラスカル初号機です。」


 「タヌキがしゃべった!」


 「みんなそう言うんだよね。なんでも、女神様の指図で僕のところに遣わされたそうなんだ。学園に報告したら、『よく分からないけれど、これはゴーレムと言われるものではないか?』ということになったんだ。で、今の僕は『ゴーレムマスター』も名乗っているというわけ。実は成績がひどくて。進学は無理だと宣告されていたんだけど、こいつのおかげで『異能』が認定されて首の皮一枚つながった、ってわけなんだ。」

 

 女神の指図って……またあいつの悪ふざけか!


 「ノービス、ちょっといいか?」 

 寮監の塚原先生が顔を出した。

 「はい、今行きます。……ヒロ、遠慮はいらないよ?」

 そう言い残して、ノブレスは出て行った。


 後に残されたのは、超時空妖怪・鉄腕ラスカル初号機と俺。

 

 ラスカルがこちらを見ている。

 何と言うか、劫を経た野良猫のような目つきである。

 何事にも動じない、ふてぶてしくて、こちらをバカにしたように細められた目つき。

 

 「なあ、ラスカル。ひょっとして、女神と通信できるのか?」

 

 ふんっ、と鼻息を立てるラスカル。

 動物(?)なのだから特に不自然ではないはずなのだが、何か癇に障る。


 間違いない。これはあの性悪女神の手になる被造物(クリーチャー)だ。

 言いたいことや聞きたいことはいろいろとあったのだが、とりあえず、今は言わねばならんことがある。


 「貴様は!輝かしい日本のロボットアニメ文化を何だと思っているんだ!めちゃくちゃに混ぜやがって!」

 「二つ!それだけ混ぜておいて、装甲○兵と……よりにもよって機○戦士を外すとは、どういう了見だ!」

 「最後に!ラスカルはタヌキじゃねえ!アライグマだ!」


 「ヒロはいつも失礼だよね。女神相手にそんな口をきく人間なんて、いないよ?」

 ラスカルとは違う声が、ラスカルの中から響いてきた。

 「なかなか充実した日々を過ごしているようで何より。……だけどさあ、私も忙しくて。たまに目を離した時に限って、『いいところ』なんだもん。そういうわけで、彼のところにゴーレムを送り込んでみました。これでおはようからおやすみまで、ヒロのことを見つめていられるよ!」


 「貴様は性質の悪いヤンデレストーカーか!」

 思わず拳を振り上げたところに、ノブレスが戻ってきた。

 ……非常に気まずい。


 「あ、やっぱり?そいつ口が悪いでしょ?遠慮しなくていいよ。」


 「いや、ごめん、ノブレス。ついカッとなっちゃって……。」


 「謝るべき相手は僕じゃないのかい?」

 ラスカルが口を開く。


 「ラスカル、いい加減にしなよ。……でも良かった、穏やかそうな人で。学園は、口が回るか・口より先に手が出るか、っていう人ばかりなんだ。それだけ頭が良くて体力もあるってことなんだろうけど、みんなキツくて。今も寮監に報告したんだけど、ヒロ、君とはうまくやっていけそうな気がする。一年間……というか、たぶん三年間同室だけど、よろしく!」


 「こちらこそよろしく!」


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