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第四十四話 転入生 その2


 寮への帰り道。

 途中まで、フィリアと千早に同道した。


 「『キュビ』ってことは、キルトはかなり良い家柄なの?」


 「いえ、そうでもありません。」

 「斥候や強行偵察の家柄でござるしな。」


 「メル家は、本宗家だけが『メル』を名乗ります。分家は『ウッドメル』『ギュンメル』など、『メル系列であることが分かるような』、それでいて『メルそのものではない』家名です。郎党は、名前だけではメルかどうか分かりません。私の子孫も、『それらしい名前』を名乗る事になるのでしょう。」


 「嫁に出た場合は、相手の家名を名乗ることになるでござろう?」


 「それもそうですね。まあともかく……トワ家は、各家バラバラです。バラバラなのに、『家名を見ればトワ系であることが分かるはず。分からないような者は、政治的センスが無い』と判断するのです。まあ、全ての家で家系図を持っていると思いますし、特に問題はないようですが。」


 「基本的に『いけず』なのでござるよ、トワ系列は。トワを名乗らぬ癖に、家の格式にはやけにこだわるでござるし。」


 「立花も、各家バラバラですね。こちらは個人主義だから。ペンネームをそのまま家名にして、一家を立ててしまったりもします。それでも、名簿や家系図は、立花本家・レイナさんの家に置いてあるはずですよ。」


 「何やら綺羅綺羅しい家名であった場合には、『ペンネームを家名とした立花』と見て、ほぼ間違いござらぬ。」


 厨二王国(ジャキガンキングダム)の本丸を担う立花家。彼らが名づけるキラキラネームとは、いかなるレベルなのか。

 期待と不安に頭が痛くなってきた。



 「で、問題のキュビ家ですが。こちらは、全員が、『キュビ』を名乗ります。区別は、その前のところ、キルトさんを例に取れば、『K・G・』の部分で、つけています。家、すなわち系列としては『キュビ家』ですが、家名は『K・G・キュビ』だというわけです。……しかし、『情報をつかんだらしい』でしたか。」


 「『極東道に戦の予感あり。メル系列の各家に対して、それを告げることなく有望な若者を極東に派遣させるべし』という話ではござらぬか?いかなる経路で、いかなる情報が漏れたのやら。」

 

 「いえ、恐らくは……本当に情報を得たわけではないのでしょう。確実と判断したならば、それこそK・G・キュビ家や、同じような働きをするキュビの郎党が、もっと数多く極東道に入り込んでいるはずですから。」

 

 「そこは諜報の家柄らしく、センス良く何かを感じ取った。それだけのことに過ぎぬというわけでござるか?」


 「ええ。漏らすような不心得者は、メル家の身内にはいないはずですよ。姉と話し合います。」

 フィリアの目が細くなり、光を増す。


 何やら剣呑な雰囲気になってきたので、話題を変えてみる。

 「メル家とキュビ家って、仲悪いの?やっぱり武家同士だし、隙あらば滅ぼしてやる!みたいな関係だったりとか?」

 ……口にしてみて後悔した。これじゃあ雰囲気が変えられない。


 「ヒロ殿は恐ろしいことを申すでござるな。いや、恐るべきは記憶喪失による無知と言うべきか。知識はなくとも知恵はあるのでござるから、考えてみてはいかがか?……メルやキュビほどに大きくなれば、リスクを冒してまでこれ以上の拡大を図る必要はござらぬ。互いに既得権益を守るはずでござろう?まして北東と南西、担当も縄張りも異なる。わざわざ殴り合いをする理由はござらぬよ。」


 「警戒はしなければなりませんが、ね。」

 フィリアは、もう少し厳しい捉え方をしていた。

 「まずは中央での追い落とし。例えば朝敵・反乱者と認定して、一方的に滅ぼしにかかるという可能性などは、常に頭の片隅に置いておかないと。もう少し現実的なところとしては、中央の有力政治家、トワ系列同士の政争に巻き込まれる危険でしょうか?」


 まあ、とは言え。


 「トワの馬鹿げた政争などで、大切な一族郎党を失いたくはありませんから。それはキュビも同じ。父公爵が王都でキュビ侯爵ほか、有力者と会食や狩猟などをしながら談合して、互いにトワに乗せられないよう、うまくやっているはずです。」


 「ドミナ様のサロンも、大きな役割を果たしているのでござろうなあ。」


 「子供の頃は苦手でしたが、最近は考えが変わりました。ドミナ姉さまにもいつかお詫びをせねば。」

 

 「ドミナ様は気にしておられぬはず。そういうお方でござるよ。」

 

 「千早さんは昔から仲が良かったですよね。」

 

 「ウマが合うと申すか、天真会的なところがあるお方だったのやも知れぬ。ロータス姐さんに似ているとまで申す気はござらぬが。久しぶりに会いたいものでござるなあ。」


 「私達も少しはおとなになって、姉さま達に対する見方も、変わったかもしれませんしね。」



 よし、ここで雰囲気を変えるぞ!

 「そう言えばさ、フィリアって6人姉妹って言ってたよね。良かったら教えてくれるかな。」

 

 「言っていませんでしたか?何人かが話に出てきただけでしたっけ?上から順に、ソフィア、ドミナ、インテグラ、クレメンティア、ヴィクトリア、フィリアです。」

 

 「ソフィア、クレメンティア、フィリアが母を同じくしています。ドミナとインテグラも同母姉妹です。」


 「長女のソフィアが、メル家を継ぐ総領娘。次女のドミナは、王都でサロンを主催する、社交令嬢です。三女のインテグラは研究活動に没頭しています。四女のクレメンティアは、縁談を控えて、王都のメル館で花嫁修業中。五女のヴィクトリアは、メル本領にいると思います。何をしているか、分かりません。で、学園の生徒をしている六女のフィリアというわけです。」


 正夫人の娘だと言う3人は、どう言うべきか……、そう、古風で哲学的な名前だ。

 で、「第二夫人」・「第三夫人」(?)の娘だという3人は、武人的と言うか、強そうな名前。

 何となくだけど、誰が名づけの主導権を取ったのかが、そこはかとなく見えてくるような。


 「なんか凄そうだね。僭越な表現になるかもしれないけど、みんな『優秀』なんだろうなあ。」


 「もちろんでござる。それに加えて、……ヴィクトリア様には会ったことがないでござるが……、皆様美人でござるよ。特にクレメンティア様は、言葉にできぬ。」


 「会わせられないのが残念です。」


 「ああ、前に聞いた、大切な縁談だから、って話か。『男と会う』だけでも大問題になっちゃうんだね。」


 「ましてヒロ殿でござるしなあ。」

 「全くです。」

 笑い出す二人。

 俺はどういう扱いになっているんだ。


 まあこれで会話の流れを変えられたかな。

 そう思ったのが大間違いで。

 女性は決して、忘れてくれないものなのである。


 「それで、メル家とキュビ家の仲の良し悪し」でしたっけ?


 あっハイ。

 まあ、知らないと大問題を起こしかねないから、聞いておきたい話ではあるけどさ。


 「並び立つ武家の棟梁ですから、仲が良いとは言えませんね。もちろん、表立っての抗争などはしていませんが。千早さんがおっしゃる通り、犠牲が大きくなりすぎますので。お互いに『縄張り』に諜報員を入れておくぐらいには、ライバル関係にあります。あんまりうるさく手を突っ込むと、やや険悪になる。それぐらいの関係だとイメージしてください。……ですから、諜報担当の方で、『険悪にならないようにしている』ようです。」


 それって……。

 

 フィリアがため息をついた。

 「嫌な表現を使うと思いますが。『間引き』をするのだそうです。」


 「裏で数を減らしておけば、表立って手を突っ込んでいる人数は少なく見えると。険悪にならずにすむと。諜報部としても、『分かっておるのだぞ』と。そういうことでござるか。」

 千早も顔をしかめた。


 「キルトは大丈夫なのか!?」


 「学園の生徒を裏で消すなど、さすがにできませんよ。」


 「セキュリティ的にも難しうござるし、世間体的にも無理でござろうな。」


 学園に対する、王国社会の信頼の厚さを思い出す。

 ほっとした。


 「逆に言えば、『表立って痛めつける』ぐらいのことはあるかもしれません。」


 おい!


 「若者でもあるし、ケンカならば『ありがちなこと』として済ませられる、というわけでござるか。」

 

 「キルトさん、なんで新都に来たんでしょう?」 


 「それはやっぱり、スリルの神の采配……だろうなあ。何考えてんだよ、神様連中は。」

 

 「難儀なものでござるな。」




 翌日の始業前。


 千早の金属棒に興味を示していたミーナが、俺の腰にぶら下がっている朝倉に感づいた。

 浄霊師(エクソシスト)であれば、当然か。


 「何かスゴイね、その刀。どうなってるの?」 

 

 「幽霊が取り憑いてるんだ。霊気の出し入れもできるよ。」 


 「ちょっと見せてもらっていい?」

 

 朝倉を、少しだけ、15cmほど、鞘から抜いてみせる。

 さすがに教室で大っぴらに抜き放つのはアレなので。


 「……これは!……霊気をできるだけ抑えてくれる?」


 いいけど。

 そう答えて、朝倉に霊気を抑えてくれるよう、頼む。

 

 地金というか、なんというか。

 刀身そのものの姿が、はっきり見えるようになった。


 「やっぱり!金属と霊気が、融合してる!合金……は金属同士とか、物質とかとの融合か。適当な言葉が無いから代用するけど、金属と霊気の『合金』としては、理想的に近い状態じゃないかな、この刀。もう少し調べたいんだけど……あと、話も聞かせてくれるかな?」


 防具を溶かし出し、打ち出し、叩き出す両手。

 同年代の女子としてはかなりたくましい部類に属するその両手が、がっちりと俺の肩を押さえ込んだ。

 逃がさん!という強い意思が伝わってくる。


 「俺で話せることは話すから。朝倉、この刀のことだけど、朝倉の許可がある範囲内で……。」

 いつものように、どこか曖昧で頼りない俺の回答は、しかし、急な放送で遮られた。

 

 学園には、放送システムがある。霊気を変換して声を伝えるのだ。

 まあ、それはともかく。

 

 「緊急放送です!学園内に、テロリストと見られる集団が!うわー!」

 


 おい。

 「学校にテロリスト」って。

 三大厨二妄想のひとつ、いや、その筆頭じゃないですか!

 

 冗談だろ、って思うけど。

 だいたいからして、転生自体が冗談みたいなできごとなわけで。


 ありえないとは言い切れないんだよなあ。



 ふと、キルトと目が合った。

 ひょっとして……。スリリングな状況には間違いないわけだし……。


 「俺のせいかもな、これ。今まで他人を巻き込むことはなかったはずなんだけど……。」

 頭を抱えて、転校生がつぶやいていた。



 「第三十七話 『新都の歩き方』 その2」にて、メル家六姉妹・三女の名前を「テオリア」としてきましたが、これを「インテグラ」に変えました。

 「テオリア」では女性名として無理があったということ、また、六姉妹全員について統一を取れるほど「女性名の引き出し」を持っていなかったこと、が理由です。

 よろしくお願いいたします。(2015年11月10日付け)

 

 

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