第九話 「はぐれ大足」 その1
明早朝の決行に備え、打ち合わせをした。
複数のチームに分かれて、「はぐれ」を追い上げる。
どのチームが通るルートにも、「ここならば」というポイントがある。人間にも、「大足」にとっても戦いやすい場所だ。
恐らくはそうしたポイントで戦闘となる。戦闘になったチームが合図をし、各チームがその場に殺到、包囲して退治するという段取りである。
さらに俺たちには、チームとしての打ち合わせが必要だ。
あまりガチガチに決め事を定めても、急造チームではうまくいかないだろうから、大まかに。
まず、基本方針を。
当然ながら、「命を大事に」である。相手が相手だし、怪我をせず時間を稼げば、味方の増援があるのだから。
その上で、分担だが。
千早は、前衛。
一撃の威力よりも、離脱のしやすさを考えて、連続的な軽打、手数で勝負する。連続技の切れ目は他のメンバー、主にフィリアとジロウがフォローする。
フィリアは、後衛。
こちらは、手数は少なくても良い。充分にチャージして、千早が離脱したタイミングで、遠距離から重い一撃をお見舞いする。ひるむなり弱るなりしたところで、千早がまた接近して攻撃を加えるのだ。
ジロウは、遊撃。
何と言っても、山林における素早さでジロウに勝るメンバーはいない。「大足」たちの攻撃パターンも一番よく知っている。霊体ゆえ、ダメージも通らない。
そういうわけで、つねに「はぐれ」に一番近いところを動き回り、「はぐれ」の攻撃を妨害する役回りだ。
ハンスは、フィリアの盾役……というか、ついたて役。
ハンスには、攻撃力は無い。しかし享年18歳の彼は、チームの中では体格が一番大きい。「動物は、霊を認識できる」という点を逆用し、小柄なフィリアの前に立つことで、チャージ中のフィリアを「はぐれ」から隠す。
攻撃力皆無、ノーマークのはずのハンスの位置から、フィリアの強烈な一撃を飛ばし、混乱させる。そこへ千早の速攻を叩き込み、考える暇を与えないようにするのだ。
で、俺。ヒロは。
「……どうしよう。」
ここまでの意外にも適切な指示に、驚きを隠すこともなく身を乗り出していたフィリアと千早が、コントのようにずっこけた。
「何ですかそれは!」
「締まらないでござるなあ。」
二人からすれば意外かもしれないが、日本のゲームやファンタジー文化に馴染んだ俺としては、RPGにありがちな布陣を敷いただけ。
頼れる軽戦士の千早、それに並ぶダメージソース・魔法使いのフィリア、先手を取れる妨害役のジロウに、この上なく頼りない盾役のハンス。
でも俺は?もともと剣と魔法の世界の住人ではないのである。どうしよう。セオリーから言えば、後は回復役なんだろうけど、呪文なんて唱えられないし、今回は一撃食らったら終わりだしなあ。
「ヒロさんは軍人向きかもしれません。現場の指示役・指揮官をお願いします。」
「いかにも。冴えた差配でござった。此度は狭き所での乱戦が予想されるゆえ、采配に専念していただこう。」
俺も捨てたもんじゃないね。
「前に出られても邪魔でござるし。」
「射線には立たないでください。」
辛辣である。
まあ、命がかかっているわけだし、当然か。言ってくれる方がありがたい。
役割分担が決まったところで、ざっと動きを確認する。悪くなさそうだ。
見ていた大ジジ様と「大猪」が近づいてきた。
「二体であっても滞りなく制御できているようだの。」
考えたこともなかったが、言われてみればそういうことになる。
何体まで行けるのかも分からないが、そういう問題もあるのか。やはり死霊術師には、謎が多い。
「大猪」からは、鉈を渡された。
「参加できない俺の変わりに、ひと太刀入れてくれ。ジロウのためにも頼む。」
分厚く、武骨な鉈。
その重みを、受け取った。