表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

165/1237

第四十三話 武術大会 その6


 ベスト8に残っていた者の多くは、ナイト系だった。

 「武器は木製、防具は自由」となれば、重装備が強いのは当然かもしれない。


 年齢構成的には、15歳以下が3人。さも当然のごとく、全員が学園の生徒であった。

 その中でも、13歳の最年少選手・イーサンが敗退。

 それでも、まだ注目選手は残っている。注目選手としては本命と言うべき存在が。


 万緑叢中紅一点。そう、女性選手。

 準々決勝第二試合に、さっそく登場した。

 会場は大盛り上がり。


 「128選手の中のベスト8。4つの試合を勝ち抜いたということですよね。」

 「異能なしとは恐れ入ったでござる。」

 「確か、そもそも20人ぐらいよね、女性選手。」

 「職階が欲しいということは、軍人さんかしら?」

 「そうみたいだな、マリア。パンフレットによると、16歳で学園のOG。十人隊長を持っているはずだから、優勝すれば百人隊長か十騎長になれるな。」


 「女性軍人にとっては、ひとつの壁ですしね。大会で越えてしまおうということなのでしょう。」


 「どういうことよ、フィリア。」


 「十騎長は、騎士10人を指揮します。騎士には歩兵が随伴するので、100人からを率いるわけですから、これは立派な指揮官です。百人隊長も同様。ここから上は、統率の能力は必要ですが、武術の腕は必ずしも必要ありません。……しかし、兵卒、あるいは十人隊長の段階では、やはり隊の先頭に立つ必要が出てきます。武術の腕がないことには、手柄が挙げられず、上に行けません。」

 

 「なるほど、それで壁か。千早でもない限り、女性でそこを超えるのが大変なんだな。」


 「マグナム殿?どういう意味でござるか?」


 「いや、ほら。説法師(モンク)とか異能持ちでないと、ってことだよ。」

  

 「ここでもか。『必要としないヤツに限って、持っている』ってわけね。」

 レイナがため息をつく。

 「千早は卒業すれば百人隊長でしょ?壁を越える能力があるヤツが、最初から壁を越えてるわけじゃん。」


 「レイナがそれを言うかなあ。文才無くたって、立花の名でどうとでもできるのに。ため息つきたいのは私だよ。」

 早口で言うアンヌ。笑顔を浮かべている。


 「心にも無いことを。文才で私に負けてるなんてこれっぽっちも思ってないくせに。」


 「レイナさん。千早さんは実績を積んだから職階をもらえたのよ。」 


 「そうだったね、マリア。ごめん、千早。」


 「気に病まれるな。某も気にしてはおらぬゆえ。それよりも、かの選手でござるよ。おなごでここまで残るとは、いかなる装備にて、いかなる武術を用いるのやら。」

 

 パンフレットに目を落とす。

 名乗りは「サムライ」。得物は「薙刀」であった。セコンドには、何と、先日模範演武を披露していた刀術家の名が記されている。


 「学園で塚原に薙刀を習い、卒業後はあいつを師に仰いでいる。お前の姉弟子ということさ、ヒロ。レイナの姉弟子でもあるか。あいつ等の弟子なら、これぐらいは当然だ。しかし自分でセコンドにつくかね。よっぽど心配してるのか。……ヒロ、この試合はよく見ておけ。俺達の流派の薙刀が、どういうものか。」

 


 相手選手は、片手剣に盾装備のナイト。少し脚をひきずっている。

 やっぱりダメージの蓄積はあるよな。

 そう思って女性選手の方を見ると、これがなんと、ほぼ無傷。それだけ腕があるのか。


 彼女の装備は、下から順に、革のブーツ、すね当て、袴。

 上半身は、胴丸。肘にプロテクター、篭手。そして和風の兜。前立ては付いていない。

 どちらかと言えば軽装備。まさに「サムライ」であった。

 

 

 試合開始の合図があった。

 当然ながら、間を詰めようとする相手選手。

 一閃。薙刀というその名のごとく、薙ぎが入る。

 傷めているらしい、相手の膝へと。


 「バキイッ」と乾いた音が鳴り響き、粉砕された木片が飛び散る。会場が騒然となる。


 「これが薙刀だ。遠心力と技術が伴えば、あれぐらいの威力は出せる。膂力があれば、なお良いのだが。」

 真壁先生の解説は、淡々としていた。

 

 相手選手の前進の勢いが、やや鈍くなった。

 しかし彼女は武器が……と思ったのも束の間、セコンドについていた先生が、次の薙刀を投げ入れる。

 そういえば武器の持ち替えは自由だった。


 間髪入れずに、全く同じ軌道を描いた薙刀が、全く同じ部位を打ちのめし、再び木片を飛び散らせる。

 三本目の薙刀が彼女の手へと投げ込まれる。


 膝に三発食らった時点で、相手選手は立ち上がれなくなっていた。

 「よく耐えたな。見事なものだ。」

 そっちですか、真壁先生。 


 木製のハンデ・重装備の不利を跳ね除けるほどの威力。

 それが薙刀であった。


 それにしても。一体何本の薙刀を持ち込んだのだろう。

 


 順々決勝第四試合には、見知った顔が登場していた。


 (シァオ)(ファン)、学園男子寮の、寮長。


 穏やかな人だけど、思い起こせば「威」があった。

 やはり当然という気がしてくるから不思議だ。 


 ゆったりとした道服を着ている。

 名乗りは「武術家」。


 「あのさあ、武術大会に『武術家』って。説明になってないじゃない。」

 相変わらずレイナは手厳しい。 


 「武芸十八般。」

 李老師がレイナに笑顔を向けた。


 「説明のしようが無いってこと?『大概の武器は何でも使いこなせます』って?」

 

 省略型と、饒舌型。それなのにかみ合うこの二人。

 なんとも不思議だ。


 老師がこちらを見た。

 「これも『分かるような、分からないような』ってことですか?」

 うなずく老師。


 「老師、もしや。」


 「そうよ、千早。ワシの孫弟子よ。」


 (ファン)寮長、この試合では、棒を選択していた。

 千早と真壁先生の目が光る。


 相手は、ナイト。

 やはり、重装備は、強い。「守備の堅いは七難隠す」というわけか。

 

 得物は戦斧。短兵よりはリーチが長いが、棒ほどではない。

 間を詰めるべく走り寄ってくる。


 寮長、体を回転させるようにして、相手の脚に棒を打ち込んだ。

 いや、打ち込んだという感じではない。脚に「絡める」ように見えた。

 おかしい、しなったり曲がったりするような棒ではない。

 真っ直ぐな棒なんだけど、なぜか「ぐにゃあ」っと動いたような……。


 脚を取られた相手選手、転倒。

 起き上がろうと頭を起こすところに、突きを一撃。兜越しだが眉間に決まった。

 「ゴッ」という音がして、頭が床に打ちつけられる。そのまま動かない。勝負あり。


 会場、またも騒然となる。


 「大丈夫なんですか?」

 思わず老師に聞いてしまった。

 「気絶しとるだけよ。水でもかければ息を吹き返す。」

 

 「恐ろしいですね。これが老師の流派ですか。」


 「真壁先生にはまだ遠く及ばぬよ。あれでは千早にすら勝てぬ。だが長く続ければ、ワシぐらいにはなれるかもしれんな。」


 「有望なお弟子さん、いやお孫弟子さんですな。」


 「才は無い。だが、精進はしておる。そう聞いておるし、確かにそのようだ。」


 「(それがし)は学ぶところが多いと感じたでござる。」


 「やっと気づいたようだな。(シァオ)に感謝するとしよう。」


 


 準決勝・第一試合は、ヴァンサン・ビガールと、女性剣士の対戦。


 その使用法が長巻に似ると言う両手剣(ツヴァイハンダー)と、塚原流の薙刀とのぶつかり合い。

 これは俺にとって大切な試合だ。


 「ヒロ殿のようにカッコつけている丈夫(おのこ)となると、おなご相手ではやりにくかろうな。」

 「さすがにそこまでだらしないヤツだったら、準決勝まで残らないでしょ。」

 「二人とも、言いすぎよ。ヒロ君は実戦で手柄を挙げてるんだから、情けなくても彼らより『格上』なのよ。武術の上では。」

 「ヒロさん、これが日頃の信用というものです。常に心しておくように。」


 「散々よのう、ヒロ君。」

 「それほどだらしなくも情けなくもないと思うんだがな。塚原の弟子だし、それなりの使い手だぞ、ヒロだって。」

 「男子と女子とで、ヒロに対する見方が違うんだよな。……って、俺もそうか……。」


 いいから試合に集中させてくれ!

 マグナムは凹むな!


 

 常に先手先手を取って動いていたのは、女性剣士の方であった。

 ヴァンサンの身に届くか届かないかのところで、両手剣に阻まれる。

 

 先手先手を取らないと、勝ち目がない。

 彼女はそう考えているのだ。それぐらいは俺でも分かるようになってきた。

 

 先ほどの準々決勝で見せた太刀筋は、見事なもの。

 あれだけの腕を持っていてなお、ヴァンサンに勝つのは難しいと見ているのか。


 身に迫る薙刀を、両手剣で受けるヴァンサン。

 受ける間合いが、薙刀と両手剣を撃ち合わせる場所が、だんだんと体から遠いところになっていく。

 それだけ両手剣を振れるようになってきているのだ。


 八合めであったか。

 いい感じに振られた両手剣と、薙刀が真っ向からぶつかり合い。

 そして、薙刀が、折れた。

 前の試合同様、「バキイッ」という音を響かせて。


 直ちに薙刀が投げ込まれる。

 

 ここから先は、形勢が逆転していった。

 一合一合、撃ち合わされる間合いが、だんだんと、女性剣士の体に近づいていく。

 両手剣の風切音が、より大きく、より鋭くなっていく。

 それでも彼女は、よく粘っていた。なお十合は撃ち合っていたか。


 刀術で言う、つばぜり合いの間合いに両手剣が迫り。

 二本目の薙刀が折れ。

 

 そのタイミングで、タオルが、会場の床に落ちた。

 彼女の師匠が投げ入れたのだ。

 

 ヴァンサンの腕に、女性剣士の健闘に、万雷の拍手が送られた。

 

 「双方見事でござったな。」


 「ヴァンサンだっけ?彼、そんなに思い切り悪くは見えなかったけど。」


 「いえ、まだ分かりませんよ、レイナさん。あそこから先、さらに打ち込んで行けるかどうかこそ、でしょう。」


 「まあ、その前にタオルを投げ入れるのは分かる。やはりな、女子でもあるし。双方のことを考えれば、師匠とすればああなるさ。」

 塚原先生の、師匠ならではのひと言。

 

 「レイナ嬢、そういうわけよ。ワシが何も言わなくとも、皆が説明してくれたわ。……この試合はそうでもなかったが。どういうことかのう。いまひとつ分からぬのよ、ヴァンサン君が。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ