第七話 山の民 その3
山の民一同が、外に出てきていた。思ったよりは人がいる。
羊のようなヤギのような動物の鍋料理をいただく。
最初にナイフで耳に切り込みを入れるよう、求められた。主賓の仕事らしい。
いちおう俺はフィリアの従者ということになっているのだし、説法師と山の民とのつきあいの深さから考えれば千早がリーダーだとも思うのだが、どうやらこの一刀は「男の仕事」であるようだ。
山の民からはいろいろな話を聞いた。
思ったより人がいる理由は、狩猟に加えて遊牧を始めて、食糧事情が安定したからだとのこと。山を維持するために、こまめに移動しながらの遊牧生活。
「繊細なかじ取りが要求されるが、一族が増える喜びには変えられない」。
槍投げが自慢の「黒猿」が、そう教えてくれた。
「それでもやはり、狩りこそが生活だ」と、弓の名手・「梟」が言う。
「山の男の生きがいだ。ここのところは邪魔されているが……ここならば……。」
言葉を切る。
何かあるようだ。邪魔って?そう聞こうとした時、「鷹の翼」に話しかけられた。
「ヒロ、お前は死霊術師なんだって?大ジジ様と同じだな。」
隔意は感じられない。むしろ、「大ジジ様と同じ」ということで、「鷹の翼」は親しみを感じているようだ。
「大ジジ様にはともかく、俺たちには敬語はいらない。何故だかお前は、子供という感じがしない。死霊術師にも、何か通過儀礼があるようだな。」
トラックに撥ねられるのも、通過儀礼かもしれないが……。
いずれにせよ、鋭い。山の民、おそるべし。
「今はどんな霊を連れているんだ?」
最初に会った時の厳しい顔とはまったく違う、人懐こい顔。
この「鷹の翼」の特技は、健脚。後で「梟」から教えてもらったのだが、地味なようで、狩りにおいては一番大事な能力なのだそうだ。
狩り以外のことにも気が回る男で、若手のリーダー格。旅人との対外折衝を任されることも多い。
「行商人の幽霊で、名前はハンス。」
「おお、それでは背に負っていた荷物は!」
「ああ、商売させてくれれば、ハンスが喜ぶ。」
そう言い終わらぬうちに、ハンスが口を挟む。「ヒロ、今はだめだ。明日、お互いに落ち着いてからだ。」
ハンスの言葉を「鷹の翼」に伝えると、「ははは、これは手強そうだ!だが確かにそうだな、今宵はお前達を歓迎すべき時だ!」と来た。
気持ちの良い男だ。
「安心してくれ。ぼったくるような真似はしないし、させないよ。」
これは俺の本心。ぼったくろうにも相場が分からないし、この世界に寄る辺なき俺としては、敵を作りたくはない。
いや、たぶんそういう理由ではないな。
善良で聡明なフィリアでさえ、死霊術師を警戒している。豪快で世慣れたところもある千早でさえ、死霊術師をライバル視しているところがある。
死霊術師の俺に、これほど隔意なく接してくれたのは、彼らが初めてだ。素直にそれが嬉しかったのだ。




