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第四十五話 文化の秋 その3


 

 「初日も二日目も、午後のステージに出る事になったから。」


 「レイナ、バンドはいいけどさ、どういう感じでやるんだよ。」


 「普段のマリアや私とは普段とは違う雰囲気でいくつもり。優雅とか、そっちじゃない感じ。アップテンポ。」


 「自分で優雅とか言わないでよ、恥ずかしいから。」

 

 「で?メンバーと楽器は?」


 「私と、マリアと、ヒロと、ノブレスと、マグナム。あと、幽霊さんにもお願いしたい。」


 「楽しみね。最新の傾向、気になるし。」

 そんなアリエルの言葉を伝える。


 「しかし、ノブレスとマグナムって音楽好きだったんだ。知らなかった。」


 「どの村にも昔から伝わる歌や踊りって、あるだろ?いつだか鼻歌を口ずさんでたらレイナにつかまったんだ。」


 「私も聞かせてもらったけど、素敵な歌だったわ、マグナム君。」


 「僕は、音楽が得意なわけじゃないんだけどなあ。」


 「ノブレスは、鋼線をいじらせる分には、何やらせても間違いないから。はいこれ、スコア。とりあえず1曲ぶんだけど。あと2曲は、また後で。」


 女神の調整のおかげか、楽譜(スコア)五線譜(オタマジャクシ)だった。ノブレスを除いて。

 ノブレスだけは、「何拍目、左から何本目の、上から何センチ」とか、そんな書き方がしてある。まさに「鋼線」扱い。楽器として演奏させるつもりじゃないようだ。


 「書くのに苦労したんだから。」


 「おいレイナ、これはあんまりだぜ。」


 「いや、これなら……、うん、演奏できる。レイナ、ありがとう。」

 狙撃はタイミングが大切。意外とリズム感はあるようで。ベース担当であった。

 

 「ボーカルは、残りの4人で、曲ごとに変えるから。ツインボーカル。で、あたしは今回、ドラム。歌うときだけ、幽霊さんにお願いするね。今の私じゃ叩きながら歌うのは厳しい。」


 「てっきりドラムは俺かと思ってたぜ。壊さずにやれるか不安だったんだけど、助かる。」


 「レイナ、腕力とか体力とか、足りるの!?」


 「だから言ってるじゃない、ヒロ!普段とは違うことをするの!叩くのは2曲だし、大丈夫よ。」

 

 「私はギターね。人前で弾くのは初めてじゃないかしら。」


 「マリアは楽器なら何でもイケるから大丈夫。そこは信頼してる。」

 

 「で、俺たちは?」


 「ヒロは3曲ともボーカル。声変わりまだでしょ。そのくせどういうわけか、『子供の声』じゃないのよね。高いくせに落ち着いてる。これはオイシイ。」


 「俺が誘われたのって、そんな理由!?」


 「ワイヤートラップ得意だからってベースやらされる僕よりはマシじゃないかなあ。」


 「記憶喪失のくせに数学できたり、何かおかしいのよヒロは。」

 まだ根に持たれてる。 


 「マグナムは、ハープ。ルックス担当。大きいし、映えるのよね。」


 「俺も大概な扱いだな。ルックスはマリアで十分だろ。」


 「マグナム君、レイナさんだって美少女で有名なのよ?」


 「そういうこと、マグナム。そこで『マリアとレイナ』って言わないから女子に睨まれるの!覚えとけ!マリアも否定しなさいよ!」


 「それはできないわ。プロだもの。」


 「とにかく。後ろが広い台形を取るから。前にマリアとマグナム。後ろに私とノブレス。台形の中心にヒロ。3曲目、マリアがボーカルの時は、マグナムが少し下がってヒロがマリアに少し寄る。2曲目、マグナムがボーカルの時は、逆。1曲目、私がボーカルの時は、マグナムとマリアは少し広がる。OK?」


 「それじゃ、練習始めるよ!」

 



 

 「会計がらみのチェックは完了しました。」

 「出し物のチェックも終わった。」


 「で。文化祭の、出し物の配置だけど。とりあえずこんな感じでどうだ。」

 ヘルブラントが図面を示す。

 ざっくり言うと、中央のステージあたりを境に、文化部が後ろの校舎、運動部が前の広場。 

 その他の出し物も、大人しそうなグループは後ろ、武闘派が前。

 

 「なるほどな。風紀委員のヘルブラントならでは。おっと、今は副会長か。私は賛成だ。」

 ヨランダが即答した。


 「暴れそうな輩を固めて配置するということでござるか。」


 「当日は酒も入るしな。用心は必要だ。」


 忘れていた。飲酒に年齢制限の無いこの世界。お祭りである以上、酒を飲んで悪いことはないのだ。

 

 

 「後は当日に関する動き方の確認ね。2日目は学園の生徒のみで行われるが、初日は外部のお客様も来場されるので、特に注意を。」


 「セキュリティは大丈夫なんですか?」


 「そうか、君は新入学の生徒だったね、ヒロ。事前に配布した、記名の入場券を持っている人しか入れないようになっているんだ。名簿でチェックする。出るときにその入場券を回収するから、内部への潜伏もできない。」


 女子校システムでしたか。 


 「外から中へ、中から外への警備は、新都の方で担当してくれるの。入り口は正門のみ、出口は龍門のみ。」


 「油断はいかんが、我々は内部の『治安』のみ考えれば良いのさ。外部からの侵入者については、新都と教官の担当だ。」


 「当日、風紀委員は主に前の広場を巡回する。」

 「その他のメンバーは後ろの校舎ね。会計監査と庶務は、どっちにも行けるようにしておいて。」

 「保健委員は待機……。」


 「あの、応急処置とかの勉強は?」

 アンヌの質問に、無言で頷き返すアイリン。口が重いにもほどがある。

 


 「結局、当日は保健委員以外の全員が『風紀委員』になると思っておけば間違いないから。」


 「注意すべきは暴力関係。あとは、まああれだ。不純なんたらと言うヤツさ。その時は恨まれるかもしれんが、浮かれて事に及んで、後悔されるよりはずっとマシということだ。」

 




 「3人は生徒会で忙しいんだろう?今回の文化祭については、2年生の発表を見てくれればいいよ。意見も出してくれるとうれしい。……本来、3年生もここで発表して引退なんだけど、今年の3年生は数合わせの幽霊部員だったからなあ。」

 弱小部の悲哀である。


 「私は、『一神教の歴史観とその影響』ってタイトルで発表するから。」


 「聞くからに危ないだろ?『一神教』って、全然伏せ字になってないって、イブ。フィリアは聖神教徒だよね。怒らないでやってくれるかな。で、僕は、『~期の王都における服飾文化について』だね。」 

 

 「ダニエルのは、ただイラストを描いて並べただけじゃない。考察まで踏み込みなさいよ。」

 

 「何だとお?史料の文字文献からイラストを起こすのって大変なんだぞ!」 

 

 「で、僕のは、『荒河夜戦史料補遺』。戦争の史料って、どうしても軍の公式発表とか、将軍ほか上層部の話に基づいたものが多いだろ?地元の人や当時兵卒だった人に話を聞いてみたんだ。一人が聞いて回れる分量にはどうしても限界はあるし、記憶違いもあるかもしれないけど、きっと意味があるかと思って。……枠組みも作ってきた。あちこちの村や部隊同窓会で、『覚え書や回顧録を募集します。』っていう企画を立ち上げてくれたよ。思い出を残したい人もいるし、軍隊の人は意義を理解してくれたんだ。」 


 「ある意味私より危ないかもよ、ウィル。メル家にとって都合が悪いことが出てきちゃったりしたら……。」

 

 「大丈夫ですよ。後ろ暗いことは何一つないはずです。……会戦なら。」

 冗談めかした笑顔。


 「聞かなかった事にしていいかな、フィリア。」

 ダニエルが、これも笑顔で肩をすくめた。

 「あ、そう言えば、1年生から喫茶店への協力を頼まれたんだけど、話聞いてる?」


 「いえ、聞いてないですよ。でも一部の女子が、大掛かりにやるからって言ってたな。男子はできるだけ手伝ってって。」


 「ええ、ヒロさん。企画書も出ていましたね。」


 「なんだか妙でござったな。某にも参加するように呼びかけた生徒がおったが、参加させないと言い出す生徒もおって、ケンカしていたでござる。生徒会で忙しいゆえ、申し訳ないと申して収めたでござるが……。」

 こうして千早の処世術に磨きがかかってゆく。

 



 歌の練習をし。歴史部に時々顔を出して。2日目の午前に喫茶店に参加することを約束させられ。

 で、執行部で打ち合わせをして。

 

 強度が上がった刀術の稽古に悲鳴を上げ、週末はまた時々サロンに出たりして。

 

 そんなことをしているうちに、文化祭の当日がやってきた。



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