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第十八話 新都にて その1


 翌朝。

 メル邸を辞去した俺達三人は、再び馬車で学園へと向かった。

 そうそう、新都の交通手段は、徒歩・馬車・馬・水運(船)である。

 近場なら徒歩、遠ければ船か馬車、というのがスタンダードらしい。

 

 

 昨日、フィリアが一応の話を通していたし。

 俺が死霊術師(ネクロマンサー)であること、その能力。そして猛獣と悪霊を退治した話は、フィリアと千早の実習報告書を通じて、学園側には知らせてある。

 で、アレックス様の身元保証というわけで。


 入学許可はすんなりと下りた。


 現在は、三月末。日本と同じで、四月入学。

 諸手続きについては、細かいところは二人にでも聞いて、入学までに行えばよい、とのこと。

 割といい加減だなあ。 


 「今年から、制服ができたらしいですよ。」


 「着ても着なくても良いと聞いてはいるでござるが。」


 「へえ、どんなの?」


 「男子はブレザーか詰襟。女子もブレザーかセーラー服だそうです。」


 「何でも聞くところによると、神のお告げだとか。」


 いやな予感がした。

 「調整しといたから」って、あの駄女神め。そんな調整はいらない。

 だいたい何だ、詰襟かブレザーかセーラー服って。統一性無く全部ぶち込みやがって。


 「他に、手続は何か無いの?」


 「まずは授業料の払い込み、でしょうか。」


 「払っても払わなくても良いものではござるが。」


 「どういうこと?」


 「貴族、つまりは家名持ちのことですが。貴族は払う義務があります。庶民は払っても払わなくても良いのです。」


 「ヒロ殿は庶民枠ゆえ、払わなくても良いのでござるが、身元保証人がアレックス様ともなると、払わないというのもいかがなものかと。」


 「まあ、払っておけば、諸施設を利用する際の細かい手数料が無料になる、という便利さもありますしね。」


 「入学金・施設利用料が小金貨5枚、一年の授業料が小金貨5枚でござる。3年分を一度に払うこともできるでござるよ。その場合は、全部で小金貨20枚、言い換えれば大金貨2枚でござるな。」


 小金貨一枚は、だいたい10万円のイメージだ。年の授業料が50万円……。

 また何とも、変にリアリティがあるというか、微妙に日本を思い出すというか。



 「二人はもう払ったの?」


 「私は実家の方から。」


 「(それがし)もすでに払ってござる。」


 「フィリアはまあ分かるけど、千早は、天真会から?」


 「いや、バイトで稼いだ貯金がござるゆえ。」

 

 「新都は建設途上ゆえ、景気が良いのでござるよ。工事現場で稼いだのでござる。」


 こんな美少女が工事現場で?と思わぬでもないが……。

 考えてみれば、千早は突出した才能を持つ説法師(モンク)であった。


 「おとな10人で処理する岩石を排除すれば、小金貨1枚にはなるでござる。それを壊さずに持ち上げて、別の現場……たとえば、埋め立て工事をしているところに持って行けば、小金貨4枚は下らぬでござるよ。一日働けば、大金貨3枚は堅いでござるな。」


 現代日本の、どの現場でも、ユンボオペは必須である。

 千早の場合はオペレーターどころか、本人が人間重機なわけで。機械が無いこの世界では、そりゃあ良い稼ぎになるに決まっている。

 

 「まあ、バイトを始めたのは去年のこと。半分は天真会に入れるでござるし、バイトは2週間に1回としているゆえ、大金持ちと言うわけではないでござるよ。……貯金は大金貨で20枚ぐらいでござる。」


 2000万円相当。十分にお金持ちです、千早さん。

 「それにしても……、天真会、取りすぎじゃないの?」


 「天真会の活動のためには、金子(きんす)はいくらあっても足りぬのでござるよ。会員はみな、いろいろな形でこの国に、また天真会に貢献しているのでござるが……活動や貢献の中身が、金子とは全く縁遠い御仁も多いのでござる。むしろそういった活動こそが、天真会の理念に沿うもの。だからこそ、稼げる者が経済面で貢献するのは当然なのでござる。」


 どうやら、失礼なことを言ってしまったようだ。


 「某としては、小遣いを除いて全部入れるつもりでいたのでござるが……。老師や姐さんから叱られたでござる。『寄進を断るわけにはいかないし、一人前の会員による会への貢献を拒否すべきでないのも本来だが……さすがに、半分以上は受け取れない。いつか必要になるから貯金しておきなさい』と。同時に、『今はバイトに現を抜かしてはいかん、他にやるべきことがある。2週間に1回までだ』と約束させられたのでござる。」


 立派な人なんだね、老師という人も、姐さんという人も。

 「アラン支部長も合わせ、三人は某の目標でござるよ。」


 

 そんな話をしながら、学園の中を通り抜けた。


 「次は、ハンスさんですね。」


 「金子の話が続くでござるが……。一回、整理しておく必要があるのでは?」

 

 ギュンメル伯からいただいたのが、大金貨8枚。1枚を山の民への贈り物に使った。

 それと、ハンスが元々稼いでいたお金や、クマロイ村でいただいたお小遣いから、出費を引いて…そちらが、大金貨で約2枚分。

 合わせて、大金貨約9枚分が手元にある。

 

 「ハンスの借金が、大金貨3枚だから。それを返して、大金貨6枚。これは俺達三人がこの旅で得たものだから、三等分でいいんじゃないか?」


 「私にも千早さんにも、生活していくぐらいの余裕はあります。ヒロさんは記憶もないですし、この社会での基盤がないのですから、全部ヒロさんのもので良いのでは?」


 「それは違うよ、フィリア。あの『はぐれ大足』の毛皮は、三人で戦って得たんだ。」


 「とは言え、あの毛皮には、ハンス殿の塩の代金も含まれてござる。加えて、ハンス殿が稼いでいた分は、契約によりヒロ殿に属するのでござろう?されば、大金貨7枚から、ハンス殿の借金の分を引いて、大金貨4枚を三人で分けるのではいかがでござろう?残りはヒロ殿の取り分ということで。」


 「三人で得たもの、と言われては異存はありません。」


 「じゃあ、千早の案で。大金貨4枚を分けて、三人が大金貨一枚ずつ。もう一枚は……俺達三人パーティーの、共同資金にしないか?」

 

 「それはいいですね!お義兄さまや姉さまからの依頼を受けていきましょう!」


 「異議はござらん!また三人で活動できるのでござるな?」

 

 二人と共に活動することは、俺にとって、勉強になることばかり。

 いや、そんなんじゃない。

 単純に、楽しい。一緒にやっていきたいんだ。

 学園に入学してからも、この三人で。

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