第九十一話 学問の秋、スポーツの秋 その1
秋になった。
生徒会執行部も、引継ぎである。
ここまで、生徒会執行部の活動……特に、3年生との関係は、あまり書けずに来ている。
ついつい、課外活動のことを書くのに力を入れてしまっているもので。
課外活動は、「当時の俺」に大きな影響を与えるものであったから。
また、「その後の俺」に、直接に影響するところが大であったから。
3年生との思い出は、後々、気の向いた時にでも、後から挿み込むことにしようと思う。
ともかく、ローシェ会長と、彼女が率いた執行部は、引退した。
新たに1年生を迎え、その後2年生から会長選びということになる。
「新たに」と言っても、目新しいメンバーは案外少なかった。
と言うのも、生徒たちの間では、「格付け」のようなものができてしまっているから。
2年生からも、「ああ、あの彼ね。」と言われてしまうぐらいに目立つ者が選ばれてくるのだ。
学園長あたりが歯軋りしそうな話ではあるけれど。
と、言うわけで。
選ばれてきた1年生は。
サラ・E・ド・ラ・ミーディエ、説法師。
クリスティーネ・ゴードン。
ヴァレリア、説法師。
フレデリク・タレーラン。
ここまでの4人、つまり7人の過半は、知り合いであった。
タレーランとは……夏のダグダ遠征で学園中隊に所属していた、「たれ目」の彼である。
何事につけ、「分かっている、見えている」というタイプの少年だ。
他に。
アルバート・セシル。
ペドロ・ルーテル、浄霊師。
シオネ、異能者。
セシル男爵家は、トワ系。アルバートはその次男。当然、イーサンとは幼い頃からの知り合いだ。
アレックス様には及ばないが、ひと目を引くレベルの美少年である。
ペドロは……名前からして、そんな気がしてはいたが。アホのカルヴィンが可愛がっている後輩である。やはり聖堂騎士を目指している。
引き継ぎ済みなんだから、もう顔を出すなよカルヴィン!お前が引き回さなくても、ちゃんと扱うから!
筋金入りの聖神教徒がいるならば……。学園の生徒達のバランス感覚とは良くしたもので、天真会郊野支部出身の、シオネを選出してきた。
なお、シオネの異能とは、「天気予報」である。
「自分が今いる場所」限定で天気を予測でき、絶対に外さない。
人類が生きるところ、「天気予報」なるものは、必ず存在する。
科学か経験則かおまじないか、それは社会ごとに異なるかもしれないけれど。
そして王国では、主に経験則による天気予報が行われている。
村の長老による、「西のお山に雲がかかったから、明日は雨じゃ。」とか、「3月に冷たい風が多い年は、夏が晴れる。豊作じゃ。」とかいう、あれである。
他に、研究所のようなところで、データを集めた天気予報が行われているらしい。
だがシオネの予報は、そういうのとは少し異なっている。
シオネは、「いま、自分が立っている場所」の天気を予報する。何の経験も、データも必要としない。
そして、範囲が限られるとは言え、絶対に当たる。
農事に漁業に、そして軍事に、さらには商売に先物取引に、利用しようと思えばいくらでも利用できる。
それだけ稀少で貴重な能力ゆえ、天真会に、引き続いて学園に保護されたというわけだ。
その異能の性質だが。
加護(祝福)を受けているというわけではないようだが、天気の神様と、何らか関係があるらしい。
通信、チャネリング能力、あるいは神託を受けるシャーマンのような存在ということか。
シオネから、その能力の由来を聞いた時、思わず口走ってしまった。
「その程度で済んで、本当に良かった」と。
周囲は、「何を言ってるんだ」という顔をしていたが、シオネ本人は分かってくれた。
「先輩、ひょっとして。」
「ああ。加護持ちなんだ。」
「それはキツイ。何かすみません。」
「気にしないでくれ、俺は大丈夫だから。」
「ありがとうございます。今後、よろしく。」
言葉は少なくとも、会って数分であろうとも、お互いを理解できる。
「神様被害者友の会」の紐帯は、固い。
人が出会えば、社交。
庶民であっても、庶民なりに、社交。
それが王国社会であって。
早速に会話の輪が、広がり始める。
「カレワラ十騎長殿は上官でしたし、つい遠慮が先立ってしまって。」
「タレーラン、ヒロと呼んでくれるか?学園では、対等だよ。俺もフレデリクと呼ばせてもらう。」
「今年の2年生は、存在感が大きいんですよね。」
「サラ様、いえ、サラさん。そのようなご遠慮は無用です。」
「兄さん、固くなりすぎよ。でもそうね、『黄金の世代』なのかも。」
「お、面白いこというね、クリス。一本書けそうだね。」
「クリスティーネ君、アンヌ君。やめてくれないか?少なくとも、こと執行部の活動に関する限り、今年の2年生は、あまり活躍できない。1年生諸君の方が、黄金世代になると思うよ?」
「イーサン、それはどういう意味?」
「来春、交流会があるだろう?アルバート。僕らの代は、そちらの仕事にリソースを割かざるを得ないと言うことさ。」
イーサンが呼び捨てにするとは、珍しい。
アルバートにも、まるで遠慮が見られないし。
が、イーサンの言葉で大切なのは、そこではなくて。
来春には、率府と王都にある学園との、交流会が行われる。
実行委員長は、レイナ。
レイナ一人でやるのはもちろん無理なので、下に実行委員が付く。
たとえば、スヌークが指名されていた。
スヌークは、新興貴族ではあるが、その故にこそ、マナーについては教科書通りの振る舞いをするという良さがある。それに……財布役として必要だから。
と言うと、都合の良い男のように聞こえなくも無いが。
ハニガン家としては、率府と……それ以上に、王都の名流と接触できるというだけでも、見返りは大きいのだ。
他に、3年生からカルヴィン(宗教要員)。となると、天真会の千早も当然で(ヴァガンというわけには行かないではないか)。
極東の主はメル家と言うことを考えると、主催者側にフィリアが名を連ねないわけにもいかない。
そうすると、「いつもの3人」の一角である俺も、当然の如く実行委員に指名され。
レイナに言わせると、「カレワラは、王都方面でじわりと関心が高まってるから。旬の食材ってわけ。」
食材……。
話題の「ツマ」ね。いいけどさ、別に。
「あんたのマナー、古臭いからこけおどしになるし。褒めてるんだから、頼むわよ?」
そういうわけで、フィリアは会長職などやっている余裕がない。
新会長は、対立候補無しの信任投票で、イーサンに決まった。
副会長がフィリア。1年生から、アルバート。
風紀委員に、ジャック。1年生から、ヴァレリアとペドロ。
保健委員に、アンヌ。1年生から、シオネ。
ここまでは、2年生が留任された役職。
会計にマグナム。1年生から、サラとクリスティーネ。
会計監査に千早。1年生から、フレデリク。
2年生は役どころを変えたが、問題ない。
マグナムは数字を理解できるし、千早の「見る目」は、確かだ。
さすがはイーサン、適材適所。
で、俺は?
「ヒロ君には、庶務を頼む。全ての仕事に関わってもらいたいし、交流会実行委員との窓口をお願いしたい。生徒会執行部の仕事で負担をかけたくはないんだ。」
栄光の庶務は、俺が継ぐこととなった。
アホのカルヴィンの、後釜になるなんて!