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第一話 老人 その1



コミックス版『異世界王朝物語』(文藝春秋社)、ピッコマにて連載中です。

https://piccoma.com/web/author/product/list/49487/K

ご覧いただきたく、なにとぞお願い申し上げます。



 ん?


 どうやら、生きているようだ。絶対に助かりっこないと思ったんだけどな。

 ここは病院か?ベッドの中にいることは確かだけれど……。

 とか、そういうことに頭が回りだす前に。

 声が聞こえた。


 「あっ!目、覚めた?大丈夫?怪我は?どこか痛くない?そうだ、お父さん呼んでこないと!」


 俺の答えを待つこともなく、人影が転がるようにドアの向こうへと消えて行く。

 

 病院ではなさそうだ。明らかに民家の一室だと思う。看護師が医者を呼ぶのではなく、女の子がお父さんを呼んでいることでもあるし。

 たぶんそういうことなんだろう。

 

 すぐにさっきの子が戻ってきた。お父さんとおじいさんを連れて。あんまり似ていなかったけど。

 お父さんらしき人が、矢継ぎ早に質問を重ねてきた。


 「君は何者だ?どうしてここに来た?どうやって来たんだ?連れは?」


 どうしてって、誰かが運んでくれたからだと思うんだけど……。明らかに俺を不審者扱いしている人を前に、そういうことは言い出しかねる。

 

 逡巡していると、女の子が早口でまくしたてる。

 「今目が覚めたばかりなのよ!怪我だってあるかもしれないし、お父さんのせいで混乱してるじゃない!」


 うん、会話のリズムは間違いなく親子だ。

 ベッドの左脇と右脇で、俺をほったらかしにして喧嘩を始める二人を見て、そう思った。


 「見るからに怪しいじゃないか!だいたいウチにはお前という女の子もいるんだし、いろいろ気をつけるべきことが多いんだ!」


 ……どうもすみません。


 「ヘンなこと言わないでよ!困った人や旅人に親切にするのは当然のことでしょ!お父さんだっていつも言っているじゃない!」


 ……古風な家訓ですね。素敵なご家庭だと思います。


 そんなやり取りに口を挟めないでいると、足のほう、ベッドの向こう側からつぶやきが聞こえてきた。

 「ワシは賛成したけれどのう……聞こえてないようだしのう……。」



 会話の糸口をつかむにはちょうど良いタイミングだったので、話しかけることにした。


 それにしてもこのおじいさん、おじいさん過ぎる。仙人みたいな衣装を身にまとい、つるつるの長い頭に、目を覆い隠さんばかりに垂れ下がった白い眉毛。おなじぐらいに真っ白の長いひげ。まさにディス・イズ・ザ・老人。アカザの杖などついていたら完璧だ。


 「ありがとうございます、おじいさん。おかげで助かりました。」



 「ほ。」


 隠れていた目が丸々と見開かれた。


 「これは驚いた。……そうか。それなら、少し手伝ってもらいたいことがあるのじゃが……。何、迷惑はかけんよ。いつまでも邪魔をするつもりはない。」



 「いえいえ、僕にできることであれば、喜んでお手伝いしますよ。」

 

 左右の口論が途切れたので、二人に目を向ける。

 丸々と目を見開いていた。

 似てないなんて思ってごめんなさい。その表情、間違いなく皆さんは親子で祖父で孫です。

 

 「何の話をしているの?」

 「誰と話をしている?」


 ステレオだ……。


 「いや、そちらの……おじいさんですよね?」


 「トムじゃ。」


 外国ご出身でしたか。そう言えば、こちらのお宅、そういう感じですね。


 「あ、これはどうも、トムさん。僕はヒロと申します。」

 外国の人なら、まずはファーストネームを言えばいいかな?


 二人の目が、さらに大きく見開かれた。

 「おじいちゃん、こないだ亡くなったんだけど……。」 

 

 

コミックス版『異世界王朝物語』(文藝春秋社)、ピッコマにて連載中です。

https://piccoma.com/web/author/product/list/49487/K

ご覧いただきたく、なにとぞお願い申し上げます。

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