表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/1237

第三十三話 初陣 その3


 会議終了後は、各隊ごとに話し合いをしていたのだが。

 追捕副使の俺は、隊から離れて全体の統括・打ち合わせを担当することとなった。

 

 部隊を展開する都合上、洞窟前を各隊の担当者と共に検分する必要があるし。

 夜明けに開戦するためには、夜中に丘を登るわけで、ルートの安全性を確保しておく必要もある。

 と、言うわけで。

 

 遊撃部隊と各隊の担当者と共に、再び丘を目指した。

 登山路は、しっかりと確保されている。足元の危険は無い。

 敵は完全に封じ込めているので、伏兵による横撃の危険も無い。

 山中に隠れていると見られる二人についても、歩哨を立てれば対応できる。問題ない。 


 丘の頂上は、ゆるやかなすり鉢状をしていた。

 一番高いところから少し下ると、広場になる。心持ち下り坂。

 広場の中心に、盗賊が建てた武術道場の痕跡があった。包囲部隊が遠巻きに焼き討ちし、片付けたとの報告は、事前に受けている。

 そして広場の奥に、件の洞窟。


 3つの部隊、100人を配置するには十分な広さがある。

 先陣2部隊の配置場所は、すぐに決まった。

 後衛となる討伐部隊の配置は……。やや前の方に押し出しておき、圧力を強めるべきか、やや後ろに配置し、懐を深くしておくか。

 

 「十分なスペースを確保するために、後ろかな。」

 

 「これは正使さまに諮ってから決めた方が良いかもしれませんよ。」

 「いずれであっても、我々が殲滅してご覧に入れます。当日に変更があっても、こちらは問題ありません。」



 丘のふもとに戻り、幹部を集めて報告。

 特に問題はなさそうだ。

 

 後は、明日に備えて早めの夕食。

 しっかり食べて休んでいると、匂いにつられたのか、野鼠が出てきた。

 何の気なしに寝転がって眺めていたら、その後ろから蛇が現れた。野鼠を狙っている。

 少し驚かされた。草に紛れてしまうと、なかなか気づきにくいもんなんだな。

 と、その蛇がのけぞり、力なく倒れた。背中に短刀が突き立っている。

 ヒュームが、俺の後ろから足音も無く近づいていたのだ。


 「蛇でござるか。山に潜まねばならぬ遊撃隊にとっては少々厄介やも知れぬ。まあ、やりようはござるが。……ヒロ殿、我等は先に寝ませてもらうでござる。各部隊よりも先に出立する必要があるゆえ。」

 

 ヒュームは去っていった。

 しかし、さすがはニンジャ。まるで気配が無い。もし襲われていたのが俺だったら。

 ふと、寒気に襲われる。ニンジャが恐れられるわけだ。

 「修行不足ね、ヒロ。まあ安心しなさい、ジロウもあたしも気づいていたわ。もしあれがヒロに向けられたものだったら、あたしたちが即応してるわよ。」

 アリエルの声が聞こえた。本当に頼りになる仲間たちだ。 


 「お、蛇か。お前らにはまだ必要ないだろう。俺にくれ。」

 真壁先生が近づいてくる。先生だって、さすがにまだ早いんじゃないでしょうか。


 「何だ、その顔は?お前も食いたいのか?」


 今のできごとを伝えた。

 ヒュームに気づけなかった、ということを。


 「ハハハ、若いなあ。いや、悪くない。ヒュームも塚原の弟子だったな。そうやって競い合っていけ。」

 蛇を調理しながら、笑い飛ばす真壁先生。


 「おそらくは、ヒュームも同じことを考えているさ。その気は無くとも、今なら行けるか?という考えが、思わず頭に浮かんでしまう。それが武人よ。で、おそらく幽霊に気づかれて。己の未熟に心中で舌打ちする。」

 

 「確かに、幽霊は気づいていました。」

 

 「だろう?異能頼みになるのは問題だが、異能も『込み』でこそ、『その者の能力・器』。武術の腕を上げるのももちろんだが、異能を伸ばすことも忘れるなよ。まああと、恐れても良いが。友人だ、という気持ちを失わないようにな。近いところで競い合っている者同士がその心を失うと、深刻な問題になるぞ。武人にはありがちなんだ。」 


 異能を伸ばす、か。

 ヒュームも、異能ではなくとも、忍術を磨いているんだろうな。

 それに、俺がニンジャを恐れたように、ヒュームも死霊術師(ネクロマンサー)を恐れているかもしれない。

 そっちの感情をエスカレートさせて、良いことが起こるはずがない。

 真壁先生が言うように、行き過ぎたライバルみたいになりかねない。剣豪小説になってしまう。


 それはそれとして、もうひとつ発見があった。

 「蛇って、案外うまいんですね。」

 

 「だろう?ただ、眠れなくなるかもしれないから、一切れでやめておけ。」

 

 「お、真壁先生、蛇ですか?」

 ベテランの武人たちが近づいてくる。

 「気づかれてしまいましたか。これは仕方ない。おひとつどうぞ。」


 「いやしかし、明日は我々の出番は無いでしょう?こんなものを食べてしまって、どうするのやら。」

 「まさに。発散の場がありませんよ。おっと、侍女殿に睨まれてしまった。」

 「蛇を囲んでこんな話をしている時に、そちらを向くのは少々……。侍女殿、こやつと我々は違う。どうぞ誤解なきように!」

 「火に油を注いでどうするんだ。見ろ、怒って引っ込んでしまった!」

 

 さすがにこのノリについて行って良い外見年齢ではない。 

 そっと退散する。


 宿泊地は、「小山」のふもと。

 周囲の警戒は、「小山」を包囲しているメル家郎党が、人数の一部を割いてくれている。安心していられる。

 

 そういうわけで、早々にテントにもぐりこんだ。

 ヒュームはもう寝ている。


 ノブレスは眠れないようだ。

 「怖くないの、みんな?」

 そう、聞いてくる。


 「まあ、慣れだよね。」

 李紘が答える。


 「いやだなあ、勘弁して欲しいなあ。」

 ノブレスのぼやきは続く。


 「なら何で参加したんですか。」

 ドメニコが聞きとがめる。

 「ノービス家はメル家の郎党ではないですし、無理することはないでしょう?」


 「女神というか、コイツが話を持ってきちゃったんだよ。」

 ノブレスが、鼻ちょうちんを膨らませているラスカルを指差した。

 「パパもママも喜んじゃって。もう、引くに引けなくなって。」


 「そういうもんだよね。でも、それだけ喜んでもらえているなら、ここは一つ、手柄でも立ててやるー!って、そう考えてみたら?」

 とは、李紘のアドバイス。


 「僕は何をやってもうまく行かないから。とてもそんな気にはなれないよ。」


 「ご謙遜。二人とも、騙されるなよ。ノブレスのボウガンの腕は、一流なんだ。」


 「同じ遊撃部隊として、頼りにさせてもらうよ。」


 「本隊に割り振られた僕には、手柄の機会はなさそうです。現地の二部隊の方が前に出るし。というか、僕が手柄を立てるというのは、嬉しいやらマズイやら、なんですよね。だって、ナイトが手柄を立てるのって、主将を身を挺して守った時ですから。それだけ苦戦したってことになるわけで。」


 そういえばそうだな、と思ってドメニコに目を向ける。

 半ば……というか、十分以上に武装していた。


 「そんな格好で、寝られるの?」


 「ええ、慣れですので。装備が多くて装着に時間がかかりますから、あらかじめこうしておくんです。それに、何かあった時には即応して主将を守りに行くのがナイトですから。常に武装していることを求められるんです。それではお先に。おやすみなさい。」

 

 すぐに寝息を立て始めた。

 この若さで、自分の役割の意味をしっかり理解している。ドメニコも立派なもんだ。

 どこまでもリラックスしている李紘と、緊張しているのにだらしないノブレス。弓使い系の共通項か?

 そういう「仕事」ごとの違いってのもあるもんなのかな。


 そんなことを考えながら、俺も眠りについた。

 

 緊張していたからだろうか、馬に乗って移動して、会議を重ねて疲れが出たからだろうか。

 浅い眠りの中、夢を見た。

 

 洞窟の前に、ひとり佇む俺。

 洞窟の口が、大きく広がって、蛇になって、迫ってきた。

 必死に逃げる。

 後ろで地響きを立てて蛇が倒れた。振り返ると蛇の背中に刃物が突き立っている。

 ほっとしたところで、首筋に刃物が当てられて……。

 飛び上がったところで、目が覚めた。


 嫌な夢だ。

 叫び声とかあげて、迷惑をかけてないだろうな。

 周囲を見回す。ヒュームも、李紘も、ノブレスも寝ていた。

 ドメニコの姿は無い。


 どうやら大丈夫だ。

 ふうっ と息を吐いて、テントの天井を見上げる。

 

 何でこんな夢を見たんだろう。

 何で。


 !?


 フィリアに伝えなくてはいけない!

 寝起きでダッシュするのはキツイけど、それどころじゃない。

 

 「ヒロさん!?」

 途中で甲冑に呼び止められた。……ドメニコか?

 悪いが今はそれどころではない。


 「止まりなさい!」

 テントの直前で、仁王立ちになっているクレア・シャープに阻まれた。

 「どういうつもりですか!場合によっては……」


 そりゃそうだ。

 女性陣のテントに、全力ダッシュしてくるヤツがいたら、そりゃあ止める。


 2歩下がり、息を整え、報告する。

 「追捕使さまに、火急お伝えせねばならぬことがあります。作戦上、考慮しなければならない問題を見落としておりました。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ