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第百五十話 新都コレクション その2 (R15)



 気鋭の職人の手になる新作が、次々とお披露目されていく。


 ひと通りの紹介が、終わった。

 俺の仕事も、あと少し。



 小休止の後、千早とフィリアの鎧が展示される。

 2人の鎧は、飾られるだけ。

 

 認められてはいても、アルバイトには違いない。

 「令嬢・フィリア様がモデルを務めるのは、その、少々……」というところがある。


 だから。

 「千早と2人、レイナ・マリアと座談する」ひと時が設定されていた。

  


 千早とフィリアの鎧を皆様にご堪能頂いたところで、俺が出る。

 最高傑作が、本人に装着された状態で登場するという演出だ。




 ミーナが俺に語りかけてきたのは、その小休止の時間。

 


 男爵閣下ともなれば、お招きするギルドの側でも気を遣う。

 控え室が個室であるのは、当然のこと。

 

 それでも、振られたのはやや重苦しい話題。

 高位貴族に対し、その身分を否定するかのような、「不躾な」言葉。

 余人に聞かれて良いものではない。

 

 叫喚の戦場で気合をかける軍人と、喧騒の工場で呼び交わす職人と。

 お互い、自分の声が大きいことはよく知っている。

 地声でも、透ってしまうのだ。

 控え室の壁など、関係ない。 


 だから、耳元で囁きあう。

 鎧を着付けてもらいながら。



 さすが製作者だけあって、ミーナの着付けは素早かった。

 

 「兜、かぶって。」


 「まだ時間はあるだろ?話をするなら、このまま……。」


 「いいから。」


 視界がいったん、暗くなる。

 

 「はい、こっちこっち。」

  

 壁に掛けられた姿見の前に、誘導された。


 「どうよ?」



 「俺にはもったいないぐらいだよ。男前が三分上がるどころか、三倍増だ。」


 姿身に映るは、あまりにも風姿優れた、鎧武者。 


 たまに、疑問に思うことがある。

 この鎧を着ているのは、本当に俺なのか?



 「あたしの最高傑作だもん。」


 後ろにいたのか、ミーナ。



 「そうだ。誰にも負けない。」

 

 力強い言葉が出てしまうのは、鎧に当てられたからか? 

 低く響き渡るのは、兜でくぐもるせいなのか?



 「でしょ?」


 姿身に、腕が映った。

 俺に、いや鎧に、巻き付いている。


 振り返る。

 兜に掛けた手を、つかまれた。

 

 「かぶってて?」


 ミーナが、鎧に身を添わせるようにして、回り込む。

 俺も、釣られて振り返る。




 鎧に背を預けた職人が、姿身に映っていた。




 職人の声は、大きい。よく透る。

 だから指を噛もうとして、我に返って手を放す。

 指は、職人の命。

 もどかしげに、唇へと挟み込む。


 鎧の手は、篭手に覆われている。

 生身の人間より、一回り大きな手。

 職人の手の上から、重ねて塞ぐ。

 

 職人の顔は、そばかすだらけだ。

 金属を截断し、溶接する度に火花が飛ぶから。

 その頬が、火に照らされたように、染まる。

  


 平民で、親方で。

 学園出の知性派で、現場派で。

 男の職場に、女で。


 平民で、貴族で。

 王国人で、異世界人で。

 生身で、鎧で。



 職人の目は、見開かれていた。

 自らの手になる鎧に、兜に、見惚れている。



 そのさまが、鎧の眼前に、あらわにされる。

 鎧の身に、力が籠もる。


 職人の目が、固く閉じられる。

 またすぐに、開かれる。

 

 鎧を見ているその目が、なぜか憎らしくて。

 鎧は再び、力を籠める。身をせり出す。


 姿見いっぱいに、鎧と職人の姿が映る。

 焦点の合わぬ、職人の目。

 嫌がって、身をよじる。



 少しだけ、遠ざかる。

 焦点が合うか、合わないか。

 そのあわいに、身を移した。

 2つの視線が、まじりあうところに。

 

 

 


 「カレワラ男爵閣下、そろそろ準備をお願いいたします。」

 

 「すぐに出る。待たなくて良い。」



 

 「着付けは完璧。」


 頼むよ、ヒロ君。 

 

 「ん。こちらも万全。」 


 了解、ミーナ。




 暗い舞台袖を、歩んで行く。

 光の当たる場所に向かって。



 貴族らしく、武人らしく。

 恥じらいという感情など、抱いたことすら無きが如く。

  

 最高の逸品に、ふさわしい振る舞いを。

  

 渾身の気合をもって、塚原流の型を披露し。

 鍔鳴り高く、朝倉を納める。

 上手の暗がりに、気配を感じつつ。

 


 左腕を、一旦背中へと回すようにして、たたむ。

 肘を支点にしならせ、大きく広げる。 

  

 マリア・クロウが涼やかな声を発した。


 「製作者、ミーナさんのご登場です!」



 エスコートした鎧に、職人は見惚れていなかった。

 ミーナ嬢はヒロ君に、肘を預けても身を寄せはしなかった。

 

 マイスター・ミーナ女史と、ヒロ・ド・カレワラ男爵閣下と。


 並んで顔を上げ、スポットライトに身を曝す。

   


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