第八十三話 演習へ その2
「続けるぞ。以下、編成はこうなっている。」
本隊第一大隊 メル本領の郎党
第二大隊 王都の郎党
第三大隊 極東の郎党
第四大隊 その他
「完全に分けるということはしないが、ね。彼らもお互いに顔合わせをする必要があるからな。」
「武装侍女団も、三地域の者をシャッフルした上で、新都で留守番する私と、演習に向かうフィリアに振り分けます。」
「高位貴族の子弟で、経験を積みたいという者は、第二大隊付けとする。イーサンなどは、ここだな。第四大隊は、どう言えば良いか。そうだな、たとえば学園の3年生で参加を希望した者などは、ここに所属してもらう。士官候補生に、全体の運用を見学させるというわけだ。」
支隊隊長 ヒロ・ド・カレワラ
遊撃隊隊長 千早
「千早には、若手の異能者を率いてもらう。少数……と言うほど少なくはないが、少数精鋭部隊だと思ってくれ。」
「承ってござる。」
「で、これがヒロに任せる者の名簿だ。」
何だこれ!
李紘と、彼が指導している若手。要は、極東の問題児。
参加を希望した、学園の1・2年生。要は、未経験者。
それだけなら、まあ良いとして。
爵子サラ・E・ド・ラ・ミーディエを将とした、ミーディエ辺境伯の郎党衆。
「辺境伯をお誘いしました。関係改善のために必要と判断してくれたようです。実利のためなら無駄な意地を張らないあたり、さすがトワ系。側近の子弟や若手の精鋭だそうですよ?」
ソフィア様が、悪戯な笑顔を浮かべている。
メル姉妹のこの笑顔はほんと可愛らしくて、憎めないんだよなあ。
だが今回ばかりは、悪魔の微笑みと評すべきだったかもしれない。
それだけでは、済まなかったのだ。
爵子セイミ・ド・ウッドメルを将とした、ウッドメル・ギュンメルの郎党衆。
「セイミは、初陣は済ませているそうだ。ギュンメル伯の国境視察に、本隊付けとして、な。『今回は、実働部隊に、やや厳しいところに配置するようお願いしたい。』と言われたから、こちらに回した。」
「あの、ミーディエと同じ隊に所属させることについては……。」
事後承諾じゃ、ありませんよね?
いくらなんでも、同族相手にごり押しとか……。
「怒り狂うギュンメル伯を、ウッドメル総督の婿殿が説得したらしい。」
「『大戦を控えて、隣邦との関係改善は、絶対に必要です。以前から水面下で、経済協力の打診はあったのですが、それを受け入れるわけにはいかなかった。今回の話を機に、内外に仲直りをアピールし、ウッドメル復興のための資金を出させます。』そう言って説得したと、ケイネスさんから手紙が来ています。」
やりとりが書かれていました。
そう言って、ソフィア様が手紙を読み上げた。
「経済協力?実質は『資金援助』だろうが!父を見殺しにした仇敵から、施しを受けるのか!」
「実質は『損害賠償』です。いえ、『懲罰金』、『制裁』です。口にはしないだけで、そう伝わるようにしております。」
「悔しくは無いのか!」
「私は全てを失いました。弟のヤンまでも。何も知らなかったセイミにだけは、失わせたくない。全てを与えたい。いえ、全てを与えることで、やっと元に戻れるのです。父の遺領を完全に復興させるのが、いまの私の仕事です。」
「済まぬ。一番悔しいのは、お前であったな、ケイネス。よし分かった。全国からメル本宗家の郎党が来るのであろう?こちらも恥ずかしからぬ者共を送らなければ。まして怨敵ミーディエと肩を並べるとあってはなあ!未来のウッドメル伯爵、セイミが舐められぬようにせねばならん!」
だ、そうですよ?
断を下したギュンメル伯爵の笑顔が、ありありと目に浮かぶ。
塩辛声が、耳に聞こえてくる。
「喜べ、ヒロ。『若手でも精鋭中の精鋭、ゴリゴリの武闘派揃いを送ってやるわ!』だそうだぞ?」
精鋭の武闘派って言葉が嬉しくない!不思議!
ともかく、もう一度、俺が率いる分隊の構成を眺める。
李紘と、彼が指導している若手。要は、極東の問題児。
参加を希望した、学園の1・2年生。要は、未経験者。
爵子サラ・E・ド・ラ・ミーディエを将とした、ミーディエ辺境伯の郎党衆。
爵子セイミ・ド・ウッドメルを将とした、ウッドメル・ギュンメルの郎党衆。
練度の低い部隊と、高い部隊と。
大人しい連中と、武闘派と、問題児と。
仇敵同士と。
その混成部隊。
で、名は支隊でありながら、下手をすれば、いや間違いなく大隊規模であると。
「ヒロ、今回のテーマ、分かるか?」
「6月に出たお話ですよね。百騎長として戦争に参加しても、『ほとんど身ひとつで現場に入って、慣れぬ兵を1000人預けられるだけ』。それに似た隊をどう捌くか、と。」
「大丈夫かい、ヒロ君?……何て言いつつ、僕は今回、本隊付き伝令として飛びまわりながら、君たちを採点するんだけどねー。」
ジョーまで。
いい空気吸ってるよなあ、みんな。
だけど。
これ結構、面白いかも。
李紘がいるし、優秀な学園メンバーもいる。二部隊は精鋭だと言うし。
やりようは、あるんじゃないか?今回は戦争をするわけでもない。
「懐かしいなあ、その顔。」
「はい?ジョーさん?」
「十代の頃のアレックス様も、よくそんな顔をしていたよ。……アレックス様の方が、数段男前だったけどね。」
ほっとけ!
「やはりヒロさんには、無茶振りを繰り返すのが良いのでしょうか?」
「ひとのSッ気を誘うとは、このことにござるか。」
フィリアにせよ千早にせよ、今回はかなりの重責だ。
それなのに。
やっぱり二人とも、いい顔をしている。
全く、これだから。