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第三話 浄霊師《エクソシスト》 その6


 「これは……あまりにも……」

 ヨハン司祭の声で我に返る。反射的に、フィリアに目を向けた。


 フィリアは、得意げな顔で、いや違う。全く嫌味のない、達成感に溢れた顔で。こちらを見ている。


 子供の無邪気さは、ときに癇に触るものだと聞く。初めて我が身にそれを覚えた。

 表情にも出ていたのだろう。

 他者に思いを投げつけてしまえば、そのままに我が身に返ってくる。

 怪訝な顔をしたフィリアのまなざしが、冷えたものへと変わっていく。


 「ご遺族の前です。」

 ヨハン司祭の声は、静かだった。おのが身にこそ言い聞かせるための、厳しく、苦しげな声だった。


 弾かれるように、身を正した。いや、正されてしまった。そのままに、トマスの両親へと向きなおる。

 その意味を瞬時に理解してしまい、赤面して同じように向きなおるフィリア。子供とは思えない聡明さに、なぜか少し、胸が痛くなる。


 目が合うことで、「あんがっ」と口を開けていた二人も我に返った。

 「ええ、ええ。あの子は天に帰ったんですね。これでいいんですよね。もう病気に苦しむこともなくて。部屋もなんだかさっぱりして。」


 「ワシにも分かる。なにが起きたかは分からんけど、確かにトマスは天に帰ったんだ。ありがとうございます!」


 かわるがわる感動を口にする。

 浄化の光は、ふたりには見えないもののようだ。それでも何事かを確信させるほどには、フィリアの浄霊術は、強烈だった。心を震わせる何かを帯びていた。


 「これでいいんですよね。良かったんですよね。」


 繰り返すおかみさんに、何かを感じたのだろう。おやじさんは、話題を変えるべく、再び声を張り上げた。

 「お礼!お礼をしないと!……って、おいくらなんでしょう?」

 あえて俗に流れようとしている。次の言葉を待つように。


 「あんた!もう少しねえ!ほんとうに済みませんねえ。でも実際、どうしましょう。そうだ、ベンさんに聞いてきますね。あの人ならいろいろ知っているでしょうから。少しお待ちいただくけど、ごめんなさいね。」


 ヨハン司祭の助け舟が入った。

 「本来、葬儀の際に併せて行われる儀式です。お礼のおこころざしはすでにいただいております。」


 そのままに伝える。

 ……ん?司祭は葬儀の前に亡くなっていたんじゃ?どうなってるんだ?

 「村で仮埋葬を行い、費用をあずかった上で、後任にお願いするんですよ。」

 他には聞こえないお答えが返ってきた。


 フィリアも続ける。

 「どうぞお気になさらず。いまはトマスのために祈りを捧げましょう。」


 帰り道では、フィリアとの会話はなかった。

 

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