第十二話 ウッドメル その1
呼ばれて飛び出て……来たはずである。それは間違いない。
それなのに軽々しさが感じられないのが、貴族たる所以か。
現れたのは、二人の少年と子供。
「ウッドメルの兄弟」と言うからには、三人は兄弟なのだろう。
「御前に、叔父上。」
一番年かさの少年が口を開いた。イケメン……とまでは言えないかもしれないが、とにかく柔和で上品な顔をしている。
「一時消息不明だったフィリアと行者の千早が帰ってきたぞ。土産話と愉快な仲間を拾って。死霊術師のヒロだ。」
「ご紹介にあずかりました、死霊術師のヒロと申します。現在のところは二人の同行者という立場です。新都に赴き次第、正式に学園に所属する予定です。」
「死霊術師!これは驚きました。」
口では驚いているが、表情は変わらない。これが「悠揚迫らざる……」という趣か。
一見したところ、俺を全く警戒していない。
領主のギュンメル伯が紹介するからには人物に間違いなし、と判断しているのだろう。
「私は、ケイネスと申します。ケイネス・ド・ウッドメルと名乗るべきでしょうか。」
貴族なのに、丁寧な挨拶だなあ。
「こちらが、弟の……名乗りなさい。」
「はい、兄上。私はセイミです。」
子供が元気に名乗りをあげた。こちらも品がいい……けれど、やや俺を警戒しているみたいだ。死霊術師と聞かされては恐ろしいのだろう。子供だもの、仕方ない。
しかし、本来なら、次兄の少年が先に名乗るべきじゃないの?
そう思って、次兄らしき少年 ―こちらは、上下の兄弟とはやや違うタイプ。貴族には間違いないのだろうが、「貴族の子弟」と言うよりも「軍人の子弟」と説明する方がしっくりくる少年― に目をやったところ。
フィリアがさびしげに口を開く。
「ヤンは亡くなっていたのですか……。数ヶ月のことですのに……。」
幽霊か!
俺は、一見しただけでは生きている人間(や動物)と幽霊とを区別できない。
今後の課題の一つだろうなあ、これは。
「そのようでござるな。」
千早はそっけない。
この世界に来てから、「人の死」に出会うことが多い。日本に比べて「そういうこと」が起きやすい社会なのだろう。軍人貴族ともなれば、いろいろとあるだろうし。そっけなくもなるか。
「理法を説き候わんや?」
千早が一同に尋ねる。
ヤンという名前らしい幽霊の少年が、怯えにゆがんだ顔を見せる。
一同を代表して、ケイネスが答えた。
「やがて自ら天に帰るでしょう。本人の納得がいくまでは良いかと考えているのです。」
おっとりしたものだ。
「これだから兄貴は……」
すさまじい目つきで睨みつけているヤンに、ひるみを覚えた。
これだけは断言できる。実の兄弟に向けて良い目つきではない。直前の怯えぶりからの落差にも、不気味さを感じた。
そのヤンが、こちらを見る。
「死霊術師か……おい、貴様、ひょっとして聞こえているのか!?」
権高な口のききようだ。正直、気分が悪い。
千早が一歩、前に出た。俺の態度を見て感づいたのだろう。
「ヒロ殿、生者と死者とは住む世を異にするもの。あまり干渉するのは、好ましくありませんな。まさか伯爵家の子弟を使役せんとお考えか?それはちと豪気が過ぎるというものでござろう。」
俺に向けた言葉のようでいて、そうではない。明らかにヤンを牽制している。
「フィリア殿、今宵はヒロ殿を監視しておく必要があるやに存ずる。伯爵閣下の許しを得たとは言え、仮にも死霊術師。形式というものも疎かにはできぬでござろう?」
普段ならば、フィリアのほうが言いそうなことだ。
フィリアも何かを感じ取ったようだ。
「ええ、私もそう思います。ウッドメル伯爵家は当然として、ギュンメル伯爵家にも、不潔な勘ぐりをなさる方はいらっしゃらないようですし。」
会話のリズムを軽妙なものに変える。
「悪かったと申しておろうが。しつこいのう。」
伯爵のぼやきに、一同、大爆笑。
……ひとりを除いて。
「ずるいです!フィリア姉さまと一緒なんて!」
セイミが頬をふくらませている。
嫉妬には違いないのだろうが、何とも可愛らしい。さっきの警戒はこっちの意味合いであった模様。
みなの表情がさらに和む。貴族・人を使う立場であるという事を考えると、この才質は後々大きな意味を持ちそうだ。そんなことをぼんやりと思う。
「フィリアも罪な女性ですね。」
今度はケイネスの軽口。
「ケイネス兄、あなただけはその言葉を口にしてはならないでしょう。噂が新都にまで聞こえていますよ。」
フィリアもやり返す。
「ケイネスよ、ほどほどにな。縁談に響くようになっては困るゆえ。後見人からのお願いじゃ。」
頭を下げるギュンメル伯。また笑いが起こる。愛嬌のあるお人だ。
大身の貴族であっても、親戚の情愛というものは、そうは変わらないものなのか。
昇りかけている朧月を見ながら、そんなことを考えていた。




