第三話 浄霊師《エクソシスト》 その4
ややあって、隣室からフィリアとヨハン司祭が戻ってきた。
フィリアが口を開く。
「明日のおつとめですが、この村に残っている幽霊がもう一体存在するようですので、その浄化をしたいと思います。霊に関わることですので、ヒロさんもついてきてください。」
ヨハン司祭は驚いていた。
「私の死後に、病気だったトマス坊やが亡くなっていますが……現世に留まっていたのですか!」
司祭の言葉は驚きを含んだものだったが、フィリアの答えは冷静だった。
「小さな子だったのですか。霊は家の中にいるようです。司祭さまには感知できなかったのでしょう。」
「確かに、幽霊になってからは、戸別の訪問を差し控えておりました。穿鑿にあたるように思われましたので……。」
そう口にするヨハン司祭とは異なり、フィリアは家の外からでも感知していた。浄霊術にも、使い手ごとの優劣があるようだ。
と、そういう感想を抱いたことに、勘づかれたのだろうか。
「浄霊術の優劣など、神官にとってはささいなことです。」
少しだけ、とがった声であった。
「ヨハン司祭は本当に立派な人でした。これまでのおつとめぶりが、村の皆さんからの信頼から感じられます。」
少しだけ、頬が紅潮していた。
おべんちゃらを言えるほど器用な子供でないことは、2日接しただけでも十分に分かる。フィリアの感想は心底からのものなのだろう。
俺の方からは、ヨハン司祭から聞いた話を伝えておいた。霊も浄霊術を使えること、霊同士はお互いにコミュニケーションを取れること。
フィリアも初耳だったのか。
「これは……」
何か深く考え込んでいる。
やがて顔を上げ、俺を見た。
「ともかく、明日は浄霊を行います。」
お付きである以上、指示に従うほかはない。