第二話 死霊術師《ネクロマンサー》 その1
陽の光で、目が覚めた。
家の人は、すでに起きて動いているようだ。そういう活気を感じる。
農家だもんな。当たり前か。
この家というよりも、村全体がそうだ。朝のざわめきが……だんだん大きくなって、近づいて来る?
ベンさんが、家の入り口で騒いでいる。
「とりあえず、神官さまにはくつろいでいただかないと!話は後だ!散った散った!」
近づいてきた喧騒が引いていく気配がする。
俺も部屋を出た。挨拶しないといけないし、「神官さま」には聞きたいこともある。
昨日食事をした、この家で一番大きな部屋。
そこに、ベスに案内された「神官さま」がいた。
「こちらが、お話にあった方ですか。先ほども申しましたように、私には連れはおりません。面識のない方です。」
ちょうど帰ってきたベンさんが、早口で俺を責める。
「嘘をついていたのか!お前は何者なんだ!父さんが見えるっていうのも、嘘なんだな!」
俺が答える前に、ベスがまくしたてる。
「ヒロくんは神官さまのお付きだなんて、一言も言ってないじゃない!お父さんが勝手に勘違いして決め付けただけでしょ!」
二人を交互に眺めながら発言する隙を必死で窺っていると、「神官さま」がおもむろに口を開いた。
「あなたの背後にあるそれが、こちらのおじいさんの霊ですか?」
静かだが、よく透る声。
二人の喧騒が瞬時に止まった理由は、しかし、その声質だけによるものではないはずだ。
振り返ると、確かにトムじいさんがいた。青い顔をして、震えている。
とっさに「神官さま」からトムじいさんをかばう位置に立ったところで、たたみかけられた。
「見えているというのは本当ですね。浄化の邪魔をなさるつもりですか?」
有無を言わさぬ威圧感に押されっぱなしの俺だったが、問われたことで、ようやく口を開くことができた。
「浄化って何です?何をするつもりですか?僕はトムさんと約束をしたんだ。手伝いをするって。」
「浄化を知らないと言いますか。記憶喪失というのも、嘘ではなさそうですね。いずれにせよ、契約したという話が事実ならば、私にはそちらの霊を浄化する権限がありません。」
ベンさんが口をはさんだ。
「権限がないって……父の霊がここに存在するとして、浄化できないとなったら、父はどうなるんですか!」
すがらんばかりの勢いだ。
「神官さま」は答える。
「それは彼、ヒロさんでしたか、との契約内容次第ということになります。」
「まさか……」ベンさんの顔がひきつっている。
「ええ、彼は死霊術師です。」