第四百四十話 百花繚乱 その2
「で、アイシャ殿下がどうしたんフィリフィリ……でいいよね?」
「男性恐怖症だそうです」
「あー、何となくだけど、さ。はしょりすぎじゃねえのそれ?」
ここでもジャスミン女史はなかなかに鋭かった。
エシャ子女史のご指摘にもあったがフィリアはいろいろと簡潔に過ぎるのだ。
呼び名に閉口したにせよ、そこはもう少し口を開いてですね、先日の会見今後の用件その事情を教えていただかぬことには私としても為すすべがないのであります。
「子供のころ好き放題やってきて……クリスチアンさんに馬乗りになったりとか……今さら澄ましかえるのが恥ずかしくもあり、男の人とどう接したら良いか分からなくなった、とのことです」
つまりおてんば娘がコミュ障におなりあそばした、と。極端ですこと。これで結婚したり子が生まれたり夫に先立たれでもしようものならその度ごとにどう変わるやら。
「それはフィリアが適任だわ、さすが王后陛下。なのにあんたは黒歴史をバラしたくない一心でヒロを呼びつけたと。地味で評判の男だからリハビリに都合良かろうと……待てフィリア、その話は!」
レイナもフィリアも負けず劣らず活発であったとは聞いているが、ならば先に相手の名を出すが勝ちというもので。なおフィリアが何を暴露しようとしたものか、そこは聞かぬに限るのである。
「まあまあ二人とも落ち着いて……それでこないだの会見っても、マジ無理でしょ。ヒロっちだって王女殿下の手前バチクソに気張るだろうし」
ええ、私めもこれでキラキラお貴族の若手代表など務めておりますもので。
必要とあらばウソでもスカでも臆面無くカッコつけるぐらいのことは、ねえ?
「まさしく、御簾越しでもヒロさんでも男性との対面には違いなかったというわけです。気恥ずかしさに耐えられず、距離を開け後ろを向いてもらったところが」
俺の存在、発言、その機会。全て無視され女子三人で話が回る。
こりゃ気楽だわー。私の扱いはそれで良いので、いつまでもその調子でお願いします。
「そこから先はウチも聞いてる。抜き手も見せず……ってどういう意味? あれはマジでエグかったって噂だけど」
せっかくアゲるならそこは颯爽とか、もう少しこう……あるだろうと。
ヤバイエグイで流さないでくれと。
「つうかアイシャ殿下のそれ恐怖症ってよりはさ、発情期じゃね?」
ヤバイの他にも言葉をご存じなんですね。
でも思春期とか、やっぱりもう少しこう……ありますよね。
「良いことじゃん。陛下やお付きから見ればまだまだ子供だろうけど、心配いらないって。ウチらあたりが遊びに行けばそのうち収まるとこに収まるっしょ。だから言ってんじゃん、ここは後宮なんだから。ババ……」
「それではこのあたりで。立花典侍さま、けっこうなお茶をありがとうございます」
機を見るに敏、そのスキルが求められるのはなにも将軍閣下に限らない。
「迷惑かけたねレイナっち。ご一緒願えますか中隊長カッカ……後宮に入ったからにはいちどやってみたかったんだよね、近衛中隊長を引き連れる、これぞキラキラってやつ……フィリフィリも一緒にどう? 局に寄ってってよ」
短くなりましたが、ここでいったん区切ります……




