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第二百四十九話 カレワラ、カレワラ、&カレワラ その1


 「戦争じゃない。談判しに行くだけだから安心しろ、カルヴィン。お前には手紙を託したい。ピウツスキ・ヴィスコンティ両枢機卿猊下に宛てて。……李老師にもお願いいたします。一通は北岳派へ。もう一通は、王国における南嶺派の代表に送っていただきたいのです」



 「それはつまり、この私だの。前に条約交渉に行った時、南嶺から王都での全権を受けてきた」


 それはありがたい。正直、何かとはかどる。

 

 「お互い様よ。世俗に対し頼み事がある時は、遠慮なくお願いするゆえ、の」

 


 これで下準備は成った。


 「郎党衆!言った通りの準備は終えたか!出るぞ!」



 ロンディア聖堂は、磐森のほぼ真西20kmの位置に存する。

 磐森から「西に10km、のち北に10km」で聖神教開闢の聖地、「西に10km、のち南東に10km」で女子修道会総本山ゆえ……ロンディア司教区の立地は、まず一等地と言える。


 が、いま大事なのは、一等地にあるということではなく。

 「聖地」と「女子修道会の総本山」と「ロンディア」と「磐森領」。その四つの地点は、「邦境の十字路を中心に、ほぼ等距離にある」という事実だ。



 各員重装の上で、鎧兜に華やかな飾りをつけた。

 美々しく彩った棺桶に入れたオーギュストには化粧を施し、荷馬車の先頭に立てかける。

 彼が引き連れてきた29人も、死化粧を施した上で荷馬車に座らせた。


 これも一種の「さらしもの」かも知れない。

 彼らは「闇に葬られても構わない」と思っていたはず。それも承知の上。

 だが俺は納得できない。それだけのことだ。

 


 そして磐森の邦境、3つの聖堂へと通ずる交差点。

 鉦太鼓を鳴らし、衆目を集め。


 「オーギュスト・モンド・ハラ君の生き様に敬意を表し、その死を哀悼せん!」

 

 あらんかぎりの大声で、宣言した。


 「ここにあるオーギュスト・モンド・ハラ君は、29人の部下と共に、深夜秘かに磐森を訪問した!」

 「そして聖神教の教えを全うし、天に帰った!」



 聴衆は都すずめ。

 「この2行の間に、何があったか」を読み取れないはずがない。

 分からぬ者には、近くの市民が耳打ちするはず。


 「我、ヒロ・ド・カレワラは、オーギュスト・モンド・ハラ君を、彼が敬愛していた上級異端審問官・グレゴリウス猊下のもとまで送り届ける! 生涯を通じて清廉にして高邁であったオーギュスト君にふさわしい、盛大なる見送りを挙行せん!」



 理屈なんか通らなくてもいい。

 イカモノのパレードでも良い。いや、イカモノ臭いほうが良い。


 誰の責任か、指示がどれだけ無茶だったか。それを伝えるために。



 「私は死んだオーギュスト君のために泣く。オーギュスト君が全うした生涯に笑顔を送る。彼の上司であった上級異端審問官・グレゴリウス猊下からも、お言葉を賜らん!」



 辻々で足を止め、連呼する。

 オーギュストの名と、グレゴリウスの名を。


 深夜の襲撃があったこと、実行者の悲しき最期、黒幕の存在。

 全てを匂わせつつ歩く。


 邦境からわずか10kmの道のりを、何時間もかけて練り歩く。

 見物人が列をなす。



 「そういう結果になりましたか、カレワラ小隊長殿」

 「連中のやり口からすれば、ありそうな話です」


 ノーフォーク家のベテラン郎党・サコン&ウコンであった。

 集団指導体制のソシュール道場から出てきたところ。

 血の気の多い連中に聞かせるつもりで近くを行進したのだが……これは大物が釣れた。



 「彼が本当に『オーギュスト君』であるかどうか、押し問答になりますなあ?」


 悪い笑顔を浮かべている。


 「7月のインコ真理教討滅作戦、ふたりは参加していたな。オーギュスト君とは面識があるわけだが……良いのか?」


 証言する際には「ノーフォーク家郎党」と名乗ることになる。

 主家の責任において、カレワラと共闘することになってしまうのだが。


 「『この案件、ノーフォークの名を出して良い』と、我ら判断いたしました。なぐりこm、いえ、『深夜の押し売り説法』など、世俗権力ならば誰であれ許すわけには参らぬところ。『日頃のお付き合いの濃淡とは、関わりのないところ』です……そうそう、我があるじが、お孫様の初陣を指導していただいたお礼をどうするか、頭を悩ましておりまして」



 まあね。逆の立場なら、俺だって迷うさ。


 超一流貴族から見れば半端な家格。アスラーン殿下に近すぎる男。 

 ヘタに誼を結んで寄りかかられてしまうと、身動きがとりづらくなる。

 だいたい、若僧だ。大失敗をやらかさぬとも限らない。関係が深いと火の粉が飛んで来る。

 メル家の腰巾着との噂もある。「取り込み」と誤解され、メルとぎくしゃくするのも煩わしい。

 

 今はまだ、距離を詰めたくなかろう。

 だから「日頃のお付き合いとは関係なく」、貴族仲間として協力できるところで借りを返すと。

 


 「指導だなどと。クリスチアン君とは同じ小隊長として馬を並べたまでのこと。『今日また肩を並べて進めたことについては、こちらから感謝を申し上げます』とお伝えください。……もちろん、君たちにも」


 これで彼らは、ノーフォーク家の中で「カレワラとの窓口」という地位を加えることになる。

 「どろどろずぶずぶ」はゴメンだが、健全な範囲の共存共栄は誰もが望むところ。

 


 「押し問答になる要素はもうひとつ。確かに『訪問』があったのですか?」 


 さっそくひとつ、「ご注進」か。

  

 「ここにあるエドワードが一部始終を見ていたので、それは間違いなく」



 さあ参上いたしますよ、グレゴリウス猊下?

 

 

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