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第四話 神官 その1

 

 教会に着くなり、フィリアは口を開いた。

 「何が言いたかったのですか?」


 口にすべきかどうか、しばしためらう。

 言えない。少なくとも今は言うべきではない。

 それが俺の結論だった。

 あれが正しい行いなのか、霊にとって良いことなのか。正直、分からないから。

 トマスの身に、いやトマスの霊に何が起きていたか。子供に伝えて良いことではないから。


 「卑怯者。浄化の光を嫌悪するとは、やはり死霊術師(ネクロマンサー)……穢らわしい!」

 言ってしまって、自分の言葉のとげとげしさに、やや怯んだようだ。


 ヨハン司祭が、フィリアと俺の間に、静かに割って入ってきた。

 このタイミング。さすが聖職者、としか言いようがない。

 いたたまれない様子のフィリアを見ないようにして、部屋を後にする。

 

 

 教会の外には、小さな菜園があった。

 似つかわしい眺めだと思う。この村にも、ヨハン司祭にも。

 

 「ありがとうございます。やはり、まだフィリアさんには伝えるべきではない。私もそう思います。」

 ヒロさん、あなたも心を痛めておいでのようですが。そう、問われた。


 いまの俺は13歳だということを忘れていた。ヨハン司祭から見れば、こちらもまた、気遣わなくてはいけない子供だったのだ。

 

 今後のことを考え、伝えた。中身は20歳を過ぎている、ということを。


 そのようなことがあるのですか、と驚いていたが、すぐに得心がいったようだ。

 まあ、自分が13歳の頃を思えば。実際のところは、「おバカな男子」真っ盛りであった。

 トマスの家のおかみさんに、いや、比べられてしまったトマスの兄さん達に、謝らなくてはいけない程度には、普通に中学生男子だった。

 今の態度の13歳が実際にいるとしたら、むしろ気味が悪い。

 

 それならば、私からも、聞いてもらいたいことがあります。と、ヨハン司祭は切り出した。

 「知りませんでした。浄霊術は強制的なものではありますが、あそこまでとは。光を投げかけることで、霊が浄化される。それだけだと思っていました。私がしてきたことは、正しかったのでしょうか。」


 そのようなことを口にしながら、ヨハン司祭は、浄霊術を披露してくれた。

 光球が現れ、飛んで行く。


 ため息が出た。

 そして、笑ってしまった。申し訳ないけれど。

 フィリアの閃光に比べると、余りにもショボイのだ。

 山なりに投げられたゴムボールのレベルである。

 死んだことに気づかず、茫然としている幽霊ならば、ぶつけられて気づく程度。

 未練があって残っている幽霊ならば、司祭さまが光のボールを投げてくる……それも、一生懸命に何球も何球も投げてくるから、村の住民としては申し訳なくて、あるいは有難がって、昇天していくのだ。


 「司祭さま、心配の必要はありませんよ!」


 そう言って説明すると、何やら情けない表情になる。

 「私の未熟が、かえって己が悩みを除く救いになるとは……。」


 どうやら実際、「浄霊術の優劣など、神官にとってはささいなこと」なのかもしれない。

 その名言の主であるフィリアの口調には、やや別の何かが込められてはいたけれど。

 

 ヨハン司祭は、間違いなく、立派な神官だったのだ。

 


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