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第百八十四話 長橋の死闘? その2


 朝倉を抜いた時には、間を潰されていた。



 敵の得物は双剣、間合いはこちらのほうが長い。

 抜き放ってひと薙ぎ牽制し、間を保ちたいところだったけれど……。


 後悔などしている余裕は無い。

 ふた振りの細剣が、身に迫っていた。



 この脚力、剣速。

 間違いなく説法師モンクだ。



 しかし、何だ?この軌道。

 剣に「しなり」がある?


 感じたその間にも、一剣が頬を掠める。

 


 余裕がないわけじゃない。

 相手の動きも見切れる。


 なのに、なぜか、

 反応しきれない。身体が重い。



 考えるのは後だ。

 見切れるならば、「食らう」ことは無い。

 とにかくここは対応して、体を慣らせば!



 左の薙ぎ……は、スウェーして。

 右の突き……は、朝倉を摺り上げて弾く。


 身体が伸びたな?


 上段から、突きを……。


 入れることは、かなわなかった。

 一瞬、遅れた。


 覆面から覗く双眸と、視線が交わってしまったから。



 読まれた!?



 無理やりに、袈裟懸けへと軌道を変える。

 払い抜けた時には、重心が下がる。


 その隙を消すために、斬り下ろしながら前に駆け出さざるを得なかった。

 体当たりで、双剣の間を潰す!


 不細工な技だし、危険な賭けだ。

 だけど、今はこれ以外に……。



 空振り。 


 

 敵はバックステップを踏んでいた。

 跳躍力を活かし、二歩で間合いの外に出る。


 力み返っての、空振り。

 無様極まりない。

 朝倉を橋板に叩き込む前に引き戻せたのが、唯一の救い。


 

 落ち着いて考えてみれば、何でもないことだ。

 読まれていても、相手の身体は伸びきっていた。

 有効な攻撃を打ち込めるはずは無いのだ。

 身をかわす他に、敵にできることなど無かったのに。

  


 どうしても、リズムが合わない。

 読みと見切りに、思考と感覚に、身体がついてこない。


 

 ……だから、何だ。

 おかしな迷いなど、抱えている場合ではない。


 仕切り直しには成功したのだ。

 間合いの「利」は、こちらにある。



 はずなのに。 

 また、せんを取られた。

 覆面の敵が駆けて来る。


 目が合った。

 またも、気を呑まれ……「起こり」の機先を制せられ。

 双剣の間合いに、入り込まれる。



 アリエルの言葉を思い出す。

 「双剣は、攻めの剣術。気魄で圧倒して機先を制し、息つく暇を与えず近間で畳み掛ける。相手が強いと、受けに回らざるを得なくなるけどね。そうなったら、長期戦・消耗戦にチャンスを見出すの。」



 俺は、敵の思う壺に嵌っていた。 

 

 はずなのだが。

 どうも、おかしい。



 敵は霊能を持ち、速さで圧倒できているのに。

 俺の機先を制して、有利に勝負を進めているのに。


 間合いに入ってからが、不相応に「つたない」。

 一剣をかわして、もう片方を弾けば、それでバランスを崩すことができる。

 説法師なら、そう簡単には崩れないはずなのに。


 厄介なのは、自分の実力を理解しているところか。

 弾いて崩したところで畳み掛けようとすると、すかさず後ろに跳躍するのだ。



 みたび、間合いを詰めて来た。


 

 右をかわして、左を弾く。


 それにしても、軽い攻撃だ。

 なぜここまで容易く防げる?


 で、また跳躍か?

 させるかよ!

 脚を狙って、払いを入れれば……。



 消えた?


 って、当然上だよなあ。

 ああもう!分かっているのに、身体の反応が鈍い!

 

 脚を狙って、踏み込み縮みかけていた、たい。無理やりに伸ばす。

 刃を返し、上空へと斬り上げる。 

 

 空振りだということは、分かっていた。

 敵に攻撃の余裕がないことも、分かっていた。

 だが牽制しないわけにも、行かない。



 月明かりのもと、刀を振り下ろしては振り上げて。

 間抜けな男が、たたらを踏む。


 敵は覆面をして、武器狩りをしているのに。

 これじゃあ俺のほうが弁慶だよ。




 四度目。

 さすがに、理解した。

 

 これが俺の、「才のつたなさ」。

 つまるところ、「見切り」が弱いのだ。

 一挙手一投足の見切りは、それなりに鍛えたつもりだけど。

 「だから、どういう敵なのか」という見切り……要は、分析力に、難がある。



 それでも、理解できた。

 目の前の敵、「まともな武術の鍛錬を重ねていない」。

  

 

 間合いに変化を持たせることが、できない。

 双剣の振り方、そのパターンはいくつも持っているけれど、コンビネーションとして活用できていない。

 「殺す」……それどころか「打ち込む」感覚すら、身に着けていない。

 

 

 これは、「曲芸」だ。

 いや、曲芸にしては、品が良い。

 

 しなりのある双剣、房のついた柄。

 間違いない。



 「剣舞だな?」



 覆面の下の双眸が、見開かれた。

 その視線の強さ、涼やかさ。

 剣舞ならではの、「眼力めぢから」。


 

 看破され、焦りを覚えたか。

 敵の攻撃が、鋭さを増した。


 「殺人」を想定していない、舞踊。

 それでも説法師だ。その身体能力は、常人の数倍にも及ぶ。

 巻き起こる剣風が、粘つく湿気を切り裂いて行く。

  

 が、崩せる。

 舞踊は武術とは異なる。重心が高い。

 打ち込みに力感を欠く。「怖さ」が無い。


 それも分かっているのに。

 なぜか、なお。

 俺からも決定打が打ち込めなかった。


 リズム感無くたたらを踏む、間抜けな弁慶は消えたけれど。

 今の俺は、敵と「リズムが合って」しまっていた。

 平仄を合わせ、剣舞を踏んでしまっていた。

 身を掠める剣風の涼しさに、よろこびを感じていた。



 「いつまで戯れてござる!」


 かなたから、苛立った気合声。

 延髄にずしりと来た。

 酔いから、醒めた。



 そうか、千早。

 だから俺の体は、重かったのか。



 「ようやく気づいたか。阿呆が。」


 朝倉が、初めて口を開いた。




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