第五話 行商人 その1
後任の司祭が着任した翌日、フィリアと俺はクマロイ村を旅立つこととなった。
もともとフィリアは新都の学園に在籍していて、実習としてギュンメル南西部に滞在していたのである。学園に帰る期限を迎えたところで、北西にあるギュンメル西端・クマロイ村のヨハン司祭が亡くなったので、当座の交代要員として赴任してきたというわけだ。新都に帰るのは当然であり、その準備は前々からしていた。
俺に関しては……しばらくは、フィリアの監視下ということらしい。
「悪事を働いたわけではありませんので、処罰が下ることはありません。決して悪いようにはしませんので、新都に着くまではお願いします。」
とのこと。
本当に大丈夫なのだろうか。下っ端が何を言っても、上層部の鶴のひと声で火あぶりになったりはしないのか。
不安はあるものの、善良で聡明なフィリア以上に頼れる人物は、今のところ他にいない。身の置き所を子供に依存するのはだいぶ情けなくはあるが、仕方ない。
旅立ちの際には、村から多くの人が見送りに来てくれた。
ベンさんは、トムじいさんのへそくりの中から、お小遣いを分けてくれた。
「父さんを手伝ってくれたわけだし、これぐらいはさせてほしい。」
腕に添え木をしているトマスの家のおやじさんは、途中までついてきてくれるそうだ。
「命の恩人だし、腕がこれじゃ仕事にもならんから。」
安静にしていてもらいたいのだが、聞き入れてくれない。
クマロイ村からの道のりであるが、まずは南東へと歩いてゆく。
左にギュンメル領中央にある火山、右に山脈を見ながら坂をくだっていくこと3日で、大きな川にぶつかる。大河ティーヌである。
船でもって、東へ向かって流れくだるティーヌに乗るか、あるいは川沿いの道を進むかすると、フィリアが滞在していたギュンメル領最大の都市、カデンの街に至るというわけだ。
カデンから南東方向には大平原が広がり、新都へと至る。
トマスのおやじさんは、2日間ついてきてくれた。
もともと村ごとに教会があるので宿泊には問題ない。坂道は街道のようなもので安全だし、ギュンメルは治安も悪くない。まして、神官を狙うような不届き者はまずいないということなので、割と気楽な旅ではあったが、それでも心強かった。
最後の1日、あとは川へと歩くだけ、というところでお別れした。
この世界に転生してからほぼひと月。山を歩き回ったり農作業をしていたりしたので、体力はけっこうついたと思う。足取りも軽く坂道を下っていたのだが……。
いた。
幽霊が。
これほど治安の良い道で、どうしてそういうことになるのかと最初は思ったが、ひと目見て納得した。
落石である。数日前まで降り続いていた雨のせいだ。ピンポイントで落石に遭ってしまったというわけだ。
フィリアに了解を得て、とりあえず話を聞くことにする。




