第四百二十五話 誠意…………? その1
「ノーフォーク家からの金貨500枚、お聞きしても?」
「北西の軍港で税率が引き上げられた件と絡むんだ」
兵部卿宮さまが掌握した(セシル家を排除した)港で、入港料が――利用者からすれば税でしかないが、説明の都合上――3割ほど引き上げられていた。
「応じて王都北の商港で入港料を2割引き下げた件ですか。エッツィオ叔父が感謝していました」
航路コストの上昇を抑えるために。
だが言うて中央への上納を削る権限など俺は持っていないわけで。
少し細かい話になるが……寄港の船が払う料金をかりに100として、その内訳は以下のようなところ。
40がいわゆる実費、受益の対価。
40が王国への上納、狭い意味での税にあたる。
15が現地公務員また港湾実務従事者への「超過手当」。
5が周辺整備にかかる費用。
現在、北の商港では二項目を――貴族の裁量で削れるところだが――目一杯に削っている。
「超過手当」は仕切りのセシル家が他部門から資金を融通することにより。
「周辺整備費」についてはカレワラ家がその受け取りを辞退することにより。
「この措置につきノーフォーク公爵家から『賛意』をいただいたというわけ」
北西国境ダーマ州を差配しているだけに北周り航路の「値上げ」を是認できないのだ。
そして国境と言えば西隣、A・G・キュビ家とA・I・キュビ家にも迷惑がかかる。「値上げは南周り航路を優遇するものだ、家長者争いへの介入には断固抗議する」とか、そんなこと彼らだって言いたくもないだろうと。
そうしたもろもろ懐事情は航路北端エッツィオさんも同じこと、ならばカレワラ&セシルに「あいさつ」ぐらいはしておいてもバチは当たらない。
「秋の戦でメル家を排除したことについては納得していますけれど」
パーティ券をフィリアに「お譲り」しておけば避けられた事態だが……辺境伯としては「ノーフォークに出遅れた」かたちとなる。
「この件を任せた部下にも考えがあったんだろう」
責任をかぶせているわけではない、念のため。
調べりゃ割れることを隠しても仕方ない、非難は俺で受ける。
「近衛中隊長がメル家に頼るべきではない、理屈ですね。ただ、それを言うならひとりの部下に頼りすぎるのも……複雑な事情はヒロさんで『飲む』としても」
割れているのである、ランツのあれこれ。それはもうガッバガバに。
「確かにね、ここのところ彼に頼りすぎている。誰かもうひとり『こちら向き』のスタッフがほしいところだけど」
(御内帑と内朝予算の件でお手数をかけた)ジーコ殿下からの打診は断った。
美術品の買上げはその代償という意味も……と呑気に説明している場合でもなく。
「商都から呼び戻されては?」
先ほど来、やけに冷えると思っていたのである。
「タレーランをかい?」
ガバガバでもバレバレでもシラを切るのが……なんだ、「誠実」というものであろうと。
「ほどほどになさいませ、車内は狭いのです」
ナシメント邸で乗り込んできたウォモ夫人ことクレア・シャープの捌きには相変わらずキレがあった、仲裁の体でこちらの防禦ばかりを止めにかかるあたりなど特に。
短いですが、何より(投稿間隔の)リズムを少しずつでも取り戻したいので……
ダーマ州:モデル但馬。鉱山地帯という設定。ノーフォーク家が「差配」している
A・G・キュビ家:モデル石見・長門あたり
A・I・キュビ家:モデル因幡・伯耆あたり
なお、人口規模はなんとなし面積に比例しているものと設定しております。
エッツィオ:モデル越後あたり
 




