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第十一話 馬市 その1


 森を横切る道にぶつかった。

 火山の北側を東西に走る、「山の道」である。


 ここで山の民と別れることとなる。

 大ジジ様が、細工物をくれた。


 「これは、我ら、『巽の大樫』一族の友であることを示すものだ。山の民の、他の一族に出会ったら、見せると良い。いきなり忌避されることはないはずだ。」

 

 ありがたく受け取る。

 

 お別れである。

 気の利いた言葉って、意外と出てこないものなんだと知る。

 姿が見えなくなるまで、振り返り振り返りしつつ、お互いの道を進む。

 

 また、元の三人だ。

 いや、三人と二体、か。


 山の道をしばらく行くと、南北に走る、広い道に行きついた。

 これを南に歩いていけば、ギュンメル領の首府、「馬市」の街に至る。


 フィリアの説明によると、火山の東に位置し、南北に長い馬市の街は、その名のとおり、元は馬の市場が開かれる、小さな町に過ぎなかったそうだ。

 王国が北に進出するにしたがい、そこは前線となり、やがて進出拠点となり、そしてそのままギュンメルの軍事・政治の中心となった。 

 あわせて、馬市に物資を調達する拠点として、火山の南・ティーヌ河北岸沿いに、経済都市カデンが発展したというわけだ。


 千早によると、ここから馬市までは、説法師(モンク)でなければ2日程度の旅程。

 途中一回、野宿になるが、休憩所のようなものがあるから問題ないそうだ。


 そんな話をしながら歩く。

 フィリアが顔を上げ、つと道の片側に寄った。向こうから旅人が来たのだ。

 それに合わせ、俺も片側に寄る。寄らなかった分だけ、千早が一歩前、内側を通ることになる。


 「こんにちは。」

 「良いお天気ですね。」

 

 挨拶を交わす。日本で言えば、山道を歩いているときのイメージだ。

 山道で挨拶を交わすのは、お互いにある程度印象を与える・受けておくことで、遭難等の事情があった時に手がかりを残すため、という話を聞いたことがある。

 治安が良いとは言え、ギュンメル領は王国の北辺。敵地に近く、不測の事態もありうる。街道であっても、挨拶を交わすのは、そういうことなのだろう。


 夕方になり、休憩所に着いた。

 日本にある、田舎のバス停のようなイメージである。あるいは、山小屋か。

 屋根と壁と床があって、横になれる。そういう場所。


 山賊などがいれば、狙い撃ちには好都合なのではないか?とも思ったが、近づいてみると兵士らしき人物がいた。一応は安心である。

 「ギュンメル伯は、老練で通っている方です。」とはフィリアの説明。

 「そもそも、説法師と神官がいるのでござるよ。」千早も付け足す。


 考えてみれば、俺だって、睡眠を必要としない幽霊を二体連れているのである。そのうち一体は、よりにもよって狩猟犬。不測の事態など、起こりようも無い。つくづく仲間には恵まれている。

 

 千早が、休憩所の引き戸を開けると、先客がいた。

 「お邪魔いたす。」

 「良いお晩ですね。」

 また、挨拶。

 

 片隅に寄って、夜を過ごした。

 二人が奥の方が良いであろうと思ったのだが、千早が、「某は寝相が悪いゆえ」と言い出す。

 寝ぼけて裏拳や蹴りを入れられても困る。謹んで場所をお譲りした。

 いちおう、ジロウに警戒を頼む。……特に、ハンスに注意するよう、申し付ける。 


 翌日の夕方前に、馬市の街に到着した。

 軍事拠点という割には、そこまでガチガチに守られているという感じではない。

 こう、西洋のお城のようなものを想像していたのだが、歴史ドラマに出てくる日本の砦に似ている。堀があって、土壁が盛られ、丸太の柵……といった趣。

 案外、こういう方が機能的なのだろうか。


 「一方的に守勢に回る気がないのでござろうな。」とは、千早の言。


 門番に、フィリアと千早が身分を告げる。問題なく通れた。神官や説法師は、それだけ信用があるのだろう。なお、俺は従者扱いなので、細かいことを言われずに済む。


 中に入っても、外側にあったような防御施設が、繰り返し現れる。

 「だんだんと大きくなった街です。規模が大きくなるたびに、外側へ防御施設を設置していったのでしょう。」

 と、これは、フィリアの感想。


 馬市の街にも教会はあるのだが、そこに泊まることには千早が難色を示した。

 「いろいろと面倒になるのでは?」フィリアを見ながら、口にする。


 「確かに、そうでしょうね。」フィリアも、返す。

 

 やはり、別の宗教の信徒を泊めるのには、問題があるのだろうか?


 幸い、懐には若干の余裕がある。

 宿を取ることにした。

 

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