第十七話 新都へ その1
浄化の光が完全に収束した。
あたりはすがすがしい気に満ちている。
星の輝きまで増した気がする。
いろいろ浸っていたかったのだが、ハンスの間抜けな声に、その気分を台無しにされる。
「目が、目があああ……!」
そういう台詞は、教養とか悪辣さとか……とにかく、そういうのがあるから映えるんだよ!
謝れ!ム○カ大佐に謝れ!
「あ、ヒロ。あのね、ハンスが……。」
「いいよアリエル、説明してもらわなくても。どうせ気になって浄化の光を覗き見してたんだろう?ほっときゃ治る。フィリアに吹き飛ばされた頭頂の毛も、千早に削られた腹の肉も、次の日には治ってたんだから。」
と、言ってみたところで、ふと気づく。
……幽霊の怪我って、本当に治るもんなのか?
急にアリエルとジロウの怪我が気になりだした。確認する。
ジロウは大丈夫そうだ。
「あたしは少しやられたわね。もう!玉のお肌に傷を作るなんて、無粋な悪霊!」
アリエルも、深傷は負っていない模様。
それにしても、「玉のお肌」って……。俺はハンスとは違う。突っ込まないぞ。見え見えの地雷を踏みに行く趣味は無いんだ。
それはともかく、怪我の回復ぐあいについて、後で教えてくれるように頼む。
「そうね、今後のためにも必要よね。」
新米死霊術師には、勉強しなくちゃならないことが次々と湧いて出てくる。
翌朝。
アリエルの傷は消えていた。
やはり幽霊の怪我は治るようだ。
「じっと眺めていたんだけどね、どうも時間の経過とともに治るみたいなの。幽霊はみんなそうなのか、ヒロとの契約のおかげなのかは、分からないわ。」
やはり死霊術師と霊との間には、謎が多い。
ハンスの目も問題なかった。
「朝方かなあ。気づいたら治ってた。」とのお言葉。
「もう少しさあ……何かないのかよ。」
「あたしの傷が治るよりは時間がかかったみたいね。」
「これだよこれ、そういう情報がほしいんだ。頼むよハンス。」
悪霊の実在とその浄化。
ティーヌ航路における大事件である。
関係者はそれぞれ、報告を上げることになる。
船長は、新都の政庁の当該部署に。
乗り合わせていた浄霊師も、それぞれの所属……要は、天真会や聖神教団に。
この事件を通じて知ったのだが、天真会にも浄霊師は存在するし、聖神教に所属する説法師もいる、とのこと。浄霊師や説法師というのは、その能力に対する呼称なのだそうだ。
俺達は、学園に。
さらにフィリアは、ギュンメル伯にも。
「新都に到着したら、各所から事情を聞かれることになると思います。大切な機会になりますので、準備はしておいてください。」
「まあ、悪事を働いたわけではなし、問題ないでござるよ。死霊術師のイメージアップ、引いてはヒロ殿の身の安全にもつながるでござる。」
住所不定、職業は自称・死霊術師。この世界における社会的信用という観点では、まさに底辺。
こんな俺のために二人はいろいろ考えてくれている。
めんどくさいなんて言ったら、バチが当たる。
ウォルターとマチルダからは、礼を言われた。
再度確認したが、もうマチルダの足には異変はない。
フィリアによると、「霊的なゆらぎ」まで消えているそうだ。気鬱も吹き飛んだのだろう。
いろいろあったが、夫妻にとっては最高の旅行になったと言えそうだ。
船が、ティーヌの分流地点にさしかかる。
と言っても、景色は特に変わらない。
右舷は平野、左舷と前方はどこまでも水。
ここから新都までは、平和な日々が続いた。
毎朝鍛錬棒を振り、なまらないように足を動かし。
フィリアと千早から学園について聞き、アリエルとハンスからはこの世界について学ぶ。
やがて右舷の風景に人家が混じるようになったと思ったら、そこからは早かった。
景色から草原が消えて行き、建物ばかりが目に入るようになり。
気づけば船は新都の船着場へと到着していたのだった。




