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第十一話 馬市 その5


 その後も、これまでの旅について、ギュンメル伯から下問があった。

 「『はぐれ』のかぶと」の話はすでに伝わっていた模様。要求に応じて現物を見せる。

 

 「これは大きい。」

 俺の頭がすっぽり入ってなお余裕があるサイズを見て、うなり声をあげる伯爵。

 頭蓋骨だけでサイズを推測できるのは、さすがとしか言いようがない。


 「一頭まるごとの毛皮もありますよ。」

 フィリアが水を向けると、案の定、食いついてきた。


 「見せてくれ!」

 まるで子供だ。憎めない人だと思う。


 持ってきて見せたところ、その場にいた全員がざわついた。

 辺境の軍人たちでも、狩が大好きな貴族たちでも、見たことがないサイズらしい。


 「譲ってくれないか!」

 伯爵が言い出す。

 「最近は狩をする暇もない。たまに毛皮が欲しいと思うこともあるのだが……。」


 「商人のやつばらめ、分かっておらんのよ。こちらは、まるごと一頭、何のいたずらもされていない、ただの毛皮が欲しいのだ。それをあやつら、やれ陣羽織にしたりコートにしたり。付加価値をつけて高く売りたがる。大物でないのを誤魔化すために、加工して持ってくる。」


 座ったまま、伯爵が地団太を踏んだ。


 「領主貴族(わし)を何だと思っているんだ!今でこそ境を敵と接してはいないが、舐められたら終わりの軍人稼業だぞ。大きな猛獣まるごと一頭の毛皮、それはそのまま個人の武威と、領土の森の豊かさを示すもの。外交的な価値があることを分かっとらん!」


 「存じておりますゆえ、胆嚢を受ける代わりにこちらを貰い受けたのです。」

 フィリアは言う。

 以前言っていた「持ち込むところに持ち込めば……」とは、このことだったのか。


 「フィリア!お前が山の民と共に狩をして、胆嚢を受ける働きをしたのか!?いや、行者千早!そなたか?」


 「ヒロの『指揮』のもと、私と千早で痛めつけました。とどめもヒロです。」


 何をいつどう言えば最大の効果を発揮するか、それを知るフィリアの言葉。あれはチームの手柄だが、まるで俺の手柄であるかのように言う。

 フィリアや千早とは異なり、伯との面識がない俺の株を上げてくれるためだということは分かっているのだが……、悪戯っ気がまた出たか。

 

 ギュンメル伯の目がギラリと輝いた。

 「聞かせよ!」

 報告を求める軍人が、そこにいた。


 ハンスとジロウのことを隠すわけにもいかなくなった。

 「はぐれ大足」との戦いの前日に立てた基本方針と、当日の戦いを説明する。できる限り簡潔に。

 

 「これはなかなか……。指揮に関する知識はあるのか。いや、話し方も変えるあたり、知恵があるというべきか?いずれにせよ、面白い。フィリアも成長したようだな。人を認め、役割を譲ることができるようになったか。」


 「それともまさか……」

 俺の顔を見る。

 「ま、それはないか。」


 何を言わんとしているかは、良く分かる。ええええ、どうせ私はフツメンの中のフツメンですよ。印象の薄さには自信アリ。女子が惚れる顔ではございません。


 「間違いでもあったら、実習管理者の責任だとか何とか、だいぶ絞られてしまうところであったわ!」

 塩辛声で大笑い。 


 フィリアは真っ赤。だが反撃も忘れない。

 「この毛皮、新都に持ち込めばより高く評価してもらえるかも知れませんね。礼を知る方にお譲りするとします!」

 

 「待て待て!すまん、悪かった。詫びるから譲ってくれ!いや、本当に成長したようだ!」


 困ったようでいて喜んでいる。間違いない、これは「親戚のおじさん」の表情である。

 「シスター」フィリアと呼ばなくなってもいる。

 

 まあ何となく、「貴族」であるとか、「良いところの出」であるとか。そういうことは分かっていたが、想像以上にフィリアの身分は高いようだ。


 親戚なら、消息が途絶えたと聞いて、だいぶ心配したであろう。

 「草」の報告を聞いて呼び出したのも、無事を確認するためか。

 

 「そうだ、これほど面白い話を、わしだけで聞くわけにもいかん。今日は三人とも、こちらに泊まってくれるな?」


 そして大声で、呼ばわった。

 「ウッドメルの兄弟をお呼びせよ!」

 

 

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