第十話 こども その3
明日は、山の民ともお別れだ。
今日のキャンプ地だが。
火山と言えば……日本人なら分からぬはずはないよね。
そう、温泉である。
「二人を見に行こうぜ!!」
ハンスに誘われる。お前、本当に煩悩だらけだな。バレたら消し飛ばされるぞ。
「ていうか……13歳だぞ、二人は。」
「何、お前、お姉さんとか熟女好き?」
どうも会話が噛み合わない。
どうやら、こちらの世界では、15~16歳から成人扱い。
13歳ならば結婚していてもおかしくないし、遅くとも25歳ぐらいまでには結婚する。
13歳が、日本の16歳とか18歳とかのイメージなのだ。
「西欧中世とか江戸時代とか、そうだったらしい」、という話は聞いたことがあるが……。
やはりどうも、馴染めそうに無い。
とにかくやめておけよ、と言っておいた。
男衆と温泉に入る。
温泉マナーについて、「里の者とは思えない」との高いご評価をいただく。
日本人ですもの。
サイズについて、厳しいご評価をいただく。
日本人ですもの。
膨張率とかすげーし!俺の本気はおめーらに見せるもんじゃねーし!
女湯の方では、止めたというのに勇者ハンスが突撃を敢行していたらしい。
ジロウのディフェンスによって事なきを得たが。頼りになる妨害役である。
本当にバカなヤツだ。相手から見えなくても、霊としての気配は完全に覚えられているというのに。
リアルで「ざんねん!ハンスの ぼうけんは ここで おわってしまった!」になるんだぞ?
ハンスは、温泉から上がったフィリアに、光弾で髪の毛を逆モヒカンに消し飛ばされていた。
姿が見えていないのに、精密なコントロールですね……。
「間違えましたか。浄化が必要なのは上ではなくて下でしたね。」
「フィリア、それ以上は。神官としての品位に関わるから。」
「ヒロさん、あなたが使役している霊の不始末です。管理不行き届きの責任は免れませんよ?」
赤くなったフィリアから、むこうずねに、杖の一撃。思わず飛び上がった。
「まあ、未遂でござったし。ジロウに免じて許してやるでござるよ。」
髪をまとめながら、千早が近づいてくる。
ほっとしたハンスに対して、「これぐらいで」と言葉を継ぎつつ、寸止めする。
寸止めでも、拳を覆う霊力は、しっかりと届いている。
「削れた!少し削れた!」
泣き叫ぶハンス。本当に情けない。
その拳が裏拳として、こちらに向かってきた。頬を掠める。助かった。
「ヒロ殿は、これぐらいで。」
止まった拳から、でこピンの要領で中指が飛んできた。頬骨を弾かれる。
痛ってえ!
「安心させておいてそれはないんじゃないですかね。」
「油断大敵でござる。」
子供の体はゆだりやすい。俺達は割と早めに温泉から上がっていた。
ハンスの起こした小さな騒動が治まったあたりで、おとなたちが温泉から出てきた。
「しかし、本当に残念だな。おとなだと思っていたが……。ヒロはまだ、子供だったか。」
どこを見ながら言っているんですか。
サイズの話を蒸し返しますか。女子の前で。
俺はまだ二人と旅を続けるんですよ。どんな羞恥プレイですかこれ。
「ヒロは人柄も良い。健康そうで、体格も悪くない。これから大きくなるだろう。それに、特に走力は、俺から見ても十分な素質がある。」
「鷹の翼」は、構わず話し続ける。あれ?まじめな話?
「おとなであれば、一族にたねを頼もうかと思ったのだが。」
「たね?」
聞き返す。
左から、千早の裏拳が、鼻っ面に飛んできた。
「聞く必要はないでござる。」
右から、フィリアの杖が、わき腹をえぐってきた。
「不潔です!」
俺が何かしましたか?
「いや、済まん。二人の前でする話ではなかったな。」
「鷹の翼」は、情けない俺の姿を見て笑っている。
「ヒロ殿は、学園の管理下に置かれることとなり申す。修行中の身でござる。」
「身上がまだ不明なのです。相続等の問題が発生する家の人かも知れないのです。」
何やら、もっともらしいことを言っているけど……だから、「たね」って何だ?
「聞く必要はないと申している。」
「まだ言いますか?」
再び左右から攻撃が。
「分かりました、もう聞きません。」
体の痛みにうめきながら、その場を離れ、外に出た。