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第六話 説法師《モンク》 その1


 「説法師(モンク)?」


 「フィリア殿から大まかな話は聞いてござる。ヒロ殿は頭を打ち、記憶を失われた由。されば、フィリア殿が心配するのも当然でござるな。」


 「あ、ええ、ヒロと申します。それで、どこまで?」


 「死霊術師(ネクロマンサー)ということも、先ほど聞き及んでござる。そちらの霊に理法(ことわり)を説かんとするも、ヒロ殿に使役されているとの由にて、フィリア殿に止められ申した。」


 「理法(ことわり)」?

 もう、何から何まで分からない。


 「む?さよう、記憶を失ってござったか。説法師(モンク)とは、浮かばれぬ霊に、この世の理法(ことわり)を説き、輪廻の輪に還す、その技を遣う者のことにて。大まかには聖神教の浄霊術(エクソシズム)と同じでござるよ。」


 フィリアを見る。他にも宗教勢力があるということは、フィリアからもヨハン司祭からも、教えてもらっていない。


 「聞かれませんでしたので。」とのお答えをいただく。

 一神教徒らしいと言えば、それらしい。


 いるんだよなあ……。行動の一つ一つが、期せずして政治的なヤツ。腹黒と言い切れないのが、また微妙に腹が立つというか。「教団で保護しよう」という善意も、外から見れば「何も知らない死霊術師(ネクロマンサー)を囲い込もうとしている」という話になるわけで。


 せっかくだから、もう少し、両宗教の話を聞く。


 「天真会は、多神教にて。神々にもいろいろと差異があるということは認めているのでござるが……。聖神教は、そのうちのひと柱を神と捉え、他の神は神ではなく精霊や使徒、悪魔などであると捉えているのでござる。」


 あの性悪ショタ女神は、どういう位置づけなのだろうか。悪魔であっても不思議は無い。


 「霊は浄化されると天に帰る、と考えるのが聖神教。霊が輪廻の輪に還ると説くのが天真会にて。まあ実際、現世を離れた霊がどうなっているかについては、いまだ不明、というのが誠実な物言いでござろう。」

 

 宗論を始めても、仕方ござらぬな。

 ひと息付いて、千早が話題を切り替えた。


 「(それがし)はギュンメルの西、リージョン・(シン)にて実習を終えたのでござるが……。船で川を下りおるところ、下流にて土砂崩れこれありと聞き及び、山林を踏破して新都に帰らんと試みていたのでござる。」


 随分とワイルドですこと。


 「先ほど、山中にて浮かばれぬ霊を見かけしゆえ、理法(ことわり)を説かんとするも、逃げられてござる。あれほど素早い霊は初めてでござった。まだまだ某も修行が足りぬということでござろう。後を追うて道に飛び出し、ヒロ殿を撥ね飛ばした。と、そのような顛末にて。」


 「実習ということは……千早さんとフィリアは同じ学園に?」


 「さよう。我ら、級友にて候。」


 え?千早さん、どう若く見ても16歳以下には見えないのですが?ラッキースケベにハンスが舌打ちするぐらいには、大人ですよね?フィリアは10歳ぐらいだし。いや、年とか関係ないのか。日本でも、昔の寺子屋はそうだったっけ。などと思っていると。


 「霊能をお持ちなれば、ヒロ殿も学園に、とのお心積りにてござるや?」とフィリアにたずね、俺に向きなおる。

 「同年輩とお見受けいたす。机を並べることになるやも知れませぬな。」


 「同年輩って……同じぐらいの年ってこと?僕、13ですよ?」


 「おお、やはり。(それがし)ともフィリア殿とも同じでござる!」


 えええー!

 叫んで、千早を見た後に、フィリアに向きなおる。

 驚愕した俺に、フィリアがこれまでにないほどの冷ややかな目を向けて……。 

 「どこを見てるんですか?」と言いながら、杖を鳩尾に打ち込んできた。


 …………

 かがみこんだ。

 被害妄想だと言いたいのだが、声が出ない。


 「お見事!聖神教ご一統に伝わる杖術、しかと見届け申した!いや、さすが……」


 その言葉を最後まで聞き取っている余裕も無い。

 千早が活を入れてくれて、どうにか立ち上がった。霊だけではなく、生身の人間であっても恐れなくてはいけない存在、それがフィリアであるようだ。


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