表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/1237

第七話 山の民 その4


 歓迎の宴が終わった後、俺はハンスから商売に関する指導を受けた。


 たとえば、貨幣。

 王国の貨幣は、6種類ある。小銅貨・大銅貨、小銀貨・大銀貨、小金貨・大金貨である。10進法で、非常に分かりやすい。

 駄菓子は小銅貨単位、子供の小遣いや安い食事が大銅貨単位。

 しっかり食べたければ小銀貨、それなりの服を買うなら大銀貨から。

 新都で若者がひと月独り暮らしをするならば、小金貨一枚あればまあ大丈夫。

 大金貨はよほど大きな買い物の時しか使わない。それ以上の取引なら、金塊だの為替だの、そういう話になる。

 どうやら、小銅貨が10円、大銅貨が100円、小銀貨が1000円で大銀貨が1万円。小金貨は10万円で大金貨は100万円。そう思っておけば大まかな間違いはなさそうだ。


 その辺の理解のすり合わせは、まずまず上手く行った。

 「異世界から来たと聞いて不安だったけど、ボンクラではないみたいだな。」

 それがハンスからの評価。

 「頼むよ、本当に。」

 気が気ではないようだ。


 荷物や帳簿も確認した。

 重さの大部分を占めていたのは、塩。単価を聞いて驚く。日本で買う感覚とは、桁のレベルで違っていた。

 王国の内陸地域では、確実な売れ筋商品なのだそうだ。買い手の側からすれば、余っていても「余裕がある時に買っておいて損は無い」物でもあり、村全体として最低限の備蓄を考えたりもする物資なので、売れ残るということはまずないと聞かされた。

 後は、生活雑貨が少々。ほとんどおまけのようなものだ。


 「今回は初めてだし、まずは旅程と需要を調査することが目的だったんだ。塩なら足が出ることはないからな。初っぱなから冒険するなんて、まともな商人のやることじゃないよ。」


 自慢げに言ったそのすぐ後で、自分の言葉にダメージを受けていた。


 「そうだよ、堅実に行きたかったんだよ。危険は避けてきたのになあ……。思えば俺には昔からツキがなかった。ふた親には死に別れるし、商会でもパッとしなかった。ツキなし才なしなら、堅実に行くしかないと思って頑張ってきたんだけどなあ。」

 

 そう言いながら、目の前の銀貨をいじり出す。


 「ハンス!銀貨には触れるんだな!」

 思わず声が出た。


 「本当だ!」

 ハンスも驚いている。試してみたところ、触れるのは貨幣のみ。身分証や、毎日つけていた(日誌兼)帳簿や、「行商の友」と呼ばれるゴルフボール大の球に商品など、その他の貴重品や身に馴染んでいた物であっても、触れることはできなかった。


 「初めてこれを自分のものにしたときは、うれしかったなあ。もう使うこともできない。それでも触れるのか。」

 小金貨をもてあそびながら、苦々しげにハンスがつぶやく。


 ややあって、笑顔になった。

 「それでも、やっぱり俺はこの音が好きだ。死に切れないわけだ。執着していると触れるってのは本当なんだな。」

 

 何を言ったら良いか、正直なところ掛ける言葉に困っていた俺だったが、その笑顔に救われた。

 「明日は頼むよ、ハンス。」


 「こちらこそ。……と言うか、商売を『してもらう』のは俺の側だぜ。」

 そう言えばそうだった。


 「契約に関してはしっかりしてもらわないと困るよ、死霊術師(ネクロマンサー)。今日はもう寝ることだな。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ