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第四百四十話 百花繚乱 その1



 「アイシャ殿下のご要望って?」


 しゃべり出すレイナの鼻先にフィリアの扇が伸びていた。

 

 「外で騒ぎが起きています」


 ほどなく駆け込んできたメル侍女団がひとりによれば、次席典侍「奥の母ちゃん」ことカリンサさまのお局にカチコミ……お局の前でデモ行為があったと。


 その一報を降り立った庭で聞き、さらに耳を澄ませば何やら物騒な言葉が聞こえてきた。

 「タイマンしようぜ」って、なにそれぇ……。


 「何がカーチャンだ、しょぼいこと言ってんじゃねーぞ」

 「ウチらはキラキラすんのが仕事だろ」

 「男衆を見ろや、体張ってんぞ」

 「サボってんなら典侍のポジよこせ」


 次々と繰り出される言葉の刃……というほど鋭くはないか、乱暴なだけで。

 ともあれ耳傾けてしかるべきところも多々含まれてあるような。


 「○○○が消耗品だつっても使わなきゃ意味ねーだろ。擦り切れて枯れるまで、聖上にいらないって言われて追い出されるまで、ウチらは女でいなきゃいけねーんだよ」


 消耗品。投手の肩や中高年の膝がそういうものだとは聞き及んでおりますが。体の部位には違いないですし。でもそれ本当なんですか。わたし、気になりま……イテテテテ。


 「いやその、公爵閣下の膝は大丈夫かなって」

 

 だからフィリアさん耳ひっぱらないで痛い痛い。

 昔と違って身長に差があるんだから。


 「『消耗品』から離れなさい。騒動が起きていること確実、情報としてはそれで十分」

 

 とにかくやめさせてくる……と、もうひとつの小柄な影が庭から消えて小半時。

 立花典侍さまのお局には小股の切れ上がったあねさんが招かれていた。

 

 「ウチは間違ってないし。男がここにいるのが悪い」


 失礼しましたと口にしておく、どうにも納得いかないが。


 「中隊長カッカにおかれては……ヒロっちはどっちの味方?」


 レイナに何か吹き込まれるや即座に呼び名が改まる。

 この人もぐいぐい詰めてくるんですね。俺は距離を取りますけど。


 「えー。春の閑温、夏の熱情、秋の清涼、冬の静寂……時に花咲きまた風も吹き、とりどりの趣に王国の栄えを思わずにはいられません」


 「バカにしてんだろ、なぁ……なに、レイナっち……『いろいろな人がいて良いと思う』? ズルくねそれ?」

 

 ダイバーシティだぞ。コミケのついでに寄ったことあるから僕はものすごく詳しいんだ。

 ともあれ聖上も守備範囲、もといお心が広いなあ……いや、あるいは。カリンサさまもいわゆるギャルやヤンキーと言った趣の方でもあることだし。

 なおそのカリンサさまだが、そこから「若いカーチャン」にジョブチェンジした。しかし目の前の現役ギャルじゃなくて掌侍ジャスミンさまにはそれが納得行かぬらしい。


 (それで済ませちゃダメだよヒロ君)

 (一緒に悪口言ったことにされちゃう)


 「カリンサさまだってその……まだ『引退』されたわけでもないでしょうに」


 「ああなっちゃったら早いよ。アイツの局、まるで託児所じゃん。侍女も保母さんにしか見えない」


 先ほど来、口は悪いがなかなかにその。掌侍ないしのじょうは伊達じゃない。

 

 「そもそも典侍の仕事かって話。ついでだから言わせてもらえばクレシダ、あいつ最悪。奥はガッコーじゃねえんだよ。事務ならレイナっちひとりで十分、後宮なんだから『女』が前に出てなきゃダメじゃん。みんなもっと王妃殿下を見習おうよ」


 そうしたわけで掌侍ジャスミン女史、数少ない王妃閥の一員として知られている。

 「やべぇ、王妃さま若ぇ! キレイ! アンチエイジングとか教えてください!」

 初対面からこれだったそうな。狙ってやってたらそれこそやべぇヤツだけど……いや、化粧じゃなくて経験厚きあの次席掌侍さまが見逃すはずもなし、これは天然自然のものに違いない。

 

 「それにしても『追い出されるまで』とは、その。ありえぬところかと。後宮を出ても縁の方々が必ず、いえ争ってお迎えにあがるものと」


 気になったのはそこなんです、お分かりいただけますかフィリアさん。

 消耗品うんぬんじゃなくて後半部分、揚げ足とられかねないその言動がね?


 「言葉のあやだってば。ヒロっちマジメだねー。気に入った、ウチに来て侍女を……」


 これもまた先ほど来より覚ったところであるけれど、ジャスミン女史は遮るも遮られるも気に留めない。気易さ話しやすさは出頭ものかと思われる。


 「じっさい部下がお世話になっております。女官の皆さまのようには気が利かぬ我ら近衛、ご迷惑などかけておらねば良いのですが」


 いやほんとうにウチのアホども……若き俊英がナニ軒昂と始終出入りしているもので。 

 それというのもジャスミンの局は多くの侍女を抱えている。またその全員が気さく(・・・)なことで知れている。


 「まあね、ウチの局は明るく楽しく元気よくだから。で、迷惑? そりゃエミールに決まってんじゃん。アレ出世させたらヤーバイでしょ。後宮出禁にできない? ……だいたいさあ、右京のガキだって同じ目にあってるつーの。それでも平気で生きてるわけで、『僕はそいつらよりも弱虫です』って言ってんのと同じじゃん。いつまで腐ってんだよ、ウチらと同じでキラキラすんのが仕事だろ」


 なるほど立花父娘と仲が良いわけである。

 が、出禁にはできません。出世もします。侯爵の孫ですので……と、それ以上に。


 「あー、でも根性ひん曲がったヤツに限って仕事はできるし勝負事に強いもんなあ」

 

 つくづく鋭い女官であった。次席掌侍とお友達になれるわけだ。


 「そうだ、もう一つ。シメイがさー、局内ウチで二股かけちゃって……気にしなくていいよレイナっち、やり合ってお互い納得したから。ただ同じ局のまんまはマズイじゃん。だから片方レイナっちのところに移籍させてくれないかな、従兄弟だし通いやすいっしょ」


 激昂するレイナを正直で良いよねーのひと言で済ませてしまうのだからこれけっこう大物だと思う。なにげに騒動収めているし、よそに要求通しているし。



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