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第五十五話 はつ恋のゆくえ? その2


 「酔っ払ってただけだって!」


 「酔うて悪戯(わるさ)を!?そこに直れ!」


 「違う!酔っ払ってふらついてぶつかっただけだ!」


 「まことにござるや?酒が入ると人柄が変わる者も多いゆえなあ……。」


 「お姫さま、副使さまのお言葉通り、珠の勘違いにありんす。平にご容赦を……。」


 「ならば良し!なれどお珠、お主が詫びる必要はない。酒を食らいて粗相をいたした副使殿が悪い。さようでござるな、ヒロ殿?」


 小突かれる。


 「ええ、珠さん……とお呼びすれば良いですか?珠さん、すみませんでした。」 


 「何事も無くて良かった。だが、お珠よ。今後は、お姫さまと呼んではならぬ。某は佐久間の家を離れたゆえ、な。」

 

 「で、何しに戻ってきたんだよ、千早?明日もあるから早めに切り上げさせたのに。」


 「報告に参った。寝所の支度について。」


 「千早様、そのようなこと、こちらで……。」


 「ああいや、お珠、そうではない。警備の問題よ。ヒロ殿、今後我等は、館ではなく城の方で寝を取る。」


 「奥の間はフィリアが使うとして、千早と、クレアさんがつくわけだね。」


 「さよう。レイナ殿ほか、おなごには固まってもらうつもりにて。おなご衆の間では、話し合いができておる。」


 「樹さんもいるし、心強いね。で、俺に相談って?」


 「ヒロ殿には、次の間に控えてもらう必要がござる。他に誰を配置するか、伺いに参った。これが一点。」


 「ヒュームはぜひ。マグナムも欲しいところだ。塚原先生にもお願いできるかな。あとはナイト・騎兵・弓兵の三隊長。逆に、トラブルの発生源になるキルトには遠慮してもらう。ノブレスにも。そんなところかな。」 

 

 「もう一点、やはり警備の問題にて。城の間取り、仕掛けなどの確認をお願いしたいのでござるが……。」


 千早が、ちらりと珠を見た。

 珠が、うつむく。


 「あ、では、私はこれにて……。」

 


 「いや、いいよ。」

 千早にやや顔を寄せる。手で口を覆う。

 「ピンクだな?」

 俺の言葉に、千早が頷く。

 ピンクを飛ばす。


 「羨ましいでありんす。」

 はい?

 「その場所は、珠のものでありんした。千早様に遠慮なく叱られて、二人だけにしか分からぬやりとりをして、小声でひそひそ話し。」


 「お珠、警備の問題ぞ。外に漏らすわけにはいかぬのだ。」


 「お二人は、いかなるご関係にありんすか?」

 はい?


 「お珠、何を申すか、そのような……。」


 千早の言うとおりだぞ、珠さん。

 警備の話だって言ってるだろうに。


 「いえ、千早様もお年頃。そのような話があっても。廊下で副使さまとこのようなことになった珠が至りんせんでした。」


 また話をめんどうにする!


 「だから違うと申しておる!」

 焦った千早が怒りの表情を見せる。

 「それと、ヒロ殿。ぶつかったのではなかったのでござるか?お珠、遠慮は要らぬぞ。」


 「…………。」


 なぜ黙るし!


 「ヒロ殿?」


 振り返ってこちらを睨みつける千早の向こうで、お珠が舌を出している。

 コイツ!いいタマだ!珠だけに!って、そうじゃない、そういうことじゃなくて……。


 「それでは、珠はお仕事に……。」


 ああもう、分かった!

 「珠さん、宴席の仕事はいい。他に任せて、君は千早のそばにいてくれ。新都から来た女性達のお世話をお願いできるか?後で佐久間の家にも伝えとくから。」 


 珠がにんまりとした笑顔を見せた。

 「千早様、ほんとうにぶつかっただけでありんす。久しぶりに千早様にお会いして、胸塞がり……。」


 「さようか。ならば良いのだ。ヒロ殿、お珠の配置換え、感謝いたす。」


 「では、千早様。ご一緒に、皆さまのところへ。」



 「悪い、珠さん。もう少しだけ千早を借りられるか?」


 千早の肩の向こうから、「あ゛?」という顔を見せる珠。

 なあ、俺がそんな顔をされなきゃいけないことを何かしたか?

 

 低声で千早に話しかける。

 「先代、盛政さまのことで……」

 

 「む?……ヒロ殿、そこの部屋で。お珠、部屋の前で見張りを頼む。」


 微妙な表情を見せる、お珠。

 俺と千早が二人きりというのは気に食わないけれど、千早が信頼してくれるのはうれしい、そんな顔。



 「さて。祖父さまのことで、何か?」


 「千早は、幽霊の気配には鈍感なんだっけ?」


 「さよう。じっとしておる幽霊には、あまり気づかぬでござるな。何か動きを見せれば、その瞬間に気づくでござるが。」

 

 試しに、指示を出してみる。


 「むっ?3つ。なれど……ピンク殿はいないはずでは?」

 

 「正解だよ。鈍感って、比較対象をフィリアにしてるからじゃないのか?」 


 「さてはヒロ殿。アリエル殿、ジロウとは別のもう一体が……。」


 「ああ、先代の、佐久間盛政さまだよ。」


 「お祖父様!なにゆえ!暗殺でもされたでござるか!」 



 「我が孫ながら、ファンゾらしく育ったものよ。色気のない。」


 「モリー、死因に色気なんてあるわけないじゃない。」


 千早の真剣な表情と、幽霊達のこの脱力ぶりのギャップと来たら。


 「いや、違う。自然死でポックリだったらしいけど、家の後継問題が心配で見守っていたそうだ。で、千早を見たら、嫁に行く姿を見るまでは死ねない、だってさ。」


 「すでに亡くなっているではござらぬか。ああ、還れないと、そういう……。」

 

 「こうして千早を目の前にすると、また欲が出てきたでござるなあ。ひ孫の顔を見るまで、という気持ちになってきた。」

 その言葉を伝える。


 「お祖父さま、それは未練でござる。言い出したら切りが無い。次は、ひ孫の元服を……となるでござるよ?人と霊とは、住む世を異にするもの。どこかで区切りをつけ、還らねばならぬのでござる。」

 

 「おや、説教されてしもうた。大人になったものだな、千早も。」

 目を細めるモリー老。 


 「お祖父さまに言われるのは構いませぬが、ヒロ殿を通じて言われると、何か釈然とせぬ。」

 目を尖らせる千早。


 「悪い。でもしょうがないだろ。そうする他ないんだから……。まあともかく、ファンゾに関する助言をしてくれるって言うから、契約しようかと思っているんだ。ただ、やっぱり一応ご遺族の許可、少なくとも千早の許可は得ておくべきだろうと思って。」


 「ご配慮、感謝いたす。……さよう、某は構いませぬ。期間さえしっかり定めていただければ。父や兄に伝える必要はござるまい。霊のことは、よく分からぬであろうゆえ。」


 「では、千早が嫁に行くまでの期間で。対価は、領主の経験から来る各種の助言。それでいいですね、モリー老。」 


 「よろしくお願いいたす。」


 「モリー老でござるか。何を申せば良いか。いや、祖父さまがそれで良いと言うのであれば……。」


 苦い顔を見せた千早。

 部屋を出たところで、それを珠に見とがめられる。


 「何の話をした?千早様にこんな顔をさせて!」

 こちらに向けた目に、そういう言葉を浮かべている。



 千早の乳姉妹、珠。

 可愛らしいといえば、可愛らしい。

 美少女とか、そういうことではなく……。何というか、系統的にわんこ顔というべきか。

 説明しにくいが、何となく猫っぽいとか狐っぽいとかあるいは狸だ鳥だ……と、人の顔を分類するとしたら、犬。

 そういう感じの、愛嬌と……裏表のある、少女であった。

 


その晩、夜更けのことだった。


 「ヒロ、起きて。」


 アリエル?

 まぶたが重い。酒のせいか、はれぼったく感じる。


 「侵入者。近づいてる。」 

 

 冷や汗が出て、眠気が吹き飛んだ。

 「数は?」


 「ひとり。」


 「ならば、奥の間に続く廊下で待ち伏せる。それでいいか?」


 「それが良うござろう。」

 城の間取りに詳しいモリー老が言うのだから、間違いない。



 廊下の片隅に丸くなり、息を潜めて待つ。

 目が慣れてきた。輪郭が感じられる。

 それなり以上の体格だが……。足音がしない。

 

 曲者が、足を止めた。


 「気づかれたな。これ以上座っている意味は無いぞ。」

 朝倉の声に応えて、立ち上がる。相手との距離、およそ5m。

 

 曲者の向こう、さらに数メートル先の天井から、何かが落ちてきた。

 床が立てた音に、曲者が振り返る。

 ヒュームだな?助かる。


 部屋の内側からも、気配がした。鍔鳴りの音。

 塚原先生か。

 

 「いやいや、ははははは。これは某が悪うござった。」


 この声は。

 佐久間信政、改め、佐久間知政!


 「平次さん、何を?」


 「いや、これこれ。」

 手に樽酒を携えていた。

 「飲み足りぬゆえ、持ってまいったのでござるよ。」

  

 「お、これは良い酒を。」

 塚原先生が顔を出す。


 「音を立てずに運ぶとは、平次さんもなかなか。得物は?」

 ニヤリと、男くさい笑顔を浮かべる塚原先生。生徒の前では見せぬ顔。


 「得意は槍でござる。」


 「も少し手前の、そこの戸板を開けていただければ。」

 ヒュームもチクリ。

 

 そうだよなあ。

 音も立てずに、奥まで進む。これは俺らを試しに来たか?


 「まあともかく、部屋へどうぞ。」

 って、何だ、いい匂い。お香?


 「また平次が……。誰に似たのか。分からぬでもないが。」

 モリー老?


 さては夜這いか!

 よくやるわ、コイツ!

 毒のない笑顔をしくさって、大それたことを考えやがって。

 こっちの手間を増やさないでくれ~。

 

 「自信はあったのだが、さすがでござるなあ。」


 「奥に行くほど、厳しくなります。部屋をお間違えになると、大変なことに。」


 「これは!どうかご内密に。しかし副使殿、まことに千早と同い年にござるか?」


 「千早さんは、私よりしっかりしていますよ。天真会の教育の賜物です。」


 「今宵はアラン師がおらぬのが惜しい。そのあたりの話、聞きたくござった。」


 「また明日にでも。男同士(・・・)ですし、もう少し気楽(・・)な格好でどうぞ。」


 「副使どの、どうかそれまでに。皆さまの腕、よう分かりましたゆえ。おみそれいたした。この通り。」


 大人たちを叩き起こす。

 銘酒が来た以上、飲ませないと。食い物の恨みは恐ろしいからねー。

 その代わりに俺は眠らせてもらう!



 佐久間知政(平次)のイメージを、変えました。

 当初は、ゴツゴツというイメージにしていたのですが、書いているうちに印象が変わってきました。

 長身はそのままに、もう少し細身で、毒のないあどけない笑顔、それでいて大胆というイメージになってきました。それにあわせて、『第五十四話 南ファンゾ その2』でも表現を変えました。

 よろしくお願いいたします。

 (2016年1月8日付け)

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