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第四話 神官 その2

 

 「フィリアさんのことは良いとして。」

 ヨハン司祭は続ける。

 「浄霊術そのものが持つ問題点は、やはり考えなくてはいけないと思うのです。ヒロさん、これも誰かに伝えて、あるいは広めてもらえますか?」


 ほんとうにヨハン司祭は、善き神官だと思う。

 善人は、良いと思ったことをそのままに口にする。困ったことに。

 残念だが、言わなくてはならない。

 「浄霊術の問題点は、教団にとって、認められることなのですか?」


 「ヒロさんは、教団を信用していただけませんか?」

 司祭は不満げだ。


 ああ、やはり善人すぎる。

 「では、死霊術師が浄霊術の問題点を指摘したとして、その内容は教団に信じてもらえるのですか?」


 この問題については、フィリアから伝えてもらうわけにはいかないのだ。必然的に、俺が伝えるということになる。


 「これは……途轍もない重荷を、ヒロさんに背負わせるということに……」


 言いたくはなかったが、そういうことだ。俺には何の後ろ盾もないのだ。

 聡明なフィリアにして、死霊術師に対する視線は冷たく厳しい。この問題を関係者に伝えたところで、信じてはもらえまい。それどころか、間違いなく教団全体から目の敵にされてしまう。


 「この問題については、また後日、ということにしませんか?」

 

 そんな話をしていると、向こうの道に、トマスの家のおかみさんが現れた。

 「うちでご飯食べてってくださいな!神官さまにも伝えてください!」

  細かく説明せずに伝えられる用件はありがたい。


 トマスには、兄が三人いた。

 バカ息子は言い過ぎである。ひたすらに普通の少年だった。

 普通の少年ということは、バカみたいに食べるという、ただそれだけのことである。


 おかみさんは、当然その辺の事情をよくご存知で。

 俺にも山盛りで出してくる。

 こんなに食べられるかなあと思ったが、さすがは13歳の胃。簡単に平らげてしまった。

 おかみさんがすかさずお代わりを出してくれる。


 「ヒロさん、暴食は……」と言い出すフィリアに、おかみさんが驚く。


 「いやだねえ、神官さま。これぐらいは普通ですよ。お代わりしなかったら、むしろ病気かと思って不安になっちゃいますよ。」


 普通におばちゃんの会話のはずなのだが、病気で息子を亡くした母親の言葉ともなると、重い。


 フィリアもフィリアで、心底驚いていたようである。

 「そういうものなのですか?」


 「神官さまには、男の兄弟はいないんですか?」


 「私は、6人姉妹の末っ子です。」

 ……それはそれで強烈なものがある。

 

 「うらやましいわねえ!私んとこはみんな男ん子で。もう、大食いだわ乱暴だわ、がさつだわ臭いわで、たまりませんよ!女の子ばっかりってのはうらやましいわねえ。せめて一人でもいれば、だいぶ違ったんでしょうけど。」

 

 「父が嘆いていました。一人ぐらいは男の子が欲しかったなあって。」


 「そういうものかもしれないですねえ。」


 俺もそれなりに会話に参加したが、女性同士ほどにコミュニケーションを取れるはずもない。

 ただ、一緒に食事をするということには、ただ会話する以上の何かがあるのかもしれない。フィリアのご機嫌は良くなったように思われる。

 

 大盛りを三杯平らげたところで、おかみさんのご機嫌も良くなったように思われる。

 「少し心配していたんですよ!神官さまのお付きだから、いろいろ遠慮してるんじゃあないかって!頭打って記憶もなくしちゃったって言うけど、たくさん食べて元気になれば思い出せますよ!」


 田舎のじいちゃんばあちゃんが提唱していた、「大飯(オオメシ)は万能薬」のテーゼは、全世界線で普遍的に通用する理論であるようだ。

 今は、そういう「共有できるもの」の存在ひとつひとつを感じることが、ただただ本当にありがたい。不覚にも泣きそうである。


 そんな満ち足りた思いを抱きながらの帰り道、ヨハン司祭が話しかけてきた。

 

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