第一話 老人 その1
コミックス版『異世界王朝物語』(文藝春秋社)、ピッコマにて連載中です。
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ご覧いただきたく、なにとぞお願い申し上げます。
ん?
どうやら、生きているようだ。絶対に助かりっこないと思ったんだけどな。
ここは病院か?ベッドの中にいることは確かだけれど……。
とか、そういうことに頭が回りだす前に。
声が聞こえた。
「あっ!目、覚めた?大丈夫?怪我は?どこか痛くない?そうだ、お父さん呼んでこないと!」
俺の答えを待つこともなく、人影が転がるようにドアの向こうへと消えて行く。
病院ではなさそうだ。明らかに民家の一室だと思う。看護師が医者を呼ぶのではなく、女の子がお父さんを呼んでいることでもあるし。
たぶんそういうことなんだろう。
すぐにさっきの子が戻ってきた。お父さんとおじいさんを連れて。あんまり似ていなかったけど。
お父さんらしき人が、矢継ぎ早に質問を重ねてきた。
「君は何者だ?どうしてここに来た?どうやって来たんだ?連れは?」
どうしてって、誰かが運んでくれたからだと思うんだけど……。明らかに俺を不審者扱いしている人を前に、そういうことは言い出しかねる。
逡巡していると、女の子が早口でまくしたてる。
「今目が覚めたばかりなのよ!怪我だってあるかもしれないし、お父さんのせいで混乱してるじゃない!」
うん、会話のリズムは間違いなく親子だ。
ベッドの左脇と右脇で、俺をほったらかしにして喧嘩を始める二人を見て、そう思った。
「見るからに怪しいじゃないか!だいたいウチにはお前という女の子もいるんだし、いろいろ気をつけるべきことが多いんだ!」
……どうもすみません。
「ヘンなこと言わないでよ!困った人や旅人に親切にするのは当然のことでしょ!お父さんだっていつも言っているじゃない!」
……古風な家訓ですね。素敵なご家庭だと思います。
そんなやり取りに口を挟めないでいると、足のほう、ベッドの向こう側からつぶやきが聞こえてきた。
「ワシは賛成したけれどのう……聞こえてないようだしのう……。」
会話の糸口をつかむにはちょうど良いタイミングだったので、話しかけることにした。
それにしてもこのおじいさん、おじいさん過ぎる。仙人みたいな衣装を身にまとい、つるつるの長い頭に、目を覆い隠さんばかりに垂れ下がった白い眉毛。おなじぐらいに真っ白の長いひげ。まさにディス・イズ・ザ・老人。アカザの杖などついていたら完璧だ。
「ありがとうございます、おじいさん。おかげで助かりました。」
「ほ。」
隠れていた目が丸々と見開かれた。
「これは驚いた。……そうか。それなら、少し手伝ってもらいたいことがあるのじゃが……。何、迷惑はかけんよ。いつまでも邪魔をするつもりはない。」
「いえいえ、僕にできることであれば、喜んでお手伝いしますよ。」
左右の口論が途切れたので、二人に目を向ける。
丸々と目を見開いていた。
似てないなんて思ってごめんなさい。その表情、間違いなく皆さんは親子で祖父で孫です。
「何の話をしているの?」
「誰と話をしている?」
ステレオだ……。
「いや、そちらの……おじいさんですよね?」
「トムじゃ。」
外国ご出身でしたか。そう言えば、こちらのお宅、そういう感じですね。
「あ、これはどうも、トムさん。僕はヒロと申します。」
外国の人なら、まずはファーストネームを言えばいいかな?
二人の目が、さらに大きく見開かれた。
「おじいちゃん、こないだ亡くなったんだけど……。」
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